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[層樹林]があるここらの地域は、主に“原生種”と呼ばれる生き物が生息している地域だ。“原生種”はおそらく、現実の生き物をベースとして、一定の遺伝子改変が認められる個体。その変化のズレに、この世界特有のルールも含まれる。
で、向こうに居るあの首無し馬はなんだって話。頭のない哺乳類はどう考えても通常でなく、代わりの頭部らしき器官も、埋もれた頭の中に脳などの臓器が移動しているようにも見えない。ただ、それは“通常の馬から頭をなくして、それでも成立している”生物に見える。
今見ている限り、あの馬からは、“原生種”的な匂いがしていない。
“原生種”でないなら種族は何か? 種族という概念があるのなら、この世界のどの生き物も、何かしらの種族に該当していると考えていいだろう。
例えば、首なしと言えばアンデッド……不死やゾンビなんかの種族には、この世界ではまだ一度も、類似の生き物を見ていない。まぁ見ていないだけで、この世界には存在しているのかもしれないが。
“原生種”以外で、俺の知ってる種族だと、例えば“闇のもの”や、“幻霊”なんか。あの馬が“闇のもの”なら、乗っ取り攻撃を想定しなきゃいけないが、あの馬には、ゴールデンちゃんやほかの個体に見られたような、なんというか“ドロドロした感じ”がない。
“幻霊”。今のところ、それがあの馬に一番合っているように見える。高エネルギー形態と通常の形態。どこかの空想絵本から飛び出てきたかのような、俺たちに近いようでいて、異なる形の存在。
向こうから近づいてくるあの首無し馬が“幻霊”だというのなら。俺たちはまず、“幻霊”たちが操る、高出力の何かしらのスキルの発動を警戒していないといけない。
馬は、足首から上に噴き出す炎を強め、何もない首に灯る青緑の炎を揺らしながら、地面を走ってこちらに向かっている。狙いはまず俺だ。
地上型なら基本“空中シューズ”で大体の攻撃は避けられる。時間稼ぎだけなら可能なはずだ。レッドパールがないとは言え、ブルーバードのロケット加速+鉄の付け爪の一撃は強力だ。幻惑を見破る手段がなければ、その攻撃はほぼ避けられない。
俺が、走り来る馬を見ながら、空に逃げる準備をしつつ、算段を立てていると。
馬の炎の勢いが今。
急激に強まった。
間に合う? 間に合わない? 俺は懐に手を入れ、それを握りしめる。今から足で踏んで跳び上がっても、空中シューズは“空中を足場に出来る”スキルであり、そのスピードは、俺が走る速度と一緒。よって空中シューズによる回避はそこまで素早いものじゃない。空中シューズでは回避が間に合わないと判断。
懐の中で、呪符が光を強めていく。急激の炎を吹き荒らす、その中心の黒い馬が、まっすぐ猛スピードで俺の元へと突っ込んでくる。
奴の放つ風圧が、俺の鼻先に触れる。俺の視界を、青緑色の、明るい白い炎が焼き尽くしていく。
視界が切り替わった。外じゃない、そこは俺の指定した空中、壁のすぐ横だ。俺は刀を抜いて壁に引っ掛け、そのまま片腕で刀の柄にぶら下がる。
下を見れば、一直線に吹き流れる青緑色の炎が見えた。首無し馬はその先をまっすぐ突っ走って壁にぶち当たる。炎もまた、その馬を追って壁まで流れ、壁に当たって壁に沿って大きく広がっていく。
とんだ暴れ馬だな。あの勢いなら、普通に俺が一デスまで持っていかれていたかも。あの高出力スキルはまぁ、ほぼ種族は“幻霊”で確定でいいだろう。その力の使い先が猛突進とは、かなりの脳筋タイプだ。サラマンダーのように広範囲を焼くタイプなら、俺は逃げ続けられなかったし、御しやすくて助かりはする。
初見は避けた。種が割れれば、俺で反応できない攻撃でもないだろう。“幻霊”ならば、ガス欠による退場も狙えるはず。“瞬転”の呪符の在庫を一つ消費。あの突進だと、レッドパールで強化したポイズンアントも、一撃でないにしても大痛手をくらうはず。俺の方で出来るだけ引き付けておかないと。
さて、あの炎は“燃料”以外に、攻撃の手段としても使って来るだろうか。初手でまっすぐ突っ込んできた辺り、多分速く走る以外の使い道はないんじゃないだろうか。
炎が晴れていき、壁の下できょろきょろと、見失った俺の姿を首無し馬が探している。俺はまだ死んでないよ。壁の上なら、あの馬の攻撃も安全に避けられるだろうが、俺はあいつの注意を引き付けておく必要があるので、刀を壁から抜いて地面に落下する。
「こっちだぞ!」
俺の声に、首無し馬がこちらを振り返った。ブレーキは踏んだだろうか、かなりの音で壁に衝突していたが、しかし壁への激突で、あの首無し馬がダメージを食らった様子はない。本体も相当タフだな。
しかし、上手く誘導すれば、敵の群れもまとめて一掃できるんじゃないだろうか。ポイズンアントまでいかせず、しかし魔物の群れを巻き込んで爆走させるとなっては、ちょっと繊細な誘導が必要かも。
「“ビジョンリンク”」
ブルーバードの視界が共有される。彼女はまだ、首無し馬の様子を見ているようであり、距離をとって空を飛び大きく回っている。まぁ今回はブルーバードが身を挺して一撃を入れに行くメリットが薄い。レッドパールなしでは防御力も下がっている。
俺の視界は二人分になり、向こうの首無し馬を見ながらにして、上空からの地面の様子が一望できている。視界は空を飛んで常に移動しているので、その体の動きに俺本体の動きが引っ張られないように注意だ。
向こう側では、相変わらず派手にぶつかり合う音、連鎖する爆発音が鳴り響いている。ブルーバードの視界から確かめてみても、目立った問題は起きていない。敵の数は順調に減り、二人もまだまだ余力を残している。
樹木が絡まってできた壁、床、天井。壁や天井の隙間からは、白くて明るい光が漏れてきている。ここは直方体の大きな一つの部屋。床にはたくさんの魔物たちがひしめき、特に片側に魔物たちが集まり、二つの影を執拗に追っている。
もう片側では、魔物の群れはまばらになっており、そして、まるで譲られたようにスペースが空いている。魔物がたかって派手にやりあう、その反対側では、静かに、一体の首なし馬と、地面に俺が立って向かい合っている。
さて。俺の直近の目標は、この首無し馬のヘイトを買い、ポイズンアントにその攻撃を向けさせないこと。全体目標としてはこの広場の魔物の群れ全体のせん滅を目指している。
ブルーバードとマルメロはあちらで敵の数を減らすことに注力しており、ブルーバードは手は空いているが、レッドパールを未装備なんで防御が少し危うい状態。ゴールデンちゃんは戦力としてあてにしていない。今、使える手札は俺と俺の手持ちのみ。まだ後に対ヴァンピ戦を残している以上、ばかすか資源を消費しながらの戦いもやりたくない。
現状把握は済んだ。ゴールデンちゃんはまぁ、頼ってもいいのだが……まぁ、俺だけでどうにかなるだろう。
俺は“カードホルダー”にセットしているカードを入れ替える。今の状況で、マルメロから“黒牛魔”を引きはがして他を使う必要性は薄く、つまり手持ちのカードは俺で使い放題だ。
首無し馬は地面を踏み鳴らして、こちらに体を向けて頭のない首を振っている。




