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ブルーバードの視界から、空間全体の状況を把握する。ブルーバードは無理せず突っ込まず、悠々空を飛んでいる。それでいい。
魔物の群れは、二人の成果によって着実に数を減らしつつある。首無し馬は俺に向かって直進して攻撃を仕掛けてきて、同時にすさまじい勢いと炎で直線状の色々を吹っ飛ばしていく。
誘導して敵の群れに突っ込ませることも考えたが、群れの手前側は密度が薄く、かと言って濃い側はちょうどあっちの二人が居る場所だ。余計なリスクを払うよりも、ただ俺に注意を引き付けて消耗させた方がいい。
“タイヨクのカード”を、“カードホルダー”にセットした時のスキルは“飛翔”。巨大な片翼が現れ、俺の体を持ち上げ上昇させる。“綿毛鳥のカード”の“空中シューズ”と効果は似ている、が、こっちはクールダウンが5秒ほどであり、“空中シューズ”は15秒ほど。
“飛翔”を連続させれば、頑張ったら飛べる。しかし着地へのクッションがない。いつもは、激しい動きも必要なく、小回りが利く“空中シューズ”を装備していたが。
“空中シューズ”では、あの馬の動きに対応するには遅すぎた。代わりに、“飛翔”をあの突進に合わせてみれば。
首無し馬は、とてつもない炎と風を背負いながら、一直線に俺へと突っ込んでくる。“飛翔”の翼を構え、空中に羽ばたけば、その突風の勢いに飲まれて俺の体は大きく浮き上がる。風に舞う木の葉を手で捕まえるのが難しいように、その小さな馬の体が俺の体を捕らえることは難しい。
首無し馬は、一度、二度と、俺への突進を繰り返し、広い空間を往復する。苛立ちやほかの感情の色は見えず、馬はまた凝りもせず俺への突進を繰り返す様子だ。
頭は、そんなに良くなさそうか。
四つ角の部屋の、魔物の群れの着実に数を減らしていく。首無し馬は、ひたすら俺への突進を繰り返し、頭のない首や足首から噴き出す炎は、徐々に勢いを弱めつつある。
首無し馬が足を踏み鳴らす。俺は攻撃に備えて、再びスキルの発動を構えていたが。
ふしゅ、ふしゅと、馬の足首から噴き出す青緑の炎が、断続的に途絶える。
首無し馬は、その首で自分の足を見下ろし、不思議そうに首を傾け(るような動きを首でし)て。
こてんと、その体が横倒れになった。ふしゅぅぅと、青緑色の炎が全身を包んでその体が溶けていく。
“幻霊”は、高出力のスキルを扱う“高エネルギー体”と、非実体で不可視な“幻霊体”と、二つの形態を行き来する。前者の“高エネルギー体”は維持のための消費が激しく、戦闘において繰り出せば長くは続かない。個体によっては“実体”という安定した形態を取ることもある。
おそらく、首無し馬は燃料が切れたのだ。倒した、という扱いでいいだろう。
右を向けば、おそらく今の首無し馬が放っていたプレッシャーが途切れ。魔物の波の一部が、俺に向かって押し寄せて来ている。
「ブルーバード!」
俺は“飛翔”を繰り出し、片腕を挙げて空に飛び出す。空を飛ぶ視界が、大慌てで俺を見つけて空を飛んでくる。
黒い鳥の足が、俺を掴んだ。俺の真下の足元を、いくつもの魔物の体が通り過ぎていく。手や足を伸ばしても、空を飛ぶ俺の体には届かない。
「空けてごめんな! ポイズンアント、戻ってきたぞ!」
俺の安全地帯に。俺は空を飛んで、ポイズンアントの背中に飛び乗る。周囲に残っている敵影は、もう二割も残っていない。
「ご主人さま! ポイズンアントさんの動きが鈍ってきています! 息切れしてそうです!」
「了解! ポイズンアント、いったんシェルの中に戻れ! レッドパールは貰っていくぞ!」
青く、細かい毛が生えた甲殻に手を置けば、そこから赤い宝石が飛び出し俺の手に収まる。真下の巨体が白煙の中に消え、俺の体が下に落ちていく。
「ブルーバード! 近くに来い! こっからはお前のターンだ!」
視界はいまだ共有中だ。俺は“空中シューズ”をセットし、魔物の波が俺を飲み込む前に空を踏み、頭を乗り越え壁の元まで。
刀を壁にさしてぶらさがるが、ちょっと高さが足りない。何体化が下に固まってよじのぼったら、足でも噛みつかれそうだ。
空を飛んで近づいてくる影に、俺はレッドパールを投げる。赤い宝石は、確かに青い巨鳥の胸元に当たり、中へと吸い込まれていった。全体の数が減って、地上の群れの密度も下がってきている。あとはブルーバードでも行けるはず。
「ロケットでまとめて薙ぎ倒していけ! マルメロ! まだいける!? ちょっと俺の下の奴ら倒しに来て!」
ブルーバードの視界のリンクが切れた。俺は足の下に寄り、壁を上がろうとするクワガタの頭を足で踏みつける。
そのうち、黒牛の魔人が駆けつけて、その拳を魔物に叩き込む。魔物たちが吹っ飛び、あわや俺の体も上に浮く。
「ご主人さま! 降りて来ていいですよ! この私が、一匹たりとも通しません!」
「マルメロはまだまだ元気だねぇ!」
俺は壁から刀を抜き、真下に飛び降りる。呪符系で攻撃に加勢も出来るが、この数相手に切っても焼け石に水だ。俺は“ラセンの笛”を呼び出し手元に置く。マルメロやブルーバードの動きに上手く合わせられれば、全滅までの手順を少しでも省略できる。
俺はただ、マルメロの背中を見つめる。赤い笛の音を、彼女の呼吸に合わせて吹く。
マルメロが、足元の魔物に拳を振り下ろした。爆発が灰色の毛玉の動きにとどめを刺す。
横たわった魔物の体は、溶けるように樹木の足元に吸い込まれていく。
「これで第一部屋……は、終わりかな。マルメロ、お疲れ。少し休んでていいよ」
俺はグリーンオーブの一つを取り出し、砕いて彼女の元へと投げる。ふわふわとした黄緑色の光が広がり、彼女の体の上から包み込み、染み込んでいく。
黒牛の魔人は振り返り、笑顔で応える。
「いえいえ! 私はまだまだやれますよ!」
なんで? 怖……。ぎらぎらと、マルメロの目は覚醒状態。放っておいたら死ぬまで敵を殴ってそう。
「そうなんだ。すごーい」
青い巨鳥が姿を現し、俺たちの隣に降り立つ。ぽん、と白煙を上げて、彼女は青いカッパと銀のジャケットを羽織った少女の姿に戻る。
「おーよしよし、ブルーバードちゃん。よく頑張ったねー」
「つかれた……もうかえっていい?」
よろよろと歩いてきて、開いた俺の腕の中に、青い少女がぼすと頭を埋める。
「え? いやぁ、あの、うーん……」
と、最初の正面奥の壁にあった、赤いバッテンの表所が付いた扉。
その赤いバツ印が点滅し、今、消えた。
「次の部屋への扉が、開いたみたいだね」
「まだやるの……?」
「おそらく……」
と、背後を振り返ってみれば、そっちの扉は痕跡すら残らず消え失せている。途中退出は、今日は叶わないらしい。
「俺たちが全滅するか、あっちが全滅するか、みたいだね」
これは何段階あるんだろう。説明とかくれないか? あぁ、そう言えば、最初に全部で三部屋って言ってたっけ。
「仕方ないな……付き合ってあげる」
真下から、控えめな少女の声が聞こえる。
「シェルの中で、休んでてもいいよ」
「今はポイズンアントが寝てるでしょ。その間くらい、わたしが出るよ」
そして、俺たちの視線は、今しがた開いた扉への方へと向いた。




