2ー1
少し手持ちを整理して、俺たちは扉をくぐり、次の部屋へと足を踏み入れた。
三人とも扉をくぐれば、背後の扉が勝手に閉まり、見れば跡形もなく消えていく所だ。
進んだ先にあったのは、なんてことのない、先の部屋と全く同じ構造の、直方体の樹木の面の大部屋。
今のところ、内部に待ち構える魔物の姿は見られない。またモンスターパニックを繰り返すのか……? と、若干身構えながら待っていると。
俺たちの正面の壁に暗い穴が開く。のそのそと、中型、俺たちと変わらないサイズの魔物が地面を這って、こちらへと歩いてくる。どうやら、今回はその一匹のようだった。現れた魔物の後ろで、暗い穴が口を閉じた。
「あれ」
現れたその一匹の魔物は。俺たちの見知った魔物。俺たち、ではないか、知っているのは、あの時あそこに居たのは、まだ俺とマルメロだけだった。
「久しぶり、ブドウドラゴンさん。元気でした?」
俺の問いかけに、現れた、紫色のオオトカゲは。
ふん、と、不敵に鼻を鳴らした。
前回見たのとは違う個体だろうか。前に見た時とは、なんだかまとっている雰囲気が違う気がする。今回のブドウドラゴンは、こう、不機嫌というか。
「一つ、聞いていいか?」
冷たい声が、向こうのブドウドラゴンから発せられる。
「俺たちに答えられることなら、なんでも」
「あんたらが、ヴァンピを襲いに来たっていう、“お友達”か?」
「いかにも」
ぎらと、向こうに居るブドウドラゴンの鋭い目が、こちらに居る俺たちをねめつける。
「どうして?」
ブドウドラゴンは、短く、俺に説明を要求している。一つ、ここで答えを間違えれば、今にも消し炭にでもされそうな勢いだ。
どうして、か。まぁ、ブルーバードにするように、なぁなぁのまま答えられはしなさそうだ。かと言って、はっきりとした答えを求められても困る。しかし、無返答はそのまま殺されそう。
俺は返事を考え、頭を巡らせる。
「答えられない、か?」
彼の声が、俺に答えを促す。
「ブドウドラゴンさんは、うちのヴァンピとお知り合いなんですか?」
はん、と、ブドウドラゴンは鼻を鳴らす。
「ま、少しな。顔を見知った程度の、知り合いだ」
「今回は、ヴァンピの側に、協力してるんですね」
「まぁな。知らない仲じゃない。頭を下げられれば、あんなに可愛い女の子になら、ほだされることもあるさ」
「俺は、ヴァンピに頼れる知り合いが居て、少し嬉しい気分ですよ」
「あぁ?」
ブドウドラゴンは、あくまで不機嫌そうに返事をする。
「俺に、なぜ今日ヴァンピの元に、戦いを仕掛けに来たのか。その答えを知りたいんですよね?」
この空間は直方体の形で、広く、向こう側に居るブドウドラゴンとはかなりの距離がある。でも今は、顔先まで近寄られているかのように、そのプレッシャーに俺は晒されている。
「そうだ」
「俺は、俺の友達の襟を正しに来たんですよ。それこそ、あいつをぶん殴ってでもね」
すっと、ブドウドラゴンの目つきが細まる。
「ほぉ。あんたらは、ヴァンピちゃんの友達か」
「えぇ、そうですよ。俺の大事な友達の一人です」
「それは、お互い殴り合わなきゃ、分かり合えないのか?」
「でなきゃ、こんな面倒掛けて、こんな面倒なとこまで来ませんよ。俺が……俺があいつをその場で一発ぶん殴って終わる話なのなら。それで良かったんですけどね」
「意見が対立して、正しいのはあんたの方か?」
「さぁ、どうでしょうね。俺はただ、俺の正しいと思う方を、押し付けに来ただけです。出来れば……」
俺は、あの子がヴァンピのことを話していた時の顔を、思い出す。
「出来れば、そう。町の子たちとも、ヴァンピが仲良くやれたらいいなって」
じっと、鋭い目が、二つの瞳が、遠い向こう側から、射貫くように俺を見つめている。
ふっと、じきに、ブドウドラゴンの口元が緩んだ。
「そうか。そうかそうか。あんたらは、あのヴァンピの大事なお友達か」
ふつ、ふつ、と。彼の背後の壁に、何かが……生えてきた。それは見覚えのある、というか、ブドウドラゴンの首元に実っている、紫色の球状をした……爆弾。それが、樹木で出来た壁から、不自然にぽこ、ぽこと生えてきて。
ポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコ――
広がる、広がる、それは壁に円状に広がり、壁の下に付けば地面に広がり、いつの間にか、別の点に、別の壁にも、天井にも、その紫色の球体は等間隔に、次々と現れてきて。
「あんたが。あの子の、友達なのなら!!!」
それは、俺たちの足元まで広がっていく。
そして、天井のすべてに、すべての壁に、地面のすべてに。隙間なく、等間隔に、紫色の果実が並び尽くした。
俺の足元の紫色の球体が、光を返しててらりと光る。
「まだまだ! 手加減!! しないとな!!!」
波打つように、壁や天井に並ぶ紫色の果実たちが。爆破の予兆の光を放っていく。




