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ー2

 天井に穴が開き、奥から落ちてくる落ちてくる、多大な魔物の群れ。


「マルメロ! 離れて動いて数を減らしていけ! ブルーバード! 空から狙って一体ずつ削れ!」


 俺は“空中シューズ”を起動して、オオアリの“青い”背中に飛び乗る。


「それから、ポイズンアント。あれだけの多勢だ。一対多の戦いは、お前はまだ、苦手だったな?」


 言葉なく、オオアリは頭を持ち上げて、背中の上に立つ俺の顔を見上げている。


「俺がここに居るんだ。負けるんじゃねーぞ」


 青いオオアリはその目でじっと俺を見た後。


 頭を下ろして、向こうの群れを見る。がしゃがしゃと足を動かして、頭を向こうの群れに対して正面に向ける。



「いいか? お前の耐久力は並じゃない。囲まれても、大抵の攻撃じゃ沈まない。近いところ、頭の近くに来た所から、一匹ずつ狙って倒していけ。まとわりつく敵を落とすのには俺も協力する。俺は背中に乗ってるけど、お前は好きに暴れろ。俺は巻き込まれない」


 俺はオオアリの背中に立ち、向こうから迫る魔物たちの軍勢を見つめる。


 今回の戦闘の直前に、ポイズンアントには最後の強化を施してきている。


 “素材進化”。それは、レッドパール一つと素材一つを消費し、素材の特性とレッドパールに蓄積した経験値分の強さの進化先へと、体を変化させるというシステムだ。


 ポイズンアントは、レベルフロント制覇時点で、自身の実力不足を感じていたらしい。“レッドパール”を消費した強化という、最終手段を提案してきた。


 レッドパールは、内部に経験値をため込んで、経験値を溜めた分だけ装備者を強化するアイテム。器となるレッドパールを作るだけでも結構な量のレッドパールを集めるし、経験値は、これまで溜めた分だけ溜まっている。


 もう一個、今の強さのレッドパールを作るには、結構な手間と時間が掛かる。強化直後は影響はないだろうが、進むにつれて、その“作り直した分”の遅れが後で出てくる。


 それでも今、ポイズンアントは、“素材進化”による強化を願った。


 消費した素材は、商店で取り寄せた“深海クラゲ”。“深海クラゲ”は“深海”という能力を持っており、それは“長い触手で触れた相手の呼吸を奪い続ける”というもの。


 一つのレッドパールと“深海クラゲ”の素材を消費し、ポイズンアントは生まれ変わった。


 オオアリという体格は変わらないまま、全体的に、暗い緑から暗い青へと色合いが変化した。また、つるつるとした甲殻の上に細かい毛が生えて、マットな感じに。


 そして、パッシブスキル“深海”を取得した。これは、戦闘時に触れた敵の“呼吸”を徐々に奪っていくというものであり、狙いとしては思い通りの能力が得られたことになる。


 “深海”ポイズンアントは、俺の足元で迫る魔物たちの群れを見つめている。たとえ、大量の魔物に囲まれ、その体を覆われても、今は“深海”の能力がある。長くこの子に触れた相手ほど、息が苦しくなり自ら離れていくだろう。


 俺は、ポイズンアントの背中で刀を抜き、魔物たちの襲来に備えた。先んじて、群れの中に突っ込んでいったマルメロが、派手な花火の音を鳴らし始める。



「何じっとしてんだ。“岩突進”のスキルがあっただろ? あれ使って群れの中に突っ込め。あとは、好きに暴れればいい。敵のアクションを待ってる時点で、一つ手遅れだ」


 背中を上からてしてしと叩けば、オオアリは、少しの逡巡の後、青い甲殻の上から白い光を発する。


 がしゃがしゃと、ポイズンアントは足を動かして、迫る群れの中に突っ込んでいく。


「あはは、いいぞいいぞ! その調子だ!」


 向こうから、魔物たちの群れもまたこちらに向かってくる。迫りくる群れの先頭は、あっちに向けて走り出したオオアリを見ていたが、魔物たちは群れになってこちらに広がっており、止まろうとしたり避けようとしても後ろから小突かれて、彼らは進路を変えられず、ただ。


 一匹が、オオアリの進路の上に居て、撥ねられた。テントウムシだかクワガタだか見分けがつかない黒い虫が、オオアリの頭に跳ね飛ばされて群れの中へと吹っ飛んでいく。一匹撥ね、二匹撥ね、三匹撥ねて、ようやくポイズンアントの突進の勢いが止まる。


 俺たちは完全に群れの中に食い込んだし、群れの魔物たちに周囲を囲まれた。


「ほら、暴れていいぞ」


 俺は上から青い甲殻の背中をポンポンと叩くが、オオアリは頭をあっちこっちに振っている。おそらく囲まれた数が多すぎて、どれから襲っていいか、そもそも襲うために進んでいいのかすら分からないのだろう。


 まずい。止まれば囲まれる。まぁ今のポイズンアントなら、五‐六体に絡まれた所で仮域で抜け出せるだろうが。しかし心が萎えたらポイズンアントが動かなくなる。


「じゃあ、そこのオレンジ色のやつだ。分かるか? あいつから狙え」


 俺はそこの魔物の一匹を指し示すが、俺が指さした途端、そいつは狙われると思ったのか一歩引いて、狙うのに適した、前に出てきた狙いやすい敵ではなくなる。


 空から飛んでくる、でかめの蜂を、羽を切り飛ばして蹴り飛ばす。


 うん。いったん戻した方がいいか。


「ブルーバード! マルメロ! 聞こえてるか!」



 広大な直方体の中に、入れられた魔物、魔物、魔物たちの群れ。どれも見たことがない魔物たちで、おそらくは上層でない、[層樹林]の深層迷宮の厄介な魔物たち。


 俺は声を張り上げて仲間たちを呼ぶ。


「一度帰ってこい! 壁を背にして、半月型に陣を張れ! お互いの体が干渉しないように距離をとれ!」


 青い翼が空を飛びこちらへと飛んでくる。遠くの群れの中から、連鎖する爆破音が聞こえてくる。


「ほら、ポイズンアント。仲間が帰って来たぞ。みんなで一緒に戦おうな」


 俺は手元にラセンの笛を呼び出し、“攻撃強化”の笛の音を吹く。俺たちの周りには、様子を見るように魔物たちが取り囲んでいたが、やがて一匹が飛び出し、ポイズンアントの側面から襲い掛かる。


「キィィィ!!」


 それは人の腕のようなものが生えた毛深いクモ。足の長いタイプじゃなくて、ぴんぴんと跳ねるタイプのクモだ。オオアリは飛びつかれた右側面を見て、体を横に回す。オオアリに襲い掛かる第一陣を見て。


 魔物たちが次々と、オオアリの元へと押し寄せ始める。


「ポイズンアント! 俺はいったん離れるぞ!」


 笛を消し、空中シューズで空を駆け、すぐそこの壁に飛びつく。刀を壁の植物に刺し、それを支えにして空中にぶら下がる。


 わらわらと、ポイズンアントの体がたくさんの魔物たちに囲まれつつあるが、“深海”が発動するので触れる魔物たちも長続きしない。それに――


 向こうの群れの奥から、爆発を起こしながら黒い影が走ってくる。


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