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ー19 vsタイヨク

 青い岩肌の斜面を上へと伸びる坂道を、俺たちは一歩ずつ登っていく。


 坂道が途切れ、唐突にそこに広場が現れる。そこは、俺たちが戦闘できるくらいの、平らな広場。


 奥には、一体の魔物。


 それは、とても大きな魔物だった。ポイズンアントも、ブルーバードも、俺たちの背丈を優に超える大きな体の魔物ではあったが。向こうで、俺たちを待ち受けるその魔物は、二人よりもさらに一回り大きい。


 猛禽のような獰猛な目とクチバシ。小屋を隠せるような、それは大きな翼が一対。そして、体の前に二本の前脚、体の後ろに日本の後ろ脚。合計四本の、体の下半分は馬のような四本足の魔物だ。足には、猛禽類の鋭いカギ爪が付いている。


 あれは確か……名前は“大翼(タイヨク)”、だったか。どっかの地域で出てくる強力な魔物だ。


 タイヨクは大きな翼を体の左右に広げ、前半身が持ち上がり、カギ爪の付いた二本の前脚が宙を掻く。


「マルメロ、ブルーバード、ポイズンアント。みんなで行くよ」


 真っ黒な肌の、筋骨隆々の魔人が、俺たちの前に真っ先に出る。脇から白煙が立ち上り、俺の前に、暗い緑色の甲殻をまとった巨体が立ち上がり、青い翼が羽ばたき、空へと上っていく。




「ご主人さま、敵の攻撃力が危険域だと思われます。くれぐれもその体で、あの魔物には近づかれないように」


 俺の前で構える“黒牛魔”の魔人は、落ち着いた声でそう告げる。


「おーけー、まぁ今回は、俺がでしゃばる気はないよ。それは、ブルーバードと、ポイズンアントにとっては?」


「食らえば、手痛い一撃になるでしょうが、一撃で死ぬほどではないかと」


「わかった。気を付けるに越したことはないね。ゴールデンちゃん、ちなみにあの魔物は乗っ取れそう?」


 俺は、俺の頭の上にへばりつく、黄金の餅に話しかける。冷たくて気持ちいいが、若干重い。黄金の餅は、体の端っこをうにょうにょと伸ばしていき。


 伸ばした先端が、丸の形を作った。いけるのか。まぁ、サラマンダーですら乗っ取れてたしな。これくらいの魔物なら乗っ取れるのか。じゃあ、もしもの時の危機回避策として、まだゴールデンちゃんを頼ることは出来そうだ。


「まずは、君に任せるよマルメロ」


「了解です」


 山の上の、斜面の合間の青岩の地面の広場。向こうには、ただならぬ気配を放つ魔物が一匹。風が吹く。空は青く、まぶしい白の雲が浮かんでいる。




 今回の敵は、大きな翼をもち、下半身が四つ足の大きな鳥の魔物。今までは基本、空を飛ぶブルーバードは一方的に行動範囲の優位を取っていたが、今回は飛べる敵。空は必ずしも安全圏ではないだろう。


 空を舞う青い鳥は、きらきらと鱗粉を撒いている。もう、俺の目にも正確な位置には映ってないだろう。彼女の場所が知りたい時は、“ビジョンリンク”でも使えばいいか。


 青い大地を踏みしめ、黒い魔人が駆け出す。奥に構える四つ足の鳥は――


 マルメロへと、走り出した。速い。タイヨクは、馬のように警戒に、カギ爪の付いた四つの足が大地を蹴っている。


 今のマルメロは、近接、“爆破”属性持ちの、物理型のアタッカー。機動力には特殊な効果が付いていないが、ポイズンアントの怪力がマルメロに重ねて付与され、攻撃力が高められている。


 素早い身のこなしで、黒い魔人の体が、持ち上げられ、掴もうとした鳥の足をすり抜け、体の脇に入る。


 そこにある、羽毛に包まれた胴体を、ごてごてとしたナックルを上から叩き込む。


 爆発が……遅れて起きた。爆風の中、ベストを着た黒い魔人は涼しい顔で身を引いた。爆発する拳を叩き込まれた猛禽の頭が上から。


 ただマルメロの居る方を振り返り、見下ろす。


 爆風にも、拳にも、タイヨクは効いた様子がない。おそらく、体を包む柔らかい羽毛が、そのどちらものダメージを軽減している。羽毛の上から有効なのは、“刺突”系の物理攻撃だろうか。まぁ、考えてもマルメロに選択肢はない。


 直後、タイヨクの頭が激しく揺れる。金属爪の付いた黒い鳥の足が一瞬見えた。ブルーバードは一撃かましてそのまま空へと飛んでいく。タイヨクは激しく嘶き、攻撃の主を探して空を見回している。


「こっちですよ!」


 タイヨクの足元の、黒い魔人が、その拳を鳥足の一つに振り下ろす。体には、白黒のふわふわとした羽毛が付いているが、鳥足はそれらの羽毛が剥げ、素肌が露出している。


「キィェェエエエエ!!!」


 爆発が起き、タイヨクが鳴き、そこに居るマルメロを襲おうと強引に足を振り払う。マルメロは素早い身のこなしで後ろに下がり、攻撃をかわした。



 もう一度、マルメロはその拳を叩き込もうと、タイヨクの足元へと滑り込む。


 しかし、タイヨクにも、その動きはもう読まれている。マルメロは左前脚を狙い近づき、しかしタイヨクが前脚で地面を蹴って前半身が跳ね上がる。白黒の翼が、大きく開いた。


「キィェェエエエエエ!!!」


 鳥の足が振るわれる。まず、左前脚がマルメロの頭を上から叩き潰し。眩んだマルメロの胴体を、右脚の爪が突き飛ばす。


「マルメロ!」


 マルメロの体が軽く吹っ飛んで、俺たちの方へとゴロゴロと転がってくる。体が消えはしない、よろよろと、マルメロはその体を起こして立ち上がる。


「ま、まだ、やれます……!」


 俺は懐から緑色の丸い球を取り出し、マルメロの背中へと投げつける。これはカード使用時みたいに適当に投げても本人に飛んでいくわけではないので、ちゃんとマルメロの体を狙って当てる。


 緑色の球が砕け、ほのかな光がほとばしり、マルメロの体を包んでいく。


「やれるよ!」


「……はい!」


 グリーンオーブはそれなりに希少なアイテムで、商店で頼んでも得られる数には限りがある。もちろん手持ちにある分も潤沢ではない。基本的には、俺やシェル魔物の緊急回復用だが。


 ここはまぁ、使い時だろう。少し体力が回復して、マルメロの体に見えていた傷も薄くなっていく。




 敵の動きも、少し見慣れて来た。俺の両手が塞がるのは良くないが、倒すまでの効率を取るならば、マルメロの攻撃をさらに強化した方が、すぐに終わるし、リスクも消耗も減る。


 俺は“ラセンの笛”を取り出し、口元に吹き口を構える。味方への防御バフ、攻撃バフ、どちらも今回の相手には有効だ。不意の被弾も、合わせることさえ出来ればダメージを軽減できる。


 と、風が動いた。妙な流れ……それは、向こうのオオワシへと向かっている。


「マルメロ、何か来るよ! 備えて!」


 俺は念のため、先んじて防御バフの笛を吹いておく。バフの効果時間が合うかは分からないが。青いエフェクトが、マルメロや目の前のポイズンアントにも掛かる。


 オオワシの周囲に、何かが生まれ、形作られていく。それは……それは、鋭く尖った岩。


「飛んでくるよ!」


 オオワシの周囲に、無数に浮かぶ尖った岩。それらは、鋭い先端がすべてマルメロの方を向いており、空中に座標が固定されたまま、ゆるやかに回転していて。


 ぴく、と、岩の中の一つが揺れる。


「一個ずつ来る!」


 飛んでくる前に、青いエフェクトが消えた。直後。


 背後から弾かれたように、岩の破片の一つが加速する。一、二、三と、周囲の岩の破片が次々と揺れだし。


「マルメロ、ポイズンアントの陰へ! ポイズンアントは“岩突進”で防御だけ高めて!」


 岩の破片の一つが、マルメロの腕を割いて後ろの地面に飛んでいく。操作は発射の瞬間の加速だけで、それ以降のマルメロの体のずれには対応していない。落ちた後で改めて浮き上がることもなく、それは氷のように空気に溶けていく。


 防御バフのクールダウンはまだ終わっておらず、次は使えない。ポイズンアントの“岩突進”は強力だが、相手の体躯の方が上であり、マルメロの攻撃の方が強力なこともあり、今はリスクを冒してあっちに近づける必要がない。


 マルメロがこっちに戻ってくる。岩の破片が次々に飛んできて、しかし素早くここまで距離もあり、命中精度はよくない。ポイズンアントは体を屈めて地面との隙間を埋める。


 と、がっと、オオワシの頭が下がり、同時に、体の周囲に飛んでいた岩の破片が力を失い地面に落ちていく。


「キィェェエエエエエ!!!!!」


 直後、オオワシの頭を踏みつけた鉄の足は勢いのまま通り過ぎ、空へと浮き上がっていくが。オオワシは彼女の足を目で追い、翼を広げて立ち上がり。


 地面を離れた。


「ブルーバード、狙われてるぞ! “ビジョンリンク”!」




 ブルーバードに装備させた“幻惑のスカーフ”は、周囲に幻覚を見せる鱗粉を振りまき、鱗粉が触れている間相手に自身の位置をずらして認識させる。


 いろんな場面で有効だが、しかし対策は明確であり、体に触れる鱗粉を振り落とせば、位置をごまかす鱗粉は消える。


 オオワシは空に飛び立ち、翼を振って空を飛んでいく。“ビジョンリンク”で共有したオオワシは、おそらくブルーバードの姿が見えている。空を飛んで鱗粉が落ちているのだろう。しかし、オオワシの軌道は、まっすぐブルーバードの背中を終えているわけでもない。


 多分だが、ブルーバードの背後に居れば、飛ばした鱗粉がそのまま体に当たる。鱗粉が落ちても落ちても、ブルーバードの後ろを追えばまた鱗粉が当たり、その度にブルーバードの姿がずれているのだろう。


「追いつかれそうになったら“ロケット”を使え!」


 “ブースタージャケット”。主に“ロケットバッタ”の素材を集めて製作できる“衣装卵”。装着すれば、体の上に二対のロケット加速器が付き、起動すれば爆発的に加速する。地上を走るのにも、空中を飛ぶのにも使えるが、加速は少しの間であり、すさまじい加速にほぼ直線でしか飛べず、またその速度はブルーバードにも制御できない速さ。


 付けたは良いものの、ブルーバードは使いこなせずあまり使っていなかったが。今回の相手は、ブルーバードよりも一回り大きい体の相手。組み合えばおそらく力で負ける。追い付かれるわけにはいかない。


 頭の中に、ブルーバードの見えている視覚も流れ込んでいる。鳥の視界はほぼ360度、前を向いていても、少し顔を傾ければ真後ろが見える。後ろを空を飛び追ってくる、巨大な四つ足の鳥の化け物の姿が見えている。こわ。


 “ロケット”を使うまでもなく、オオワシの体はブルーバードの飛ぶ軌道をまっすぐ捕らえられない。優秀だな、“幻惑のスカーフ”。


「ブルーバード! 地上に降りてきて、俺の前方の地面をすれすれを飛んで誘導しろ! 捕まる直前に“ロケット”で逃げろ! ポイズンアント、一回“岩突進”をぶちかませ! 終わったらすぐに離れろ! マルメロはそのあと追撃!」


 俺の指示に、空高く飛んでいたブルーバードが、その動きの軌道を変える。何かを追うオオワシが、降りてくるブルーバードを追って、高度を下げて滑空に入る。


 右の空から、俺たちの前方を通る軌道で、オオワシがまっすぐ降りてくる。俺の前で、ポイズンアントの暗い緑の装甲に、上から白い光が弾けて現れ、続けて、笛の音に赤いオーラが体の周りに現れる。


 オオワシのクチバシが、何かを捕らえようと口を伸ばされていた。右から飛んでくる巨大な四つ足の鳥、そして、俺たちの前で何らかのエンジン音。向こうの地面で突風が起こり、後ろに押しのけられた風がわずかに、オオワシの体の速度を遅らせた。


 まっすぐ、オオアリが走って突進していく。オオワシの体は素早く、通り過ぎるのは一瞬だったが、どうにか上手く体が当たった。直撃ではないが、オオワシの後ろ半身にオオアリの突進が当たり、オオワシは大きな翼をばたつかせながら地面を転がる。


「キィィェェエエエ――」


 オオワシは横に倒れた体で、今度は誰かと、こちらを振り向いた。


 その眼には、上に高く飛び上がった、拳を掲げたマルメロの姿が見えたことだろう。


 拳を鳥の頭に叩き込む。それだけじゃない、マルメロの開いた両足が鳥の喉あたりをがっしりと抱き込み、しがみつく。体全体を羽毛が覆っているが、頭部は特に羽毛が薄い。羽毛の薄い頭の部分を集中的に、黒く硬い、マルメロの拳が叩きつけられる。


 連鎖する爆発音。鳥の悲鳴も、爆風の中にかき消される。バタバタと大きな翼が暴れ、四肢が地面を蹴る。マルメロは体の揺れに耐え、首にしがみつき拳を叩き込んでいたが、強引にクチバシが体の間にねじ込まれ、マルメロの体が押しのけられる。


 上からなるエンジン音。急加速する視界。


「マルメロ! 離れろ!」


 空から、一筋の閃光が降り立った。


 それは墜落した。隕鉄の爪の付いた鳥の足が、地面に横たわったオオワシの頭の上から落ちてきて、オオワシの頭を地面に叩きつけた。


 ふわり、黒い鳥の足が現れ、それから、そこに青い翼を広げた巨鳥の全貌が現れる。落ちてきたブルーバードの足はタイヨクの頭を踏み抜き、地面に亀裂を入れて叩きつけた。


 頭は、おそらくタイヨクの弱点だった。そこを狙い続ければ、少ない攻撃回数で相手を倒せる。


 タイヨクの体は横たわり、衝突の直後、翼がぐっと伸ばされ、そして力なく地面に落ちる。タイヨクはクチバシを開けたまま、瞳はどこかあらぬ方向を向いている。


 俺は懐から写影機を取り出し、透明なカードを黄色いL字のケースにセットする。みんなが見守る中、横たわるタイヨクの所へと歩いていき。


 透明な窓に、落ちたタイヨクの体を捉え、ボタンを押す。カードに“タイヨク”の姿が刻まれ、カードがケースから排出される。


 遅れて、ぽん、ぽん、ぽんと、オオワシの体からアイテムが飛び出す。ブルーバードはいまだ鉄の爪をオオワシの頭の上に乗せていたが、ようやくその足をどかし、飛んで隣に降り立つ。


「戦闘終了! みんな、お疲れさま! よく頑張ったね!」



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