第四話、ダンジョン探索
:登場人物
トリジ(主人公)
主人公の男の子。腕力はないが、そこそこ器用。
マルメロ
主人公のおともの精霊。いろんな魔物の姿を借りて、主人公の代わりに魔物と戦う。
ぱたんと、背後の扉が閉じる。
上には密に絡み合った樹木の天井。足元には落ち葉の積もった地面。見渡せば、地面から生えた幹が天井まで延び、その枝を伸ばして上の層をなす一本となっている。柱のような幹は、この階層に点々と下から上へと生えている。
ここはダンジョン、フレームマップ[層樹林]。そこは特異な地形であり、迷宮のようであり、歩けばどこかから魔物が現れる。俺たちは[層樹林]内部にある住居区と繋がるその扉から、今しがた出てきたところだ。
俺は懐からカードを出し、虚空に投げる。俺の周囲を飛んでいた黄緑色の光の玉がカードへと飛び込み、でかいカエルが現れ、それはにょきにょきと変形して人の形をとった。
肌が黄緑、お腹が白、髪のように長く伸びた黄緑色と白の太い触手。目が合えば、そこには縦長の黒い目がある。体は女性らしく丸みを帯び、胸には緩やかに膨らんだ二つのふくらみがある。
それは見慣れたカエル人ことマルメロ。今更だが服とか要らないんだろうか? まぁ画すべきあれやそれは見当たらないけど。
俺は相棒である彼女に呼びかける。
「マルメロ、今日はここ[層樹林]を探索するよ。目的はお金稼ぎ。強い魔物、たくさんの魔物を倒せればいいけど、無理はしない。基本はマルメロに戦闘を担ってもらうけど、今日からは……」
と、俺は懐をあさり、それを取り出す。手のひらサイズのアンティークな銃。それは先日、ブドウドラゴンを撃退して得られた“おたから”ドロップ、“爆弾銃”。おそらくは、あのブドウドラゴンの放っていたような爆弾の玉を撃てるはず。
側面から見える透明なケースの中に、入っている玉は三つ。玉は撃ったら減るが、時間経過で回復すると言っていた。
「この“爆弾銃”があるから。今日はこれを試しながら行きたいね。うまくいけば、マルメロの負担を減らせるかも」
「私は特に戦うことを負担に思ってはいませんが。ご主人さまの自衛の手段ができたのは素晴らしいですね」
俺たちは今日の目的を確認し終わり、ダンジョン内の景色を見渡す。世界は基本層状に分かたれており、たまに地面や天井に穴が開いていたりして、上や下の層に移動できる。樹木の壁などもあり、まっすぐ進めず、視界も一通りに見通せない。
ダンジョン、文字通りの迷宮だ。進むならマッピングが必要だろう。もしかしたら地図は商店とかで売っていたかもしれないが、何しろ今はお金がない。初めての探索だし、自分の手でやってみるのは良い経験となるだろう。
「迷わないよう、道順を確認しながら進もう」
「お願いします!」
「あぁうん。任せて! 今日はいっぱい稼ぐぞ!」
「ご主人さま、何か落ちてますね」
俺たちは根っこがぎっしりと詰まった樹木の地面を歩いていく。上も下も、向こうに見えている壁もすべて樹木。
マルメロに教わってそちらを見れば、そこには一つの光が宿っている。
「なんだ?」
俺はそこに落ちているものを拾う……ただの太い枝だ。白い小さな光は、その枝に宿っていたようだが、拾うと同時に光は消える。
「いわゆる“ダンジョン素材”といわれるものですね。それらはダンジョン内で入手することのできる様々な素材です」
「これが、“ダンジョン素材”? 見た感じ、ありふれたそこら辺の枝に見えるけど」
「“ダンジョン素材”は特殊な力が宿った素材。普通より耐久力があったり、腐らなかったり、破損しにくかったりする少し特別な素材です。普通に見えているその枝は、“ダンジョン素材”なのでひときわ丈夫だったりするのでしょう」
なるほど。そういえば、商店で貰った“ダンジョン内で得られる素材買い取りリスト”に、“丈夫な枝”があった気がする。
リストの紙を取り出してみると、確認すれば、“丈夫な枝”は一本10ライト。安くはあるが、戦闘も交わさず拾うだけで得られるとなると、値段が付くだけ十分といったところか。価値は低いが何かに使えるかもしれないので、一応持っていくことにする。
武器とかには使えるだろうか? 丈夫な枝をぶんぶん振ってみる。大きめの虫とかなら倒せるかも。先日のカエルとかは無理かも。おとなしくポーチにしまっておこう。ポーチの中は、軽い物置くらいの広さがあり、入れてもポーチの重量が変化しない。拾うだけ得である。
「ダンジョン素材の中でも、[層樹林]の特産品“新鮮なマスカット”は、一房200ライト。高く売れるみたいだね。レアなのかな? 自分で食べてもみたいし、どこにあるか探してみたいな。巡回ルートとか作ったら、安定して稼げるかも」
「戦わないし要らないんじゃないですか?」
「マルメロは体を動かしたいのかい?」
俺は手帳に地形をメモしながら、樹層の地面を歩いていく。
「なーんか足音がしますねー」
「モンスターじゃなくてー?」
俺たちは上も下も囲まれた樹海の中を歩いている。隣を歩くカエル人ことマルメロは、俺の少し前方を歩きながらのんびりとそんなことを言ってくる。
「あっちです!」
マルメロが振り返り、指をさす。そっちにはまだ探索していない先の、樹海の壁に阻まれた迷路がある。
俺にも聞こえた、どしどしどしと、荒い足音がやってくる。続いてカササササと、同じ方向から走る足音。
樹海の壁の向こうから現れたのは、ツルで編まれたような輪っかを首に巻いた、後ろ足二本で駆け抜けるトカゲ。黄色い肌、意外に素早く、立ち上がった高さは俺の胸程度。
続けて壁の向こうから、
「待てー!」
おっきなハンマーを振り上げた童女が走ってくる。子ども? にも見えるが、普通の子どもというには等身の割に図体がでかい。なんだか、子どもが成体の種族とか、そんな感じの子。
真っ赤な服を着た、シルバーに煌めくハンマーを掲げた童女。スカートがひらひらとひらめき、中に真っ白なカボチャパンツが見えている。ハンマーはなんと太さが俺の胴体くらいある。張りぼてでなければ、彼女は怪力!
ドタドタドタと、コミカルな足音と煙を立てながら、赤服の童女と黄色いトカゲが追いかけっこ。トカゲは俊敏だ、かくかくかくと、細かくステップを交わして方向をジグザグに変えながら走っていく。
「むぅぅぅ……」
彼女たちは、今俺たちのいるそこそこ広めな一つの空間を走り回っていた。童女は不満げに頬を膨らませる。やがて急ブレーキを掛けて立ち止まり。
投げた。そのハンマーを。ハンマーが持ち手ごと、ぐるんぐるんと風を切りながら緩やかな放物線を描き、トカゲの背中を追って。
直撃! ナムサン! 哀れ、走り回る黄色トカゲは巨大なハンマーの下敷き!
きゅう……と、目を回しながらトカゲはその場に倒れこみ、若干色が薄くなって体が縮む。ぽぽぽと、その場にアイテムが排出された。
「ふぅ……あれー? ほかの人間さんがいるー」
赤服の童女は向こうから歩いてくる。ほっぺたはもちもちとしていて、見える腕や足もふっくらとしている。彼女は不思議そうな顔をして、落ちているハンマーの元へと歩いていく。
「ノー! 私たちノット魔物!」
「あははー、それくらい見れば分かるよー」
少女は、巨大なシルバーハンマーを地面から拾い、肩の上に担ぐ。まだ分からない、“人間さんは頭から丸かじりが美味しいよねー”とか続けるかもしれない。
「わたしはアストラ! あなたたちも冒険者ー?」
冒険者。確か、ダンジョン内の魔物や素材を集めて売却し、生計を立てる職業のこと。始めたてとはいえ、これは“はい”と答えるべきだろう。
「俺はトリジ、こっちは俺の相棒のマルメロ。俺たちは冒険者だよ、まだ始めたてだけどね!」
「そうなんだ! 初心者さんなんだね! わたし強いから、一緒に来る? 手伝ってあげる!」
え!? いいんですか!? 童女改めアストラ先輩!
「お願いします! 一生付いて行きます!」
「あはは、一生は無理だよー」
赤服の童女先輩は屈託なく笑っている。世界の宝。写影機で納められるなら、その瞬間をシャッターを切っていた所だぜ。
と、腕をひかれる。振り返れば、カエル人がなんだか不服そうな目で俺の顔をじっと見つめている。
「まぁ……初心者のうちは危ないからね。早く強くならせて貰った方が、後々いろいろ効率がいいよ」
別にマルメロのことが要らなくなったわけじゃない。
「……べつに? 私は何も言ってませんけどね?」
と、マルメロは声を平静に保ってそう言ってくる。
マルメロ……まぁいっかぁ! 今は戦力を高めることが先決だ!




