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俺たちの目の前で、少女の肩に担がれた白銀の巨大なハンマーが左右に揺れている。等身が低めで、体が大きめな彼女の、赤い服の広がったスカートとお尻が揺れている。
「トリジさんは、ソーシャなんだよね? ソーシャってすごいよね! 私たちでは扱えないアイテムも、ソーシャなら使いこなせるんだから!」
少女は視線をこちらに向けて話しかけてくる。
「そうなの?」
「そーだよ!」
写影機やカードのことを言っているのだろうか。確かに、今のところ、それらは俺以外に使っているところを見ていない。“透明なカード”は、倒した魔物からドロップするのに、だ。それとも、倒す人によってドロップ品も変わったりするのだろうか?
「えへへ。照れるなぁ」
「だから、ソーシャしか使えないものがあったら、トリジさんにお願いしてもいいかな?」
「どんと任せて! 俺のことはトリジでいいよ!」
俺たちは軋む地面の上を歩いていく。足元は硬く暗い、木々の根っこの絡まった地面。光はどこかからの隙間から漏れて降り注ぎ、暗くはあるが見えないほどじゃない。層を上に、端に行くほど場所は明るく、下に、中央に行くほど明かりは暗くなる。
「あ、モンスターだ!」
と、先んじて赤服の少女が走り出す。
「ご、ご主人さま指示を!」
「え、あ、うん! アストラと協力して魔物を倒そう!」
少し走って、そこは樹層の壁に囲まれた中規模の小部屋。走り回るにも、アストラがハンマーを振り回すにも差し支えはない。
暗い木々の地面の上に居たのは……透明な、X字のねばねばした何かだ。その体は、数珠上の無色透明なゼリーのようなもので構成されており、丸が連なったその体は溶け出した粘膜をまとい、粘つかせ、垂れ流している。
「うおー!」
と、何を言うまでもなくアストラはハンマーを掲げて魔物に一直線! 振りかぶった白銀のハンマーでそのまま! そこに居たエックスゼリーをぶん殴る。
ハンマーの平らな側面がXの中央を捉えた! ハンマーはそのまま振りぬかれ、べちゃ、ぐちゃと乱雑に体が絡みながら地面を転がり飛んでいく。
エックス字のゼリーは特に負傷もなく立ち上がった。
「あれー? 効いてないのー?」
「鈍器による攻撃が通じづらそうですね」
「吹っ飛んじゃうならー……じゃあ潰しちゃおう!」
アストラは特に気に留めない。ハンマーを引きずってそっちに立ち上がったゼリーへと追撃! 後ろから持ち上げたハンマーを、そのまま真上から振り下ろす!
捉えた! べにゃあと、白銀のハンマーの下でゼリーは潰れる。彼女がハンマーを持ち上げると、しかし――
枝や根の絡まった地面は多彩な窪みがある。透明な数珠上のゼリーはそこに押し付けられたが、変形して中に入り込み、それ以上潰されることは無かったらしい。
エックスゼリーが立ち上がる。頭はないが、両手両足と若干人型にも見える。
いったんアストラがこっちに下がってくる。
「ふえーん、私の攻撃が効かなーい!」
マルメロは今はカエル人。攻撃方法は直接的な打撃や体当たりくらいのみ。フルーツゼリーは食べて攻撃していたが、今回のネバっとしたゼリーはあまり食欲をそそらない。
「あ! 俺に任せて!」
と、俺は懐にあったそれを取り出す。アンティークな、木製と金色の金具の、丸々とした銃。傍から見れば透明なケースの中に、三発の小型ブドウ爆弾が入っている。
俺は銃を構え、照準を向こうのエックスゼリーに合わせた。引き金を引けば、ぽんと中から紫色の球が打ち出され。
緩やかな放物線を描きながらエックスゼリーに無事着弾! そんなに重さはないね、風が強いと流されそう。それから紫色のこの玉には粘着力があるようで、玉がゼリーの体に当たった途端くっ付き、若干の勢いを与えながらゼリーの体を引っ張る。
一、二、三――
ぴか、ぴか、ぴかと紫色の玉は明滅し、直後に起爆! ぼんとその場で衝撃をまき散らし白い煙を上げる。
魔物は体勢を崩し、その場によろよろとくずおれる。しかしまだ倒せた状態ではなさそうで、俺はもう一度照準を向こうに構え、発射!
玉は飛んでいき、今度はゼリーの体には当たらなかったがそこの地面には落ちた。爆弾は範囲攻撃なので、多少狙いがずれても良さそうだ。再び点滅の後に紫の玉は起爆、幕府を上げ、透明なゼリーは体を反対にのけぞらせて倒れる。
おそらく倒せた。ゼリーの表面が粘つきを失い、水晶のように固まり、若干縮んでその場に倒れた。
「やったみたいだね!」
「おー! トリジくんもやるぅ!」
俺たちは倒れたモンスターの元に歩み寄る。そこには落ちたドロップアイテムがある。
めぼしいものはない……銅のつぶつぶと、今のモンスター固有の素材だけかな。落ちたアイテムは……まん丸の透明なゼリー? いや、摘まめばそれはぷにぷにとしている。薄い膜の中に、さっきのゼリーのねばねばが入っているようだ。
「アイテムや報酬の分配は……冒険者ってどうするの? アストラ」
「んー? とりあえず、アイテムは頑張った人のものでいいんじゃなーい? 今回はトリジが持ってっていいよ! メタルドロップは、じゃあ後で集めて人数で等分、高価なものについては別途協議で!」
と、アストラは決めてくれる。アストラの方が強そうで経験もありそうだし、アストラは俺たちがいない方が稼げるだろう。俺たちの人数は二人だし。しかし、今回は彼女の方から“初心者を手伝ってあげる”と言ってくれているし、彼女から出された提案なら俺が文句を言うこともない。ここは甘えさせてもらおう。
「すみません……ご主人さま。今回は見ているだけでした」
と、マルメロは隣から、申し訳なさそうな顔をして入ってくる。
「いやいや、気にしなくていいよ! 俺はこれからもマルメロを頼るつもりでいるからね! 今回一回くらい!」
でも確かに、今の手持ち魔物カードでは、マルメロの戦闘力が物足りなくなっているかもしれない。戦えないこともないのだろうが、見た感じここで出会う魔物相手には、今の強さだとちょっと効率の悪さを感じるだろう。
また“透明なカード”を手に入れて、その次はマルメロが強くなれる魔物のうつわ探しだな。
「お?」
今しがた振り下ろした彼女のハンマーがとどめだったようだ。茶色のトカゲはきゅうと鳴き、体が色あせて周りにアイテムを排出していく。
落ちた! “透明なカード”! しかし今魔物は倒したのはアストラであり、決めたルール通りなら……、
と、アストラは落ちた“カード”を真っ先に拾い、こっちを振り返った。そして、こっちにまっすぐ持ってくる。
「これ! ソーシャが使う“カード”だよね!」
彼女は笑顔で俺にそれを見せてくる。
「う、うん! そう、だけど……」
「あげる!」
赤服の少女は、迷いなく、そのカードを俺に差し出してきた。多分、俺がそれを欲しいことも分かっているのだろう。その上で、特にためらいもなく差し出してくれるのだ。
「ありがとう……アストラ先輩……」
「あはは、そんなに感謝しなくても……。そんな事より、この“カード”はソーシャなら使えるんだよね! 使ってるとこ、見てみたいな!」
「もちろん! でも、せっかく手に入れたカードだし、今は、マルメロがもうちょっと戦えるようになるような、強い魔物に使ってみたいんだ。そういうのが出てくるまで待ってもいいかな?」
「うん! いいよ! マルメロちゃんが入ることになる体だよね? どんなのがいいかな!」
ここまで何匹か魔物たちに出会ってきたが、なんだか雑魚敵といった感じで、今持っているカエルやゼリーのカードと比べても、そこまで変化がないように思える。まぁ弱いから不安もなくサクサク倒せてきたんだけど。
次にマルメロを入れる体となると、やっぱ選びたいよなぁ……先日のブドウドラゴンは……アストラを入れても倒せなさそうだし、弱らせないままだと写影機で写せない気がする。行先も知らないが探しても無駄そう。




