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俺たちは、若干暗くなってきた視界を歩いていく。ここダンジョン[層樹林]は、中心部、そして下層に行くほど視界が暗くなっていく。そしておそらくだが、たぶん中心部に近づくほど、出てくる魔物が強くなっている気がする。
それは、曲がり角の先から現れた。現れる前にその存在が分かっていた。なぜなら、そいつの体は燃えていたから。
「お、ファイアライオンだ!」
曲がり角の先から現れたのは、首に炎の輪っかをまとったライオン。
若干暗い層状の樹海の中、こちらに立つのは俺、ハンマーを持った赤服の少女、カエル人ことマルメロの三人。
「カエルは……乾燥に弱いよね。いったんゼリーに変わる?」
「わたしが倒すから大丈夫だよー!」
あ、そうだ。先に写せるか試してみよう。
俺は、黄色いL字のケースに透明なカードをはめ込み。
「いったん撮れるか試してみます!」
「あ、うん!」
白銀のハンマーを構える彼女の後ろで、パシャリ。しかし何も起きなかった。おそらくは弱らせてからじゃないと撮れないタイプだろう。あれ、そういえばこのカード、魔物以外を写したらどうなるんだろう。
「弱らせてからじゃないと無理そうですね。撮影タイムは倒した後です!」
「そっか! じゃあまずは倒さないとだね!」
向こうから、のそ、のそと、ゆっくりと炎をまとったライオンが歩いてくる。俺はアストラの後ろで、マルメロの体をカエル人からゼリー人に変える。ゼリー人の方が、さらに攻撃力は弱いのだが、流れ弾でマルメロが倒れる、なんてことないように。
薄暗い樹層の中で、燃える炎を首にまとったライオン。こちらを脇目に見つめながら、ライオンは右から左へと、距離を保ちながら歩いていく。
俺たちの前には、銀色のハンマーを背負った赤い服の少女が立っている。スカートの下に伸びた足は子供のように太く、丸い。
ライオンが立ち止まる。立ち止まったまま、ただ揺らめく炎を漂わせ、鋭い二つの眼光がこちらを見ている。
邪魔しちゃいけないんだ、俺と、それからマルメロは足手まといだ。ライオンはただアストラを見ているし、アストラもただ向こうのライオンを見つめている。
ぎし、と音が鳴る。樹木の層を、思いっきりアストラが踏みにじった音だ。
ダ、ダ、ダダダダと赤服の少女はハンマーを掲げ走っていく。ライオンはまだ動かない。
「はぁぁぁあああ!!」
彼女の背後に置かれた白いハンマー。彼女は急に立ち止まる、大股を開いて正面を向き、両足を地面にしっかりと付けて、背中のその大きな鈍器を引き上げ、振り下ろす。
彼女のハンマーが樹層の地面を強く打った。その衝撃波が波となって伝わり地面を揺らしている。
ライオンは軽い身のこなしで奥に避けた。アストラの攻撃はまだ終わらない。
地面に置いたハンマーの横を抜き去り、アストラはさらに前に出る。ハンマーの取っ手をつかみ、力が入る。重く巨大なハンマーが持ち上がり、地面と平行に、風を切って、ハンマーが彼女を中心に振り回される。
それは強力な横なぎの一撃。ライオンは鋭くアストラのその動きを見つめており、またも、彼女の攻撃は軽々避けられる。彼女の攻撃は大振りで、分かりやすい。俺だって何をしてくるかが分かる。あっちの身軽なライオンなら、なおさらだろう。
ハンマーが通り過ぎ、彼女は空いた背中を見せる。だがライオンはその背中に飛びつかない。なぜなら勢いがある。
彼女は通り過ぎたハンマーを、自分を中心に振り回す。ぐる、ぐると、彼女は両手でしっかりと柄を掴み、一体となって鈍器の旋風となり、ライオンへと近づいていく。
ライオンは後ろに下がっていくが、やがて背後には樹木の壁がある。ライオンは回転攻撃の範囲から逃れるために、脇へと大きくジャンプした。
「そこだ!」
手放されたハンマー! 空を飛ぶ巨大な鈍器! 白銀の巨大な鉄塊は、逃げ先を求めて右へと逃れたそのライオンの体へと直撃する!
巨大な鉄塊が肉の体を押しのける。ぐにょぉあ、と肉の上をハンマーが通り過ぎ、炎が空気にばらけて消える。ライオンは仰向けになり、ぴくぴくと体を引きつらせ、口からよだれを垂らしながら、その体の色を薄くしていく。
横たわる灰色のライオン。もはやそこには一片の炎も灯っていない。
「倒した!」
腕で汗をぬぐい、向こうで赤服の童女が笑みを浮かべ、勝利を宣言した。
「じゃ、がんばってね!」
アストラは、現れた時と同じように朗らかな笑みを浮かべ、巨大な白銀のハンマーを背負って歩いて行った。彼女はまだここより“奥”に進むらしい。今の俺たちでは足手まといにしかならず、互いの身を危険に晒すことになる。
俺たちはアストラにお礼を告げ、ダンジョンの中のその場で別れた。生きていればそのうちまた会えることもあるだろう。
「いやー、強かったねーアストラ」
俺は迷宮の奥に進んでいくアストラを見送りながら、隣に居るマルメロに話しかける。
「……そうですね」
隣を見れば、ゼリー人の彼女は、透明な顔に、若干の不服の感情を浮かべている。
「俺たちも追いつかなきゃね。と言っても、強くなるのはマルメロかな?」
俺がそう問いかければ、ふふんと笑みを漏らし、彼女はこちらを見つめた。
「このわたしに、任せてください!」
俺たちは樹層の壁に小さな穴を見つけ、潜り抜けてみれば閉ざされた小部屋がある。
俺たちはいったん、その中で休憩を取ることにする。
朝に買ったお弁当は魔法のポーチの中に。手を伸ばして中のそれらを掴み、ポーチの外へと引き上げる。ポーチの中は切り離された空間なのか、俺たちの進行による振動や衝撃を受けていないようだった。
隣には、燃える炎のような、赤く短い髪をはやした彼女が座っている。前身はクリーム色の体毛に覆われ、また、あのライオンはメスだったようで、カードはメス、魔物体もメス。
彼女の体には、見慣れた滑らかな二つの膨らみが見えている。体毛に覆われて確認できないが、おそらく乳首も割れ目も無いのだろう。ゼリー人にも無かったし。あくまで人型を模した体。
彼女は俺が差し出した弁当を持って、二つの腕で器用に食べている。彼女の手には内側に肉球があり、毛で覆われた細い指がある。そして何より鋭い爪。口の中には鋭い牙。たぶん、前回より攻撃能力が上がっている。
お弁当の中身は、白ご飯といくつかのおかず。肉のおかずもあり、野菜も入っている。俺も二本の箸を器用に操り、中の食べ物を摘まんでいく。
「どうだい? お弁当は美味しいかい?」
俺が問いかければ、彼女は俯いていた顔をこちらに向けて、にこと笑う。
「はい!」
「そう言えば、写影機で魔物以外の生き物を撮ってみたらどうなるの?」
樹木の小部屋の中。俺たちは背中を壁に預けて、隣同士で並んで座っている。隣の、クリーム色のふさふさとした膝の上に乗ったお弁当は、すでに空っぽ。使い捨ての木製箸をがじがじと噛みながら、隣に座ったマルメロがこちらを見る。
「撮ってみますか? 私を」
にへ、と、彼女は冗談めかして笑う。絵になりそうな顔。
「今は持ってないねー」
「撮れませんけどね。住民や、私みたいな精霊、魔物体の精霊、それからソーシャもそうです。撮っても、そこには何も写りませんよ。写影機が取れるのは基本魔物のみです」
「そーなんだ」
俺は、今は何もはまっていない、L字の黄色いケースを見つめる。




