第五話、町の仕立て屋さん
「にーちゃんたち、明日暇か?」
夕焼けの空の下、疲労の混じった体を携えて、見慣れた商店を訪れる。ダンジョンにて手に入ったアイテムを清算していると。アーシャからそんなことを呼び掛けられる。
「いつだって暇だね! デートのお誘いかい?」
「何言ってんだ? うちの町の“仕立て屋”が、にーちゃんたちのことを話したら興味があるってんでな。出来れば、明日にでも顔を見に行ってくれないか?」
「仕立て屋さん? 場所はどこの?」
褐色の少女は、黙って俺から見て右斜め上を指さした。
商店の隣には、二階建ての横に長い建物が、道に沿って伸びている。建物の中には、食堂など、いろんな人が利用するお店が入っている。
そこの二階、一番左の所を見上げれば、確かにそこに服のイラストが描かれた看板が下がっている。
「明日でいいの?」
「急ぎの用じゃないしな。探索帰りで疲れてんなら、お互い明日の方がいいだろうさ」
「おっけー、覚えとくねー」
*
俺たちは日を改めて、宿の外に出てきた。整えられた道の上を歩いていけば、そこに横に長い木造の建物がある。
暗い木目で出来た外階段を上がって、建物の二階の外廊下を歩き、一番奥突き当たりを右に。
「ごめんくださーい」
暗いカーテンをくぐって中に入れば。
いくつもの巻かれた布が納められた棚、広げられた広く長い布。作りかけの服、ラックに掛けられた完成済みの服。服を着せられている、動かない木製人形。
「あら?」
「さっそく来てくれたみたいですね」
「ようこそいらっしゃいました」
「まずはお茶でも入れましょうか」
二つの方向から、同じ声が立て続けに、息を揃えて交互に聞こえる。
それぞれの声の先に人が居る。同じ顔、同じ髪型、似たような服。黒と白の、フリルのたくさん付いたドレスを着ている。しかし片方の黒髪のおかっぱには、頭の右上に黒い大きなリボンが着き、もう一人の頭の左上には、赤い大きなリボンが着いている。
リボンが着いているおかげで二人を見間違うことはなさそう。リボンを入れ替えられたら、わからないが。
「あなたが噂に聞きしトリジ様」
「それからマルメロ様」
「そうだよー。あなたたちは誰?」
俺が聞けば、二人は離れた距離で顔を見合わせ、くすりと笑いをこぼす。それから息を揃えてこちらを振り返り、
「「わたしは ロ\ミ/ミ\イ/オ\ロ と申します」」
「聞こえない聞こえない、急に大事なところ被せないで」
似た者同士の二人は、顔を見合わせくすくすと笑っている。
俺は促されるまま、そこに置いてある、背もたれのない丸椅子に座る。俺の周りには、喋らない黄緑色の光の玉がふわふわ漂っている。
俺の正面には、ロミオと名乗った、頭の右側に黒いリボンを着けた方の少女 (両性?)が座っている。
「此度は私たちの都合で、あなた様をお呼び立てして申し訳ありません」
「気にしないで! それより、今日はどんな用があってここに来たの?」
こと、こと、と、脇に置かれた丸いテーブルに、琥珀色の液体が入ったティーカップが置かれる。
「トリジ様、マルメロ様に置かれましては、ダンジョンで魔物を倒し冒険する、冒険者とのこと。ならば、私たちと良い関係を築けるのではないかと思いまして」
「仕立て屋さんが? まぁ確かに、服はどこだって必要だけど」
今は、ポーチに入っていた同じ種類の服を着まわしている。丈夫で、しばらく新しいものを買う必要はなさそうだ。
くす、と、正面に座るおかっぱの少女は笑みを深める。
「“コスチューム”。私たちは魔物から落ちる素材により、特殊な能力を持った衣装を作成することが出来ます」
「ほう。素晴らしい。我々は良い関係を築くことが出来そうだ」
「つきましてはまず一つ。私たちの求める素材をお集めになって来てください。衣装作成のお代は今回はいただかなくて大丈夫です。私たちは集めた素材で、あなた方のために“コスチューム”を作りましょう」
お茶を入れ終わったもう一人が、ロミオの傍らに立ってたたずむ。
「いいのー? 俺とマルメロ、どっちの服を作るの?」
「私たちの作る“コスチューム”は、普通の衣服とは異なる特殊なアイテム。それは普段は卵のような形をしており、誰かに与えることで、その誰かに沿った衣装を付与します。それは“上書き状態”であり、使用の際にわざわざ服を脱ぐ必要はありません」
ふむふむ。
「“コスチューム”は、ソーシャ、住民、精霊が変化した魔物体、魔物など、多様な相手に対して使用することができます」
なるほど、便利なアイテムだ。
「いいね! 具体的には? どんなアイテムを集めて来て欲しいの?」
「今回はゼリー系の素材ですね。あればあるだけいいですが、今回はとりあえず百個ほど」
100……多い。買い取り価格換算で言えば、フルーツゼリー百個だと6000ライト。
でも、本来ならそれに加え衣装作成のための費用が必要とされる。俺たちは今、身の丈以上の提案を受けているのだ。こっちが断る理由はない。
「この町の地下には、今は使われていない、外へと繋がる通行路があります。そこでゼリー系の魔物がわんさか湧いているので、素材を集めるのはちょうどいいかと」
「そうなんだ。目標もなくダンジョンに潜るのもなんかなーだったし、ちょうどいい目標ができて良さそうだ」
にこと、ロミオと名乗った少女は、静かに、顔を笑みの形に変えた。
「それでは、楽しみにお待ちしております」




