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ー15 強敵個体

 “連続撃破ボーナス”。それは、ダンジョン内で、立て続けに魔物を倒した時に、こちらに掛かる状態のことである。“水場”など、魔物の集まる場所で起こりやすい。


 “連続撃破ボーナス”状態では、まず、次に出会う敵に強い相手を引きやすくなり、そして落ちるドロップ品が少し多く、あるいはレア度が高くなりやすくなる。


 そして、“連続撃破ボーナス”を続けると現れるのが。


 “強敵個体”。それは、一時的に敵にバフが掛かり、強くなった状態の個体。それを倒すと敵が途切れ、“連続撃破ボーナス”も途切れる。“強敵個体”は、それまでに現れた魔物よりもひときわ強く、また、報酬も美味しい。


「“強敵個体”だよ!」


 アストラ先輩は銀槌を構え、向こうの岩柱の陰を見つめる。


 そこから現れたのは……頭の丸い、何か。ぬらぬらと黒光りした頭は、これまで通りに、この場所の、爆破性の液体をまとった体だろう。両前足があり、そして後ろ足もある、太い尻尾もある。丸々と太ったトカゲ……に、見えなくもないが、ヒレもある。


 でかい太ったトカゲは、ぺたぺたと、地面を濡らす液体を後に残しながら、両足を交代交代に進めながら、地面を這ってこちらに近づく。


「遠距離手段はないよ。重くて硬い、攻撃すると爆発する。あぁ、吐いて攻撃はするかも」


「先輩なら、あれは殴りやすい的(まと)……ですか?」


 アストラ先輩は、重い大槌を振り回す鈍重アタッカー。素早く小さい相手には攻撃を当てづらいが、重くでかく遅い相手には、攻撃を当てやすい。


「いや……あの子は爆発がでかいから、近くで殴ると、私の体まで巻き込んじゃう」


「じゃあ、投げて当てる?」


「意外と走れもするから、得物を手から離したくはないかな」


 ふーん。


「じゃあ連撃ですか」


「そう……そう! 一度わざと爆発させて、その直後なら、次の爆発が起こらずに私も殴れる!」


 ということは、逆に言えば、一度爆発させた直後でなければ、あのでかくて重い体はいつでも強力な爆破を放ってくる。


「まぁ……先輩が一撃で倒せるなら、マルメロを犠牲に」


「……使ってください」


「いや、一発じゃキツいかも」


 “ラセンの笛”による攻撃バフは、おそらく1.1倍から1.3倍程度の強化。先輩がぎりぎり一発で倒せそうな相手を、一発で確実に倒せそうなラインには持っていけるが、二発以上耐える相手を一発で倒すのは難しいだろう。


「だって。マルメロ、自分を大事にね」


「どう使おうがご主人さまの勝手ですよ。私は忠誠心が高いので」


 若干とげがある。後で謝ろう。

 



 ぺたぺたと地面を這って、太トカゲが向こうから近づいてくる。


 アストラ先輩があいつに近づき攻撃するために、まずはトカゲの一発目の誤爆を起こす必要がある。マルメロも遠距離攻撃の手段がない、アストラ先輩が使っているのを見たこともない。


 じゃあ俺か。懐に手を入れ、“雷撃”の呪符を取り出す。これは割合で現在HPを消費し攻撃を放てる。爆発を誘発するには、十分な衝撃だろう。呪符、グリーンオーブと消費するので割高だが、今日一の強敵を倒せるなら、使い時ではあるだろう。


「俺が爆発させます!」


「あぁ……待って! 一つの爆発じゃ、相手の魔物の、体(からだ)全体は“非活性状態”にならないかも! 良くて、体表の片側の半分とかかな!」


 ってことは、先輩が攻撃する前に、先輩が当てやすい場所に攻撃を当てておく? 濡れトカゲの頭がこちらに向いており、俺から今狙えるのも頭だけ。俺が頭に当てたとして、しかし相手が怯まないなら、例えばあの太く重い尻尾を先輩の方に振り回すこともできる。


「出来れば、トリジくんは後ろでバフに回ってて欲しい! 爆発を食らった時用にも!」


「あ、はい! 気を付けて見てます!」


 ということは……。アストラ先輩の視線も、一瞬だけちらりと、マルメロの方を向く。


「期待されてるみたいだよ、マルメロ」


「……はい」


「機転を利かせるんだよー」


「……ご主人さまみたいにですか? 私はどちらかというと、脳死で殴るタイプなんですけど……」


 マルメロとアストラ先輩、二人の背中が俺の前に立ち、向こうから迫る太トカゲを待ち構える。




「がんばれまるめろー」


 俺は笛を構え、二人の背中を見送る。向こうから、黒々と肌の濡れた、頭の丸いトカゲが歩いてくる。近づいてくる前は、体から、強化個体である赤いチカチカとしたオーラが出ていたが、見ていればもう消える。


 二人が左右に走り出す。俺は一人残された。間に遮るものもなく、あそこに居る太トカゲが急に突っ込んできたら、俺を守るものはないのだが。今回は遠距離手段を持たない地上型、カードホルダーに付けている“空中シューズ”の回避が有効だろう。


 先輩は左手で銀槌を構える。先輩は特に残機とかないので、簡単に被弾するわけにはいかない。相手は爆発する液体を体にまとった塊。まずはその突破口を。


 右手に構える、黒ムカデ人ことマルメロがどうにかする必要がある。



 マルメロの頭部や肩の黒い甲殻の間から、白い冷気が漏れ出してくる。


 黒ムカデ人が、両腕を構え、じりじりと、向こうの濡れトカゲににじり寄っていく。トカゲは向こうで立ち止まり、マルメロとアストラの両者を睨みながらそこで立ち止まっている。


 マルメロの持つ冷気の能力なら、非接触の干渉が可能である。ただし、向こうの爆発する液体は、今までの戦闘を見るに凍結しない液体だ。また、相手の本体がどれだけの能力使用で凍るかも分からない。さっきのウサギくらいはすぐに凍ったが。


 マルメロは、とりあえず冷気による凍結を狙っているのだろうか、腕を構えて、今にも抱き着こうとする姿勢で、トカゲの方に向かっていく。


 トカゲは、近づいてくるマルメロの方に姿勢を合わせた。頭を向けて、近づいてくるマルメロの方をじっと見ている。


 トカゲが、口を開いた。


「わぷっ」


 俺が何かを言う前に、トカゲの喉奥から何かが飛び出した。唾か、とにかくそれは液体の塊だった。それはマルメロの白い胸の上にぶつかり、広がってその体を濡らして――


「あ、マルメロちゃんまずい! 避けて!」


 マルメロが被ったのは、明るいオレンジ色の、粘性のある液体。慌てて拭い落とそうとするが、それは体に広がるだけで取れない。


 トカゲが這いより、距離を詰めてきた。体を振って回して、その太く大きなしっぽが、マルメロの体を打つ。


 起爆した。


「わっ!」


 爆炎を起こして、マルメロの体が後ろに吹っ飛び、ごろごろと硬い地面の上を転がる。


「マルメロちゃん!」


 あー……まぁ、やっぱ、マルメロにはムズイよな。今の装備だとほとんど取れる戦略もなく、ただ殴るか、冷気を吐くか。考えてどうにか出来る所でもなく。


「マルメロは、いったん下がってていいよ!」


 ホラ貝を手放せば、それは虚空へと消えていく。俺は魔法のポーチに腕を突っ込み、中から刀を抜き取り、懐から呪符を取り出す。




 右手に抜き身の刀を、左手に呪符を。俺は地面を駆け出し。


 そして跳んだ。


「トリジくん!?」


「先輩は連携の準備を!」


 片腕で刀を握れば、振れないこともないが、ちょっと心もとない。なんせ握る点が一つだ、硬い衝撃、抵抗を刀に受ければ、腕力でそれを押し通すことができない。


 だがまぁ、あらかじめ決めたところに、体全体を捻って、一太刀入れるくらいは出来る。向こうの地面で、オオトカゲは口を開けて近づく俺を見ている。


 一歩、二歩と、“空中シューズ”を消費して空を踏みつけ、宙を歩く。あと一歩で奴の元まで届く、幸い、相手は俺を見上げたまま動こうとしない。元々爆発する体液をまとっているので、攻撃を避けるという選択肢がないのかも。


 最後の一歩を消費し、あとは俺は地に落ちるしかない。“空中シューズ”には十五秒ほどのクールダウンが設定されており、飛び続けることも出来ない。


 まぁ、片道あれば十分だ。俺は刀を構え、同時に、左手に握りこんだ呪符も発動させていく。


 オオトカゲは無防備に体の片側を晒していた。そこに、刀を振り下ろし一太刀。綺麗な斬撃を入れる必要はなく、むしろ、相手の肉に食い込んで、衝撃を落とすように。


 黒い体表をまとうオレンジ色の液体が、熱を持つ。


「ご主人さま!」



 次の瞬間には、俺の視界が切り替わっている。振り返れば向こうの地面にオオトカゲが佇んでいて、たった今爆発が起こったようであり、爆風が周囲の小石を揺らしている。


 “瞬転”の呪符。“雷撃”と同じく、HP消費型の発動スキル。発動すれば、空中を含めた任意の中距離に瞬間移動できる。間に、たとえ紐程度の若干の障害物があっても通り抜けられるが、隙間のない壁や、また穴の小さい網のような壁があれば、向こう側へはいけない。


 俺が攻撃したのは、オオトカゲの左側面。つまり、アストラ先輩に向いている側だ。


 さすがに笛は間に合わないな。俺は銀の大槌を掲げ、オオトカゲに迫る先輩の姿を見送る。俺が起爆させ、“非活性”状態のトカゲの体を。


 先輩の大槌がぶっ叩く。ぐにゃり、オオトカゲの柔らかい体が、先輩の振るった槌に押しのけられるように歪んでいく。


 同じ行動を四セットほど繰り返し、オオトカゲはようやく動かなくなった。俺のHP消費は半分ほどであり、グリーンオーブを一つ取り出し、使って体力消費を打ち消す。


 力なく、濡れた黒トカゲは四肢を大地に投げ出した。干物のように体がしぼんでいき、中からアイテムがぽぽぽぽぽと弾け飛ぶ。


「おつかれさま! トリジくん! 意外と大胆だったね! ……あ! 欲しいの落ちてる!」


 と、赤服の童女先輩は、たたたと足音を鳴らしながら、落ちたアイテムの一つに駆け寄る。この“餌場”に集まる魔物の集団は、今のでいったん落ち着いたはずだ。しばらく戦闘の心配はない。


「ご主人さま……」


 と、俯いた様子のマルメロが、とぼとぼと向こうから歩いてくる。


「マルメロもお疲れー。今回は、苦手な相手によく頑張ったね」


「その……」


 と、彼女は俺の前で立ち止まる。ヘルメットのように、口元以外黒い甲殻に覆われた顔は、俺の目からでは表情を確認しづらい。まぁ落ち込んでることくらい分かる。


「私一人が……ご主人さまの事を託され、この場に来たのに……」


「まぁ、苦手な相手、難しい狩場。いつもなら、ブルーバードやポイズンアントにも頼ってた所を、今日は先輩の胸を借りながら戦ってたわけで。素材取り用のカードで、レッドパールも外してるしね」


 と、俺が連ねる言い訳を、マルメロは受け取らない。


「私……その。足手まといでしょうか」


「今日得られる素材で、また強くするんでしょ。もう忘れたの? 今日は強くなりに来たんだから、今キツいのは当たり前だね」


「……まぁ」


 と、先輩は“それ”を拾って帰ってくる。


「トリジくん、欲しいの落ちてるよ!」


「それは……なんですか?」


「これはね、“お守りの珠”! “お守り”の一種でね、持ってると特殊な効果があるの!」


 と、先輩はそのふっくらとしたおててを広げて見せてくる。赤い服の裾、腕の中には白いフリル。まぁそれは良いとして。手の平の上には……黒々とした、あるいは光の加減で赤くも見えるかもしれない、よく磨かれた、親指ほどの大きさの球が乗っている。


「これは“爆撃激昂”の珠。効果を簡単に説明すると、“爆破”属性の攻撃を受けた時、“一回だけ攻撃力を大きく高める状態”を得られるよ」


 ふーん。爆破を受けると、自身の攻撃が強化。


「効果自体は強そうですけど、安定しての発動が難しくないですか? まぁこの狩り場専用なら、めっちゃ使えそうですけど」


 何なら、今からでもマルメロに付けるのも良いんじゃないだろうか。装甲で受ければ、爆破のダメージも抑えられる……かな。


「と、思うじゃん? まぁいろいろとコンボがあってねぇー……まぁでも、まだ装備を作るための装備が集まってないからね。いったん休憩入れようか!」


 あ、今日まだやるんだ。手持ちのグリーンオーブは、そこまで在庫があるわけじゃないし……。次はマルメロに任せよう。



 アストラ先輩の元、狩場に通ってひたすら素材を集めていく。


 集めた素材を、鍛造屋へと持ち込んだ。鍛造屋の店主のガーディアさんには、遠方で同じく素材の加工屋を運営している兄弟が居るらしく、今回はそこに送って製作を依頼するらしい。俺たちの寸法だけ測り、素材とメモを、何かの包みに包んでいた。


 また、余った素材を、隣の仕立て屋さんへと持って行った。どうやら何かを作れそうで、双子の二人がぽいぽいと素材を鍋に入れていった。




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