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ー8

 遠くで鳥の声が聞こえる。いつの間にか視界は明るく、目を開ければ、そこは見慣れた宿屋の部屋の中。


 俺は薄いシーツをまくって起き上がる。窓はカーテンが掛かっていて、白い薄布の向こうは明るい。机の上には広がった黄金の餅。


 そして、マルメロがそこの椅子に座っていた。いつもは、椅子の上の座布団の上で、黄緑色の光の玉状態で安置されているのだが。今は、“霜降りムカデ”のカードを装備した状態のムカデ人の姿で、そこの椅子に座っていて。


「おはようございます、ご主人さま」


「おはよー、マルメロー……今日は朝から早いねー……」


 俺は下半身をずらして、両足をベッドの下に降ろし、スリッパを探す。と、横目に、マルメロの黒い甲殻で覆われた膝の上に、なにやら物が乗っているのが見える。


 まぁ、いったん顔洗ってくるか。


 一浴び済ませ、部屋に帰ってくると、マルメロは変わらない姿勢で、椅子に座って待っていた。しかし、何やらうずうずと待ちきれない様子。


「ご主人さま、見てくださいこれ」


 と、そこで、マルメロはようやく膝の上に乗せていた物を掲げ、俺に見せてくる。


「なに? それ」


「カードホルダーです! 拾ってきました!」


「拾……え?」


 マルメロは、自信満々な様子で俺にそれを見せつける。俺が持っている写影機は、L字型の黄色いケースで、そこに“透明なカード”を装着することができる。マルメロの持ってるそれは、同じ大きさのカードを、中に入れられるカバーみたいなケースと、それを腕に固定できるようなバングル。


「精霊はたまにものを拾ってくるんですよ」


「猫みたいな?」


「ねこ……まぁそれでもいいです。そんな事はいいんですよ。それより、気になりませんか、この“カードホルダー”!」




 “カードホルダー”。中に、写影済みの“魔物カード”を装着することが出来る。ソーシャ専用アイテム。装着する“魔物カード”に応じて、使用者に身体性能への強化付与、それからカードの性能に由来した固有のスキルが使えるようになる。


「“魔物カード”のまま、“スキルカード”みたいに使えるようになって、それから身体性能にバフの掛かるアイテム?」


「そうですね! まぁ、“カードホルダー”で使えるようになるスキルは、“魔物カード”を重ねて作成する“スキルカード”のスキルほど、強力なものではなく、おまけみたいなスキルですが。身体へのバフも、苦労して作る防具ほどの効果もありませんし」


 なんかこう、色んなものをお試し出来る的なやつ? 


「とは言え、もちろん、強力な“魔物カード”となれば、もたらす効果も大きいものになりますよ!」


「例えば……“黒牛魔のカード”をこれにセットすれば、俺もムキムキになれたり?」


 うーん、とマルメロは唸る。


「おおむね、そうです。ただし、私のようには、ご主人さまの見た目に変化は現れません。また、効果量も爆発的なものではないので……一番強いカードは、その、私に回して貰った方が、上手く回るかなーと」


「あぁ、うん。たとえばね」


 バフをあてにするなら、俺にも出来るだけ強いカードをあてがった方が良いだろうが。とはいえ、手持ちにはいろいろカードがあるし。スキル次第によっては、例えば“グリーンフロッグのカード”で俺が大ジャンプ出来るようになったり。弱カードの使い道も出てくるだろう。


「また、楽しそうな道具が増えたね、マルメロ」


 マルメロは嬉しそうに答える。


「でしょう!」






 俺たちの視線の先に見えるのは、上下二色に分かれた山肌。下が赤で、上が青。緩やかに草原を下っていくと、一段下がって左右に伸びる溝があり、その先から山の上り坂の斜面が始まる。


 山肌には、下から斜面に沿って斜めに続く登山道があり、それは所々にある平地の広場へと繋がり、また伸びていく。道は一本道ではなく、さまざまに分岐したり、合流したりしている。遠くから見れば、その複雑さはまるでアリの巣のようだが、上を目指せば上に着くので迷うことはない。


「それじゃあ、今日からは、エリア4の攻略を始めるよ」



 マルメロ、ブルーバード、ポイズンアントの三人には、“レッドパール”と呼ばれる、経験値を溜め、経験値を力に変えるアイテムを持たせている。これを持たせながら戦闘を繰り返すことで、三人の性能は徐々に上がって来ている。


 俺たちは段差を折り、エリア3の魔物に絡まれないうちに、エリア4の登山道の入口へと入っていく。


 ここはレベルフロントのエリア4。この山の下部分、赤茶けた山肌の部分がエリア4であり、もう上半分、青い岩肌の部分からがエリア5だ。俺たちが進むのは、山肌に斜めに登っていく道の部分だが、魔物との戦闘は主に、合間合間にある広場の部分で発生する。




「ヴァンピちゃんは、今日は何してるのかなー」


 ヴァンピ。たまにダンジョン内で見かける、羽の生えた少女。俺たちが現在、打倒を掲げている目標でもある。


 町で休んでいる時はブルーバードもポイズンアントも休憩洞窟に居り、たまにヴァンピちゃんが遊びに来るのだが、今日は遠征日。


「新しく友達できたって言ってたよ」


「え、まじ? どんな子?」


「魔物」


「そこからは?」




 俺たちは赤肌の登山道を登っていく。少しすれば、斜面の合間に出来た広場に辿り着く。


 俺たちが広場に辿り着くと、マルメロが手で俺たちを制止する。そして、どこからともなく気配が降ってくる。


 斜面の上から滑って現れたのは……大きなカエルだ。[岩屋根]で見た岩ガエルくらいの大きさ。


 しかし……目の前にいるそのカエルは、さらに重そうで、さらに固そうだった。よく見かける、両生類のような柔らかい体ではなく、全身に筋肉が走っていそうな。


 焼いた餅のようにひび割れた体表、きなこが掛かったかのような黄土色の模様。足を持ち上げるだけで重そうな、平たく潰れた体。


「エリア4の魔物を相手するのは初めてだ。マルメロ、ブルーバード、ポイズンアント。みんなで行くよ」


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