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遠くで鳥の声が聞こえる。いつの間にか視界は明るく、目を開ければ、そこは見慣れた宿屋の部屋の中。
俺は薄いシーツをまくって起き上がる。窓はカーテンが掛かっていて、白い薄布の向こうは明るい。机の上には広がった黄金の餅。
そして、マルメロがそこの椅子に座っていた。いつもは、椅子の上の座布団の上で、黄緑色の光の玉状態で安置されているのだが。今は、“霜降りムカデ”のカードを装備した状態のムカデ人の姿で、そこの椅子に座っていて。
「おはようございます、ご主人さま」
「おはよー、マルメロー……今日は朝から早いねー……」
俺は下半身をずらして、両足をベッドの下に降ろし、スリッパを探す。と、横目に、マルメロの黒い甲殻で覆われた膝の上に、なにやら物が乗っているのが見える。
まぁ、いったん顔洗ってくるか。
一浴び済ませ、部屋に帰ってくると、マルメロは変わらない姿勢で、椅子に座って待っていた。しかし、何やらうずうずと待ちきれない様子。
「ご主人さま、見てくださいこれ」
と、そこで、マルメロはようやく膝の上に乗せていた物を掲げ、俺に見せてくる。
「なに? それ」
「カードホルダーです! 拾ってきました!」
「拾……え?」
マルメロは、自信満々な様子で俺にそれを見せつける。俺が持っている写影機は、L字型の黄色いケースで、そこに“透明なカード”を装着することができる。マルメロの持ってるそれは、同じ大きさのカードを、中に入れられるカバーみたいなケースと、それを腕に固定できるようなバングル。
「精霊はたまにものを拾ってくるんですよ」
「猫みたいな?」
「ねこ……まぁそれでもいいです。そんな事はいいんですよ。それより、気になりませんか、この“カードホルダー”!」
“カードホルダー”。中に、写影済みの“魔物カード”を装着することが出来る。ソーシャ専用アイテム。装着する“魔物カード”に応じて、使用者に身体性能への強化付与、それからカードの性能に由来した固有のスキルが使えるようになる。
「“魔物カード”のまま、“スキルカード”みたいに使えるようになって、それから身体性能にバフの掛かるアイテム?」
「そうですね! まぁ、“カードホルダー”で使えるようになるスキルは、“魔物カード”を重ねて作成する“スキルカード”のスキルほど、強力なものではなく、おまけみたいなスキルですが。身体へのバフも、苦労して作る防具ほどの効果もありませんし」
なんかこう、色んなものをお試し出来る的なやつ?
「とは言え、もちろん、強力な“魔物カード”となれば、もたらす効果も大きいものになりますよ!」
「例えば……“黒牛魔のカード”をこれにセットすれば、俺もムキムキになれたり?」
うーん、とマルメロは唸る。
「おおむね、そうです。ただし、私のようには、ご主人さまの見た目に変化は現れません。また、効果量も爆発的なものではないので……一番強いカードは、その、私に回して貰った方が、上手く回るかなーと」
「あぁ、うん。たとえばね」
バフをあてにするなら、俺にも出来るだけ強いカードをあてがった方が良いだろうが。とはいえ、手持ちにはいろいろカードがあるし。スキル次第によっては、例えば“グリーンフロッグのカード”で俺が大ジャンプ出来るようになったり。弱カードの使い道も出てくるだろう。
「また、楽しそうな道具が増えたね、マルメロ」
マルメロは嬉しそうに答える。
「でしょう!」
俺たちの視線の先に見えるのは、上下二色に分かれた山肌。下が赤で、上が青。緩やかに草原を下っていくと、一段下がって左右に伸びる溝があり、その先から山の上り坂の斜面が始まる。
山肌には、下から斜面に沿って斜めに続く登山道があり、それは所々にある平地の広場へと繋がり、また伸びていく。道は一本道ではなく、さまざまに分岐したり、合流したりしている。遠くから見れば、その複雑さはまるでアリの巣のようだが、上を目指せば上に着くので迷うことはない。
「それじゃあ、今日からは、エリア4の攻略を始めるよ」
マルメロ、ブルーバード、ポイズンアントの三人には、“レッドパール”と呼ばれる、経験値を溜め、経験値を力に変えるアイテムを持たせている。これを持たせながら戦闘を繰り返すことで、三人の性能は徐々に上がって来ている。
俺たちは段差を折り、エリア3の魔物に絡まれないうちに、エリア4の登山道の入口へと入っていく。
ここはレベルフロントのエリア4。この山の下部分、赤茶けた山肌の部分がエリア4であり、もう上半分、青い岩肌の部分からがエリア5だ。俺たちが進むのは、山肌に斜めに登っていく道の部分だが、魔物との戦闘は主に、合間合間にある広場の部分で発生する。
「ヴァンピちゃんは、今日は何してるのかなー」
ヴァンピ。たまにダンジョン内で見かける、羽の生えた少女。俺たちが現在、打倒を掲げている目標でもある。
町で休んでいる時はブルーバードもポイズンアントも休憩洞窟に居り、たまにヴァンピちゃんが遊びに来るのだが、今日は遠征日。
「新しく友達できたって言ってたよ」
「え、まじ? どんな子?」
「魔物」
「そこからは?」
俺たちは赤肌の登山道を登っていく。少しすれば、斜面の合間に出来た広場に辿り着く。
俺たちが広場に辿り着くと、マルメロが手で俺たちを制止する。そして、どこからともなく気配が降ってくる。
斜面の上から滑って現れたのは……大きなカエルだ。[岩屋根]で見た岩ガエルくらいの大きさ。
しかし……目の前にいるそのカエルは、さらに重そうで、さらに固そうだった。よく見かける、両生類のような柔らかい体ではなく、全身に筋肉が走っていそうな。
焼いた餅のようにひび割れた体表、きなこが掛かったかのような黄土色の模様。足を持ち上げるだけで重そうな、平たく潰れた体。
「エリア4の魔物を相手するのは初めてだ。マルメロ、ブルーバード、ポイズンアント。みんなで行くよ」




