ー6
俺たちは、休憩洞窟の中へと入ってきた。
中ではブルーバードとポイズンアントの二人がくつろいでいた。青いカッパを被った少女は、どこからか仕入れた情報誌を、畳に寝っ転がって読んでおり、手を挙げるだけで挨拶を終える。黒髪の少女は、机の前に座っていて、俺たちが来た途端立ち上がってこちらまで来る。
「おはようございます、あるじ様。マルメロ様」
「おはよー、ブルーバードもおはよう」
「おはー」
「おはようございます」
ムカデ人ことマルメロが、俺の隣を通り過ぎ、壁際に置いてある、鋼色の筐体の元へと歩いていく。彼女はそれを起動して、空中に青色の透けたウィンドウを呼び出している。
「新しい機能が解放されているみたいですね」
「新しい機能?」
俺はマルメロのそばに寄り、そこに浮かぶウィンドウを覗き込む。
「“絆の槍”の開発が可能になったみたいです」
「絆の槍?」
あー……、と、マルメロは続ける。
「本来は、絆を深めた二人の間に結晶化される、特別な武器や道具の総称なんですけどね。ソーシャは特別に、自分で開発したり手を入れたりが可能です。その代わり、性能も、本来のものよりは劣るんですけど」
ふーん、と、俺はマルメロが操作するウィンドウを眺める。
「マルメロとの?」
「わ……私のじゃ、ないですね。今回のは、ご主人さまの所有するシェル魔物の絆レベルが20に達したことが、開発の解放の条件です」
“絆レベル”。また新しいステータスが出てきたな。滞在魔物の欄で確認すれば、また見えるようになっているのだろうか。
「これですね」
と、マルメロがウィンドウを引っ張って、俺の目線の高さに合わせる。メニューに、新たに“開発”の項目が増えていた。
「それぞれに結構な量の居心地ポイントが要求されます」
「あー……またかー」
「ただ、最初だけ、一つを選んで無料で開放されるみたいですよ」
青いモノクロのウィンドウの中に、三つの枠が表示されていた。それぞれにイラストが表示されている。
一つは、人型を覆う鎧のようなもの。たくさんの鱗……いや、それは貝がらか。たくさんの貝がらが束ねられ、鎧のように人の体を覆っている。
一つは槍。……槍? 薙刀かな。棒の先に、薄く尖った何かの薄片が付いている。
もう一つは、名前を見るに、笛みたいだ。
「防具と、武器と、それから、バフやデバフを操る笛の、三つですね」
「全部、名前は“絆の槍”なの?」
「“原初”と呼ばれる、最初に確認された“絆の槍”が、槍の武器だったんですよ。種類や形態はいろいろありまして」
へー。
「どれかおススメはある?」
表示されている情報が少ない。とりあえず、マルメロに聞いてみる。
「そうですねー……鎧は強いですよ。強化段階にもよりますが、ご主人さまが付ければ、全部の攻撃を正面で受け止められる盾になるくらいには、強くなれます」
「おぉ」
わりとバランス崩壊コンテンツだ。
「俺以外に、それを貸すことは出来るの?」
「ソーシャに属する存在に貸与することが可能です。ただ、フルパワーを発揮できるのは、ご主人さまが装備している時ですね。なんせ強力なものなので、できる限り、ご主人さまが身に着ける運用を想定した方がいいと思います」
ふーん。
「武器は?」
俺が聞けば、隣のムカデ人ことマルメロが、顔をあっちに逸らす。
「ご主人さまには……死んで欲しくないので」
「そうだね。俺の体は、装備を付けたとしても、魔物とかより弱いし。でも、その鎧も槍もが同時にあったら、俺がめちゃくちゃ強くなりそうじゃない?」
あぁいえ、とマルメロは否定する。
「今選ばなかったものも、後に開発が可能ですが、ここから外に持ち出せる“絆の槍”は、ソーシャ一人につき一つです。今回で言えば、槍と鎧を同時に装備することは出来ません」
なるほど。
「じゃあ、その武器は、どれくらい強いの?」
マルメロは、あっちを向いて言葉を濁す。
「さぁ。どうなんでしょうねー」
本当は知ってるよな。
まぁ、戦うことは、みんなに任せれば……いいのか。マルメロは、瀕死になっても変身が解けるだけだし、戦うことはマルメロに任せて。新しいものを得ても、基本的な役割の割り振りは変わらないか。
「じゃあ、もう一つの、貝のやつは?」
マルメロの顔がウィンドウに戻る。
「ラセンの笛。味方に強化を与えたり、敵に弱体化を与えたり、あるいは天候を変えたりなど、戦況にさまざま効果を与えるサポートの笛です。初期段階では、使える効果の量に限りがありますが、これも開発を進めていろんな効果が使えるようになります」
見た目的には、ホラ貝かな。
「また、“絆の槍”を使用した量に対して得られる“経験値”的なポイントがありまして、これも、強化を進める際に使用することができますね」
使えば使うほど要素が解放される。
「タンクは……居れば便利だし、俺が硬ければ、みんなも安心できるよね。でも、今のところタンクの役割は必要としてないし、勝てる相手に挑戦するのなら、手元で腐る装備かも。強そうな武器は、結局俺の攻撃力だけを高めても、防御力はやるにしても遅れて強化されるわけだし、リスクのある立ち回りを続けることになる」
ふんふんと、黒い鎧のような装甲をまとったマルメロの頭が、隣で頷いている。
「今日明日からでも使えそうなものは、だからその笛になりそうかな」
「かもですねー」
今日、今に、決める必要もなさそうだが、考え直しても変わらないような気もする。また進めれば、ほかの選択肢も選べるそうだし、これはさっさと決めてもいいかもしれない。
「じゃあ、笛に決めちゃおうかなー」
と、俺はマルメロの顔を窺う。肩から上、腕の上部、背中と黒い甲殻が体を覆っているが、お腹や胸部は白い、半透明な肉が露わになっている。また、頭部も、口元に関しては白い肌が見えている。兜か、あるいはヘルメットのように、昆虫のような黒光りする殻が、口元以外の頭部を覆っている。
表情は見えないが、なんとなく様子は見える。
「どうぞ」
「やっぱり武器にしようかな。カッコいいし」
マルメロの口元が動く。眉でもしかめているのかもしれない。
「……ご主人さまのお好きにどうぞ」
「えい」
と、俺はウィンドウをタッチする。決定を押すと、何やら“ラセンの笛”の詳細な画面に移動した。初期で解放されている項目があり、また、強化で解放されていく項目も見えている。
「……私の反応を見ても、何にもならないですよ」
「俺が楽しんだからいいよ」
「……」
“呼び出し”のボタンを押すと、俺の目の前にまばゆい光が現れる。俺は両手をその下に差し出し、それが現れるのを待った。
やがて、手の平の上には、両手の上に乗るほどの大きな巻き貝。さして重くはない。巻き貝の捻じれの頂点には、俺が吹くための、口を付ける細い管のような部分がある。
ほんのりと全体がピンク色の、貝の外側の表面にも虹色を帯びた、大きなホラ貝。虹色は、しかし、かすれた絵の具で表面をなぞっていったかのように薄いものだ。




