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俺たちは一度、左手の段を上がり、草原の上に登ってきた。
魔法のポーチからシートを取り出し、広げて草原の上に置く。四隅にペグを地面に突き刺し固定する。
俺たちは青空の下、シートの上に上がり、座り込む。周りは草の原、すぐそこに大きな山脈。ここは魔物たちの居る草原だが、今はエリア3のドロップアイテムを所持している状態であり、エリア2の魔物は寄ってこない。
魔法のポーチから、続いて茶器や食べ物を取り出して、ピクニックの準備を始める。
「手伝いましょうか」
長い黒髪の少女が、正座でシートの上に座り、うずうずと落ち着きなさげに聞いてくる。
「気にしなくていいよ。みんなは座ってて」
「トリジ、まくらある?」
「ないよ」
お昼寝か。別に、してもいいかもしれない。
青空の下、草原に置かれた小さな四角の絨毯。そこには俺たちが座り、また、シートの上には食べ物が並ぶ。
今日のおやつは、黄金色のたまごパン。ふわふわのスポンジの生地、特に凝った形状ではなく、半球型で、手のひらサイズで食べやすい。それから、あらかじめ焼いておいたソーセージと、目玉焼き。ミニトマト。
魔法のポットでお湯が沸き、並べたカップにお茶を注いでいく。
「さぁ、好きなものを、好きなだけ食べていいよ」
頭の上の黄金の餅が、べちゃとシートの上に落ち、シートの上の、空いた所に移動する。ゴールデンちゃんの前にも、淹れたお茶のカップを置いた。うにゅにゅと黄金の体の一部が伸びて、カップの上から覆いかぶさる。
簡易のお皿に俺も食べ物を手に取って、お箸で摘まむ。特段珍しいものでもないが、どれも美味しい。
小腹が膨れ、空を見上げる。青空の下。大きな綿雲が、少しずつ形を変えながら、空を動いている。
「ねぇ、トリジ。聞いていい?」
と、ブルーバードの少女が声を発する。
「俺にこたえられるものなら、なんでもこたえよう」
俺が促せば、青いカッパを羽織った少女は続きを言った。
「トリジは、どうしてそこまで強くなろうとしてるの?」
青空の下、草原に風が吹く。暖かい、陽気をはらんだ風だ。風がそよそよと草を鳴らして去っていく。
*
引き続き、俺たちはエリア3の溝の道を歩いていく。
砂だか土だかよく分からない地面の上を歩いていれば、マルメロの静止に俺たちは立ち止まる。
“それ”の姿はすぐ見えた。
「あれ、フルーツゼリーだ」
“フルーツゼリー”。それは、層樹林近辺でよく見られる魔物。ゼリーというよりグミのような感触に近く、しかし形状は不定形で、切断や貫通を行っても体をもとの形に再生させる。雑魚であり、頑張ったら俺でも勝てそう。美味しい素材を落とす。
それはオレンジ色のフルーツゼリー。今は柱状の体を、片方の端を地面に付け、もう片方を持ち上げて端を一歩進め、ぺた、ぺたと回転しながらこちらに近づいてくる。
「一応、エリア3の魔物ですが」
「そうだね。俺の知らない特殊能力でも持ってる個体か……気を付けて戦おう」
と、隣を見れば、ポイズンアントがうずうずと体を震わせている。
「どうしたの? ポイズンアント」
「いえ……あの。私に、任せて貰えれば」
「お、やる気だね。じゃあポイズンアントにお願いしよう」
俺が言えば、黒髪の少女は俺たちの前に出て、白煙を上げて暗い緑の巨体が立ち上がる。オオアリは、大きな足をがしゃがしゃと動かして、向こうのゼリーに向かっていく。
フルーツゼリーは……ふわと、奴の周囲に薄く赤い光が走る。その中には火のような光の欠片も。
なるほど、炎使い?
「ポイズンアント、気を付けて! おそらく火を使う――」
オオアリはがしゃがしゃと地面を走り、一目散にその顎を、地面のフルーツゼリーへと突っ込ませた。
二つの顎がゼリーの体を捕らえる。わしゃわしゃと、ポイズンアントはその顎をしきりに動かしている。丸呑みはしないが、体を削っているのだろうか。あれは“捕食”という一種の攻撃行動扱いであり、相手にはダメージが入る。ダメージが入るだけで、相手が死に至るまではしない。
ぼふ、ぼふと、フルーツゼリーの体から赤い光のオーラが噴き出し、その一部はオレンジ色の炎となって空気を走る。ポイズンアントの目の前を、噴き出した火が通りすぎるが、オオアリは気にもせず、あるいは一心不乱にフルーツゼリーの体を啜っている。
プリズムカードで“鋼の体”という特性を付けたが、それも効いてるのかもしれない。俺の想定としては、前回みたいな冷気による行動不能への効果を期待していたが、この炎にも有効……あるいは、ポイズンアントに元々炎は効きづらいのか。
そのうち、フルーツゼリーの体は力なく地面に横たわっていた。ポイズンアントは、満足げに天を見上げて口の中身を飲み干し、それから少しして、頭を下げながら、気まずげに体をこちらに振り向かせる。
戦闘終了。
「マルメロ」
「いやまぁ、強かったんじゃないですか。相性が良かっただけで」
相性。相性か。確かに、ゼリーとアリなら、アリが圧倒的に有利そうだ。
「お疲れ、ポイズンアント!」
俺が声を掛けると、ぽんと白煙を上げて、彼女は少女の形に戻る。戻ってもなお、なんだか申し訳なさそうな顔をして、こちらの様子をうかがっている。俺がアリの姿に見た彼女の感情は、どうやら合っていそうだった。
「……すみません。すこし、我を忘れて……」
「良い活躍だね! エリア3の魔物を、相手に何もさせないまま一方的にほふるなんて!」
俺がそう言えば、彼女は目を逸らして口ごもる。
しかし、ポイズンアントだけでここまで有利に勝てるのなら、この強そうなフルーツゼリーを相手に、何らかの周回を行うのもいいんじゃないだろうか。相手が強ければドロップも美味しい。楽に勝てるなら戦う旨みがある。
ここレベルフロントに現れる魔物は、ここらの近くの地域から来ているという。この子の本来の生息地は、簡単に行ける場所だろうか。後で調べてみよう。




