第十八話、やまのぼり
俺の新防具を作りながら、ついでに透明なカードを集めて、15枚から一枚のプリズムカードを作成した。出てきた能力は“鋼の体”。休憩洞窟の端末に増えていた“鑑定機能”を用いて、性能を調べると、どうやら“身に掛かる状態変化を一定時間無効化する”ものらしい。
草原の上を風が吹く。緑が波を作り、過ぎていく。
今日はよく晴れた空の下。もこもことした、上下にどでかい雲が、景色の彼方に見えている。まぶしい青空。浮かぶ綿雲。草原は遠くまで続き、向こうに連山の影が見えている。
背後には、俺たちが拠点を隠した大岩の群れがあり、俺は周りに呼び出した仲間たちを連れている。俺の頭にへばりついた黄金の餅。
俺はみんなを振り返り、呼びかける。
「それじゃあ、今日もやっていこう」
手前の安全地帯の岩の群れを離れ、草原の海を歩いていく。今はもう絡まれることもないが、エリア1の危険域に差し掛かり、草原を歩き、川が見え、川を渡り、さらに荒野の上を歩いていく。
山の陰に近づいてきて、その麓の、草原と連山の間のU字型の溝の地形。ここが今回の目的地。
草原終わりの段差を降りて、草の禿げた地面に着けば、そこはレベルフロントのエリア3。レベルフロントの各エリアには特色のようなものがあるみたいで、エリア3からは“特殊な力を使う魔物”が増えてくるらしい。
「魔物が来ま――」
青い空の下、赤茶けた地面。右手には空まで登る山肌、左手には一段上がって、緩やかな上り坂の草原。俺たちはU字型の巨大な地形の溝をぞろぞろと歩いていく。
マルメロの声に気を引き締めれば、どこかからうなり声が近づいてくる。ドローンが透明化して、音もなく空に飛び立つ。
視認できたのは、空を飛ぶ何かの影。お尻あたりから炎を燃やして吹き出し……まっすぐ飛んで進む弾丸のようなバッタ。
「あるじ様!」
俺たちの前に黒髪の少女が飛び出、暗い緑の巨体が立ち上がる。オオアリが地面に足を着いたと同時に。
ポイズンアントの正面からロケットバッタが突っ込んだ。
「ポイ……っ!」
驚いている暇はない、最善策を考えろ。
「マルメロ出て! ブルーバードは空中で待機!」
ここはレベルフロントのエリア3。相手はエリア3相当の魔物。スピード型で攻撃を速攻で当ててくる、ということは火力が大したことないか……あるいは装甲が脆弱など致命的な弱点を抱えているか。
シェル魔物は死ぬと喪失する。被弾後のポイズンアントの様子を見れば……大丈夫なはずだ。今は、
「ポイズンアント! 押し返せ!」
俺の声に、ポイズンアントは頭を振り上げ、頭を突き合わせていたロケットバッタを投げ飛ばす。バッタは、決して小さくない体が、くるくると回しながら宙を飛んでいく。が、お尻から吹き出る噴射の勢いは止まっておらず、そのまま空中で体勢を立て直し。
再びまっすぐ飛んでくる。速い、止まっていなければブルーバードの攻撃は当たらないだろう。
「この私も居ますよ!」
ポイズンアントの前に、“黒牛魔”形態のマルメロが体を出す。両腕を上げて構える、飛んでくるロケットバッタに組み付く構えだ。
ロケットバッタの狙いはおそらく俺だ。何の匂いを嗅ぎつけているか知らないが、あっちは最短で俺の体を狙ってきている。
向こうのバッタに対して、ポイズンアント、マルメロと俺の前に連なった二人だが、バッタは空中を飛んで周囲を回りこんで俺を狙っている。
「マルメロ、ポイズンアント! いったん通していい! ブルーバードは構えてて!」
俺は懐に手を入れる。空中を大きく旋回して、バッタは山肌の上の空中、俺の視界の斜め上、俺を見下ろす場所へ。
俺は雷撃の呪符を取り出し、片手に握って奴へと掲げる。
バッタは加速すればほぼ曲がれず、直線で目標まで飛んでいる。見えているアレに直線で狙えば、奴はその直線上をそのまま飛んでくる。それが外れるなら俺への攻撃も外れる。
ポイズンアントが押し返した時の動きを見るに、バッタの体重はそこまで重くない。雷撃の呪符はそこそこの勢いで相手に衝突する。バッタの突進を止められ……まではしないだろうが、俺へのダメージは有効でない程度に抑えきれるはずだ。
バッタは完全にこちらに照準を合わせて……急加速。俺に頭を向けて加速すれば、体は同じに見え、距離感が分からなくなる。気が付けばもう目の前に居るはずだ。
俺は雷撃の呪符を放ち、黄金の光が迸って空を飛んでいく。軽装甲なら大きめのダメージが入る、耐久型でも最低限の怯みは入るはず。
空を飛ぶ頭の正面から、まっすぐ雷光がぶち当たった。
体が思ったよりも軽かった。俺の雷撃に、バッタの体は向こうへ飛ぶ。減速して、回転しながら落ちていくバッタの体が。
そのまま地面へと叩き落される。鱗粉の幻惑の中から、青く美しい巨鳥の姿が現れる。
捕まえてしまえば、そこまでしぶといタイプでもなかった。ブルーバードがクチバシで攻撃を与え、そのうちバッタは動かなくなっていた。
「戦闘終了! みんな、おつかれさま!」
俺は、足を外したブルーバードの元へ、落ちた素材を拾いに行く。
「今日は、ヴァンピは何をしているでしょうね?」
U字型に広がる、地形の溝の道を歩いていく。
後ろで、人形態のブルーバードとポイズンアントが会話をしている。
「また本格的に攻略が始まったので、私たちは休憩洞窟を空けてしまいますが」
「なんかダンジョン行くって言ってたよ」
「層樹林もダンジョンなのでは?」
俺は、二人の会話に耳を寄せる。
「そっちじゃなくて、攻略」
「攻略?」
「わかんないけど。わたしたちみたいに、むずかしいとこ行って魔物倒すんじゃない?」
「一人で大丈夫でしょうか」
「わたしたちが心配できる弱さじゃないでしょ」
ヴァンピはたびたび休憩洞窟を訪れているらしく、ブルーバードとポイズンアントとの仲が進んでいる。後ろの会話が気になるが、俺が割り込んでいいものだろうか。
気になる代わりに、俺はすぐ隣を歩く“黒牛魔”形態のマルメロに話しかける。
「マルメロ、今日の晩御飯なにか食べるー?」
「特には」




