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「レベルフロントに入ってるんなら、まぁ、そこで強い魔物の素材集めるのがいいんじゃないか? 雑多な素材じゃ、特別な能力は発現しないが、着るのはトリジだろ? 防御力だけ欲しいってんなら、それでいいと思うぜ」
ここは木々の町、通りに面した横長の建物の、二階に位置する鍛造屋さん。
俺は自分の防御を高めるため防具を新調したく、そのために職人のガーディアさんに相談している。
レベルフロントで素材集めか。今は三人にレッドパールを装備して攻略と経験値稼ぎをしていたので、集まるのはほとんどがレッドパール。手元にも、レベルフロントで集めた魔物素材はほぼ無い。
レベルフロントで、新たに素材集めをするのなら、一度“レッドパール”を外した状態でモンスターを倒す必要がある。レッドパールを外せば、その強化分の背伸びがなくなることになり、魔物シェルたちはエリア3だときつく、適正ならエリア2か、余裕をとって周回するならエリア1か。
マルメロに至っては、レッドパールを外せば“黒牛魔のカード”を装備すらできなくなる。……まぁ、今は二番手の“霜降りムカデ”あたりを使えばいいかも。
強い装備を作るんなら、多少丁寧にやってでも、エリア2で素材を集めるべきだろうか。
防具は耐久度があり、そのうち耐久度がなくなって防具の効果は失効する。俺の防具はまだ耐久度に余裕があるし、壊れてからでもいいかと思っていたが……そうか。素材を集める手間を考えるなら、防具が切れてからでは遅いのか。
ちょうど“透明なカード”を集めたかったこともあり、周回する機会にしては丁度いいだろうか。
……またヴァンピを手に入れるまでが遠くなるな。まぁ、焦って強くなろうとしても死ぬだけだ。安全な近道なんてない。
なんならもう行っていい気もするが、最近はどんどん強くなるので、楽しくてやめられない気持ちがある。行くところまで行きたいというか。とりあえず、最初に掲げた目標も叶ってないことだし。
「そうですね、ありがとうございます。そうしてみます」
鉢巻をまいた薄着の、浅黒の肌の職人さん。彼はからっとした笑顔を浮かべる。
「おう。仕事の相談ならいつでも乗るぜ。それ以外は、からっきしだからな」
がはは。
「あ、それともう一ついいですか?」
「なんだ、今度は、そっちの嬢ちゃんのことか?」
工房の中、俺とガーディアさんが、石の机のそばに丸椅子を立てて座っている。後ろには、黒髪の少女が控えている。この前はブルーバードを連れてきたから、まぁ予想は付いていたのだろう。
「はい。……と言っても、まずは可能かどうかを見てもらいたいんですけど……ここで出してもいいですか?」
「でかいのか。物は壊さないように頼むぜ」
大丈夫……だと思うけど。
俺は工房内の、平らな所に少女を移動させる。それから念のため、周りにあったいすや机などを脇にどけて、さらに空間を広く。
「じゃあ、ポイズンアント。変身していいよ」
「……それでは」
室内の中で白煙が上がる。そこに、見慣れたいつもの、暗い緑色の装甲を持つ巨体が現れるが。
改めてでかいな。人が住む町に入り込めば、その巨大さが再認識できる。
「なーるほどなー……」
ポイズンアントは、その大きさの割に身を縮こまらせて、その場で大人しくしている。ガーディアさんが周囲を回り、ポイズンアントの体を確かめている。
「この子の……装備を作りたいのか? この前みたいに、付け爪みたいな小物とか? まぁ本体がでかけりゃ小物もでかいが」
「いえ、今回は、この子の防御力を上げるために、できれば全身を覆うような防具を……作れないかなって」
んー……と、彼は明らかに難色を示している。
「おすすめは、しないな」
「……そうですか」
「理由はいくらかある」
肌の露出の多い職人さんは、床の上に鎮座したオオアリの周囲を回り、俺の近くに戻ってくる。
「まずは全身鎧の装備の大きさに由来する、持ち運びの問題だ。持ち歩くにはでかいし、置いておくにもでかいし、かと言ってこの子を出しっぱなしってのもお互い不自由だろ。次に、その大きさに由来する、必要素材量の多さだ。防具はコスチュームみたいなサイズ可変じゃないから、でかけりゃでかいほど素材は多く使う」
防具……は向いてないか、ポイズンアントは。俺みたいに服を着るだけ、あるいはポイズンアントみたいにスカーフを巻くだけで効果が出たり……。まぁ、おそらくそれでは、ポイズンアントの防御の足しになるだけの数値が出ないのだろう。
「それに、この子はまだ“幼体”じゃないのか?」
「幼体?」
と、ふわふわと光の玉が横切って俺の前に浮かぶ。
「説明をお願いしていい? マルメロ」
「了解です」
マルメロは、おそらく俺にだけ聞こえる声を発している。
「シェル魔物の中には、“幼体”という状態を持っている個体が居ます。これはそのまま“子供の個体”と言いますか、あるいは一般的な成体でも、“それより一つ上の成長状態を持っている個体”、ですね」
俺は、すぐそばに佇んでいる巨大なオオアリを見つめる。
「ポイズンアント、まだ大きくなるの?」
「成長に関して、サイズが必ずしも大きくなるとは限りませんが、その可能性は高いです」
ほえー。これ以上でっかくなったら、今の、そこそこ広めな休憩洞窟すら窮屈になりそうじゃないか。
「ポイズンアントは、その“幼体”ってやつなの?」
「魔物の“幼体”の鑑定については、その魔物の種の造詣が高くなるにつれて鑑定が可能になります。具体的には、よく遭遇する、よく戦闘する、たくさん観察した、触れ合った、あるいはシェル魔物としてたくさん見ていた、などですね。“幼体”について、休憩洞窟の端末による情報の確認項目が解放されました」
知ったら解放される機能。
「おっけー、ありがとうマルメロ。“幼体”についてはよく分かったよ」
と、俺はそこでガーディアさんに目を戻す。
「“幼体”……ポイズンアントは、その“幼体”なんですか?」
「俺の見立てだと、まぁそうだな」
すごい。
「よく分かりますね。俺でも、まだ分かってなかったのに」
「そりゃ、仕事に必要な能力だからな。“幼体”から変化する魔物は、その体が大きく、あるいは小さく変化することがある。防具は、言っている通り体に合わせて変化しない。その子がすぐ“幼体”から成長しそうって言うんなら、作ったばかりの防具のサイズがずれて無駄になっちまう」
なるほどな。これだけ理由を並べられたなら……まぁ、ポイズンアントの防御力強化について、防具が向いていないことは分かった。
他には、防御系のコスチュームを探してみるか……しかし特化した装備には特化した素材と特化した周回が必要になって、また遠ざかってしまうし……どこまでの寄り道を容認すべきか。さっさと先に行った方が、より強い素材を得られることもある。




