ー5 ハプニング!
「いやぁ、お疲れさま。よくやってくれたねぇ、トリジさん。宿屋の方には私から通しておくから、好きなだけこの町でゆっくりしていくといいさ。え? お金ならいいって、今回助けて貰ったことだしさ。そう? そうだねぇ……じゃあ、貯金を作れるようになったら、宿代を払ってもらうようにしようかなぁ」
依頼主と長老さんへの報告を終え、俺たちは樹木に囲まれた町の宿へと帰り着く。売店でいろいろ素材の売買などもしたかったが、今日は疲れていたし、商店も今日は早めに閉まっていた。
そんなわけで宿の二階の部屋へと辿り着く。荷物を置いて、着替えとタオルを持って、一回裏手の水浴び場へ。俺は脱衣所で服を脱ぎ、使用中の札を掛けて扉を出る。
そこは建物の外。天井は木の板が張り出して覆われているが、一部穴が開いており空の景色が見える。暗くなって、藍色の空には細やかで小さい光が浮かび始めている。
俺は椅子に座り、小さな桶に湯を溜めながら、大きなタンクに続く蛇口から湧き出るお湯を使い、体の汚れを落としていく。滑らかに整えられ、勾配の付いた茶色い床を流れて、使った水は外へと流れていく。
「使用中か。おーい! 一緒に入ってもいいかー?」
と、扉の向こうで呼びかける声が聞こえる。
「いいですよー」
「おっしゃ!」
少しして、背後の扉が開いた。ふと、現れた裸体に目を向ければ。
「……お、おお! おっぱい付いてる! おっぱい付いてますよ! いや両方付いてる! え、なに!? どっち!?」
声は、どちらかと言うと男に聞こえていたのだ。しかし現れた裸体には胸に膨らんだものが。その上で、股の間に、控えめだが突き出したものもある。なに……?
現れた女性 (男性?)は、細く鍛えられた褐色の体を、惜しげもなく隠しもせず。細く白いタオルを肩に引っ掛け、水浴び場の中へと入ってくる。
彼女 (暫定)は、俺の反応に若干首を傾げながら、俺の隣の少し離れた椅子を引いてそこに座る。長い黒髪。種族は普通、というか、俺とかなり近く見える。屈んだ彼女から垂れているしっかりとした豊かな双丘は、まぎれもなく女性のもの。
「……なんだよ。気にはしないが、そうじろじろ見るもんでもねーぞ」
「いや、あの、性別は、どちらさんで……?」
「性別? ……あぁ」
と、彼女はちらと俺の腰元を見る。
「あんた、ソーシャか。男なんだな。まだここに馴染んでないのか? この住居エリアに居る、俺のような住人たちは、ほとんどが両性だぞ」
「両性?」
俺が聞けば、彼女は澄ました顔で答えてくれる。
「どっちもってことだ。男ともやれるし、女ともやれる。まぁ商店のアーシャみたいに女性だけ、あるいは男性だけの住民もたまに居るがな。そっちは少数派だ」
そ、そうなんだ。まぁ危険な“外”に囲まれて、この町は比較的閉ざされた場所である。数が少なくなって、生まれてくる性別が偏ってしまえばそのまま絶滅……なんてことを考えれば、少数でも生き残りやすいのは両性の種族。それがこの世界の普通なのだろう。
ぐるぐると考えて思考を逸らしている中で、隣でバシャバシャと水音がする。
住民……住民? ってことは、精霊であるマルメロはどうなんだろう。今まで女性として扱ってきたが、カエル人やゼリー人は女性っぽい輪郭の体型なだけだし。光の玉の状態は……声は、女性のものにも聞こえていた。
「あの……聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
何気なく隣を見て、そこに座っている褐色の裸体から目を逸らす。目に焼き付いた……しっかりと引き締まったおなか、おへそ。慌てて首を振って像を霧散させる。
「精霊の性別って、どうなんですか?」
マルメロは部屋に置いてきている。
「精霊か? 話だけなら知ってるな。なんでも、精霊には“性別レベル”ってのがあるらしい」
「性別レベル?」
彼女は片手間に体を流しながら答えてくれる。
「あぁ。なんでも、精霊の性別は、その扱いによって徐々に変わっていくらしい。元の性別もあるみたいだが、あんたがどっちかに、例えば女として扱ったりすると、女の“性別レベル”が上がって性格が変化する。“どっちかに扱う”ってのは、あんたの態度もそうだし、何より、体を入れる“魔物カード”の性別もそうだな」
「魔物カード? 魔物や魔物カードには性別があるんですか?」
まぁ、そりゃそうだ。あることは不思議ではないが。
目の端で、褐色の人肌が長い黒髪を広げて、ばしゃばしゃとお湯で洗っている。
「そうだな。住民には“両性”が多いが、魔物はオスかメスかのどっちかだ。魔物の性別は、どっちも偏りなく居るんだが……目の前に現れてくるのは、そうじゃない」
現れる魔物の性別は、偏ってる?
「“異性誘因”って言ってな。ソーシャの気配を感じて近づいてくる魔物は、その反対の性別であることが多いらしい。だから、あんたの持ってる魔物カードもおそらく“女”だろうし、それを使うんなら、あんたの精霊も、“女レベル”が上がっていってるんだろうと思うぜ」
「なるほど……勉強になります」
俺が男だし、じゃあ今まで出会ってきた魔物たちは、おそらくメスなのだろう。少なくとも魔物カードを使った時は、ゼリー人もカエル人も女性のような輪郭だった。まぁ、後で一応マルメロにも聞いておこう。
しかし、なぜ俺には魔物の異性が寄って……まさか、出来るのか? いや、単純にフェロモンがみんな似てるとか、そういう感じかもしれない。
「魔物カードは、商店でも扱ってたりするみたいだから、自分と同じ性別の魔物カードが欲しければ、商店とかで交換するのもありかもしれないな。特定の性別だけを引き寄せるお香もある」
「魔物カード……え? 俺以外にも……居るん、ですね」
写影機を扱うソーシャが。まぁ、みんなが俺に驚かないということは、そういうことなのだろう。
「まぁいろんな地域にぼちぼち居るみたいだぜ? ここら辺では、俺はあんたしか見てないけどな」
「商店に並ぶってことは、俺以外のみんなも、魔物カードを使ったりするんですか?」
「俺らは精霊も連れてないし、買っても使い道がないな。コレクターみたいな奴は居るかもしれないけど。でも、商人は鼻が良いから、あんたが居ることを見越して、魔物カードを仕入れてたりはしてるかも」
なるほど。じゃあ明日商店に行ってみよう。素材も稼げたし、何か良いものを買えるかもしれない。
「いろいろ教えていただいて、ありがとうございました。すごくためになりました」
「おう」
俺はもう体を洗い終わった。後はもう水浴び場から出るだけだ。俺は立ち上がって、ふんわりそちらの方に視線を向ける。そこには無防備な、綺麗な背中とお尻がある。
「名前は、なんていうんですか?」
「俺か? 俺はマーチャ、ここの宿に部屋を取って、外で魔物とかを倒して生計を立ててる戦士だ」
「マーチャさんですね。俺は新顔のトリジって言います。しばらくの間、この町でお世話になるかと思います。よろしくお願いします」
彼女はこちらに背中を向けたまま返事をする。
「そうか、トリジ。俺もマーチャでいい、さん付けは要らない。困ったことがあったら……まぁ、面倒でなけりゃ手を貸してやる」




