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樹木の入り混じった壁に、開いた異空間の穴。縦長に楕円の穴をくぐれば、植物に囲まれたダンジョンの中から一転、中は静かで奥に長い岩の洞窟。
地べたに寝そべった青いカッパの少女。クッションに背中を預けて、仰向けにこちらを見て、“よっ”とばかりに片手をあげる。青いカッパの下がめくれて、裾の緩い、白いハーフパンツが見えている。
対して、黒髪の少女はわざわざこちらに歩いてきて、そこで直立して俺たちを出迎える。
「おはようございます、あるじ様、マルメロ様」
「おはよー、ポイズンアント。ブルーバードも、おはよー」
「ポイント貯まったね」
俺たちは、洞窟の岩壁のそばに置いてある、鋼の直方体みたいな端末の前に集まっている。端末の上には、青い透明なウィンドウが浮かび上がる。
「これだけあれば、いろんなものが買えますね」
「わたしのポイントだよ」
「私だって貢献しましたよ」
ポイズンアントとブルーバードが、両脇から同じウィンドウを覗いている。今は非戦時なので、ゴールデンちゃんはいつも通りポーチの中で寝ている。
俺はウィンドウを操作し、スクロールして、ショップのとあるページを探して開く。
それは“冒険観測端末”。休憩洞窟内部に設置できる“設備”の一種だ。洞窟にはモニターが設置でき、俺には撮影用のドローンが付いて来て、俺の冒険の映像をこの洞窟に届ける。
ドローンや映像をリアルタイムで操作できるコントローラーや、冒険中の映像を録画し、後で見返せるリプレイ機能などもある。また、ドローンの撮影は立体スキャンも並行してあり、ドローンからの映像以外に、ドローンから“視点”を離して、映像内を移動するモードなども存在する。
空中に浮かんだウィンドウの中には、薄い青のモノクロ画面の中に、モニターや飛行ドローンの絵が映っている。
「じゃ、買うよ?」
「うん」
「決定ボタン押す?」
「わたしは操作できないよ。いいから早く押してよ」
と、ブルーバードは淡白な調子で促してくる。貯めるには十日じゃきかない量のポイントを消費するのは初めてだから、ちょっと緊張するのだが。
まぁ、買うことは決まっている。後は押すだけだった。ブルーバードの言う通り、特にためらう必要などない。
俺は画面を操作して、右下の購入ボタンを押して、確認画面で“はい”を押す。
俺たちの右上の、地面が空いている宙の上に、“穴”が現れる。向こうは星空のような不思議な穴だ。中から、白い小型の機械とリモコン、コントローラー……と、黒いボール? みたいなのがにゅにゅにゅと出てきて、そのまま地面に落ちる。
黒いボールは、休憩洞窟内部でのみ使える家具の、持ち運び形態だ。使わない家具はこうやってちいさくして、まとめて置いておける。だからその黒いボールは多分、設置用のモニターのやつ。
てててとブルーバードが歩いて行って、そこに落ちていた機械やらリモコンやらを拾い、腕に抱える。黒いボールだけを片手に持って。
俺たちの後ろ、入り口から奥に長い岩の洞窟の、左手の壁の方だ。ブルーバードは俺に背を向けて、黒いボールをそっちに投げる。
ボールは変化し、壁に広がって張り付く。それは壁にも設置できるし、地面に置けば自立するモニターとして変化する。
瞬く間に、洞窟の壁に四角いモニターが立ち上がった。しかしそのままでは小さい、ブルーバードはモニターへと近づき、右下の所に付いたボタンを押している。
ボタンを押すたびに、ぐん、ぐんとモニターが巨大化する。ブルーバードは、平らでない岩壁とモニターの間に手を入れて、ずりずりと壁の上をを引っ張って位置を調整する。
モニターのサイズの調整を終えて、ブルーバードがこちらへと戻ってきた。はい、と、彼女は俺に白い機械の塊を渡してくる。
羽もない、白くて丸い……滑らかな輪っかの形をした機械。スイッチを押すと、ブゥンと機械音が鳴り、俺の手を離れて空に浮いた。
俺が動くと俺に付いてくる。赤い光点が目のように、常にこちらを向いている。
「これで、ブルーバードも、いつでも俺たちの様子が分かるようになったね」
ぷつん、と画面に光が入った。画面の中には、浮いたドローンの中に、洞窟に立っている俺やみんなが写っている。
「いつでもじゃないよ。[住居区]の中じゃドローンが反応しない」
「でも、最近はブルーバードも俺たちと一緒に居るじゃん。まだ必要だったの?」
「それはトリジが“今回だけ一緒に”っていうから毎回言ってるんじゃん」
確かに。そうでした。
ブルーバードがリモコンで操作すれば、そこに居るドローンが移動して、俺から離れていく。天井に近づいて行って、しかしぶつかる前に察知してドローンが止まる。
「これで、ブルーバードも、いつも一緒だね」
俺は、そこに居る青いカッパの少女に話しかける。
「一方的に見れるだけ。一緒とは違うよ」
「確かに」
「でも……良い暇つぶしにはなる」
ブルーバードはリモコンを操作して、さらに“冒険観測端末”の機能を確かめているようだった。
ふと、背後の銀色の筐体に目を戻せば、青いウィンドウの中に何やら通知が来ている。




