第十七話、町と成長
朝焼けの空の下、涼しい空気。歩きなれた土の道の上を歩く。宿屋から、少し歩いていけば、横長の大きな建物が見えてきて、それを通り過ぎれば道の右手に小さな建物がある。
「やっほー、やってるかい?」
俺は開いた商店のカウンターへと歩いていく。中に気配がして、声を掛ければ、屈んでいた彼女の姿が見える。褐色の肌に、胸元には白い布を巻いただけのラフな格好。木々の町の商店の看板娘ことアーシャちゃんだ。
「おぉ、にーちゃんか」
「朝早くから精が出るねぇ」
「お互いにな。にーちゃん、頼まれてたもの。届いてるぜ」
そう言って、黒髪ポニーテールの褐色少女は、にやりと笑う。
彼女は店の奥から“それ”を取って持ってきた。両手で抱えるほどの大きな木箱、彼女には重そうで、えっちらおっちら運んできて、どうにかカウンターの上に乗せた。
「お金なら、先にあずかってた予算内で買えたから要らないぜ。余った分は、今返した方がいいか?」
「まだ、預けとくよ。また、何かと買うものがあるだろうからね。箱の中を見てもいいかな?」
「おう」
俺はひさしの下に入り、木製のカウンターに乗せられた木箱の前に近づく。彼女が封をしていた縄を切った。俺は箱の上部に手を置いて、置かれた蓋を掴む。上に置かれただけの蓋は、手に取るだけで簡単にずれた。
中を開くと、おがくずの香り。中にはいっぱいのふわふわのくずが入れられており、その真ん中に何か硬いものが入っている。
緩衝材を避けて、中のそれを見た。それは木製……でもなく、人の肌のようでもあり……あるいは、焼いた、赤茶けた陶器のような、くすんだ表面。
「出しても……いい?」
「どうぞ。商品の検品はしないとな」
俺はおがくずの中に手を突っ込み、それの下部に手を入れた。ふわふわの緩衝材の中から、それを引き上げる。ぽろぽろと箱の中からくずが溢れていくが……まぁいったん気にしない。
俺はそれを持って、カウンターの箱の脇に置いた。箱の中身のそれ自体は、そこそこ軽い。付いた木くずを手で払う。
それは……上から見れば八角の箱。そして箱の脇に、箱の両側にそれぞれ四本ずつ、計八本の収まった足が付いている。見た目には、蜘蛛を模した大きなガラクタのようでもあり、あるいは多脚の機械。
「それにしてもにーちゃん、“死んだ機械の体”なんて、いったい何に使うつもりで取り寄せたんだ? 今のにーちゃんにも、安くない買い物だろ」
「あ、見たい? ちょっと待ってね……ゴールデンちゃん、起きてる?」
俺はポーチを開けて、中を覗き込み声を掛ける。魔法のポーチの中は、押し入れくらいの広さがある異空間であり、その中の底に、金色の餅が平らになって落ちている。
俺はポーチに両手を入れる、入り口の所でにゅるんと空間が歪んでポーチの中に入っていく。ポーチの底で餅を掴み、持ち上げて取り出した。
「ほら、見て。ゴールデンちゃん。君の新しい体だよ」
俺は手元の金色の餅を、カウンター上のその物体の前に持っていく。目は……どこに付いているのかは知らないがまぁ見えているだろう。
金色の餅は、起きているのか寝ているのか、俺の両手に掴まれたままじっとしていたが。
やがて、動き出した。ゴールデンちゃんがぼとりと、俺の手を逃れてカウンターの上に落ちる。じりじりと動いていく、その物体から、逃れる方へ。
ゴールデンちゃんはぴょんと跳ねて、魔法のポーチの入口へと飛びつく。俺はその体をキャッチする。
「ゴールデンちゃん、いったん、いったんね。いったん入ってみようか」
カウンターの上。金色の餅は、赤茶色の物体の上にまたがり、それからにゅにゅにゅと中に染み込んでいく。多脚の機械の体が、やがて金色に染まっていく。
ぴ、ぴ、ぴと、滑らかな表面の上に、光が現れては消えていく。やがてそれは、本物の生き物のようにぷるぷると体を振って、体に付いた木くずを振り払った。
「確か、発声機能は付いていたはずだよね。ゴールデンちゃん、上手くしゃべれる?」
ぴ、ぴ、ぴと、機械は上部の平面で光を点滅させていたが、足を動かして、たぶん正面をこちらに向かせた。
「はい、あなた様!」
「どう? 機械の体は気に入った?」
俺が聞けば、機械は、箱の前面を下げて俯き、右、左と体を動かして、自分の体をあらためているような動きをする。
それが終われば、再び俺の顔を見上げる。
「人間の体がよかったです!」
「そっかー、人間の体はねー。……高いからねー。どう? アーシャ。持ってる?」
「今は取り扱いがないですねー」
アーシャもカウンターの向こうで、興味深げに、カウンターの上の、その黄金の機械の体を見ている。と、視線に気づいたか、多脚の機械は足を動かして、正面をアーシャの顔の方向へと合わせた。
「この女の子さんは、だめですか?」
「だめだよー」
「可愛いですよ!」
「そだねー」
箱や梱包材の処理はアーシャに任せて、俺は中身だけを持って、宿屋への帰路に就く。ゴールデンちゃんは、歩きたがらないというか、抱えて欲しいらしく、俺はそれを両手で体の前に持って、道の上を歩いて帰る。




