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ー5

 気を取り直して、俺たちは再び草原の上を進んでいく。草原は緩やかに坂を下りて行って、草原と山の間に溝があり、そこから、急傾斜で登って山肌となる。


 溝の部分がエリア3だ。視界の先に見えてきた。


 だがその前に、俺たちに気配が迫る。





 高速振動する羽音がどこかから近づいてくる。


「どこ――」


 左に居たマルメロが俺の肩を掴み、引っ張られ入れ替わりで黒牛の獣人が足を蹴り上げる。


 俺の右には、もう、すぐそこに大きな赤いトンボが居た。


「ひゅう! でけぇ!」


「テンション上げてる場合じゃないですよ! 備えてください!」


「速そうだから、ポイズンアントは俺の傍で待機! ブルーバード出て!」


 白煙が立ち、地面を風を放って青い鳥が飛び立つ。赤い巨大なトンボは、空中をジグザクと避けながら向こうへと引いていく。俺の前にマルメロが出る。ゴールデンちゃんは俺の頭に張り付いたまま、さて相手は素早いが、今回も張り付いて乗っ取りが成功するだろうか。


 俺はマルメロの背後に重なるようにして、向こうのトンボから距離を取る。隣にポイズンアントが付いてくる。


「あの、私……」


「今回は、仲間を信じて任せよう、ポイズンアント」


「……っ! はい」


 空を高く舞い、空から怪しい粉が舞い降りてくる。あれは不思議な力で作られた粉であり、粉に触れると特殊な状態異常に掛かり、今回の術者であるブルーバードの位置をずれて認識するもの。


 巨大トンボの上に、奴は警戒せずに上から粉が降りかかる。触れたから、おそらく掛かったはず。だが効果は“触れ続けている間”しかなく、相手が素早く動き続ければ、もしかすれば鱗粉が剝がれる。


 トンボは絶えず不規則に位置を変えて移動しており、ブルーバードが見えない攻撃をしたとして、特に意図せずに相手が避けている可能性がある。


「マルメロ! 追える?」


「追いつくのは無理です!」


 ってことは――


 俺を囮にする、間にマルメロが入りカウンターを入れる、怯んだ隙にブルーバードが手痛い一撃を入れる。


 爆弾銃は、範囲攻撃だが弾速と今はもう威力が足りないがち。体力は削るが、高威力かつ高速の“雷撃”の呪符を使う。


「引き付けるねー、後はお願い」


 俺は懐から呪符を取り出し、マルメロの後ろから少しずれて、向こうの空中をぶんぶん飛んでいるトンボに、手のひらの呪符を正面に構え、照準を合わせる。


「空気を切り裂け、“雷よ”!」


 手のひらの中の呪符が光り、焼き付いて電撃に変わる。


 “詠唱”、それは呪符にあらかじめ登録しておく、発動のためのパスワード。俺は“雷撃”の呪符の起動に、一律して“雷よ”という、短い“詠唱”を設定している。これは事前に決めているものであり、チームのみんなにも共有している。


 そして、“詠唱”には、発動には必要のない文言を入れ込むことがある。一つは、発動の瞬間を仲間に知らせるもので、要は“これから撃ちますよ”と言っているわけだ。特に“雷撃”の呪符は発動の瞬間性が高く、事故を減らすために、俺はこの事前詠唱を決めている。


 もう一つは、人語を解す知能が高い相手などに使う、発動を知らせないためのダミーの詠唱。本命のパスワードに、意味のない文言を被せ、それを複数用意して発動する呪符の種類を隠したり、あるいはパスワードの位置を最初、中間、最後などにずらして、発動の瞬間を隠すものなど。


 空気を切り裂き、雷光が光る。トンボは右、上、下、左下と無軌道に動いていた。俺は移動直後の瞬間を狙ったのだが――


 奴は見えていた。


 俺が発動して、宙を走っていく間に、トンボはもう一度位置を変えようと動いた。避けきれはしなかったが、胴体を狙ったはずの雷撃が、羽を掠るのみ。


 電光が走り去った後、トンボは素早く後ろに何度か動いて、そこでじっとこちらをみている。激しく振動するトンボの透明な羽は、右羽の一部が焼け焦げており、見ていれば羽ばたいている間に何度か左側に傾いて、その度に体をまっすぐに立て直す。


 トンボの複眼がまっすぐこちらを向いている。ヘイトは掴んだ。


 動き出した。素早い。それに、音が遅い。音を認識した瞬間には、その体はもう二回、三回と動いた先の位置にいる。


 俺へと近づいてくるトンボに、マルメロが隣から強襲する。


「先に、私ですよ!」


 跳んで飛び掛かれば、空中で避けられる。マルメロは地面を走り、距離を詰め、拳を握って、ボクサーのように鋭く拳を放った。


 今回は警戒されていた、それでも、焼けた羽が動きの本調子を奪っている。トンボの胴体の下を、彼女の黒い拳が掠り、軽く体が跳ねる。


「まだまだ!」


 宙でひるんだトンボの体に、さらにマルメロが体を近づけ、膝を蹴り上げる。鋭い一撃。黒い膝が、トンボの顎の下からまともに入る。


 トンボの口が不自然に開き、羽の動きが歪んで、トンボの体が地面に落ちていく。


「オラぁ!!」


 そして、マルメロが体を回して一回転。高い筋力で放たれた回し蹴りが、軽いトンボの体を、向こうの草原の上まで吹っ飛ばす。


 上から落ちてきた巨鳥の足が、鋭くトンボの体を上から押しつぶした。青い巨鳥が着地して、ふわりと、羽の広がりが落ちて収まる。


 きゅう、とトンボが鳴き、透明な羽が震えて、やがて地面に落ちた。


 戦闘終了。



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