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ポイズンアントが強力な装甲を身にまとい、自分以下の敵の攻撃をほとんど受け付けないのに対し、ブルーバードは豊富な羽毛こそあるものの、体を守る強力な筋肉も、鎧もない。魔物シェルは、体力が尽きると存在をロストする、マルメロのように雑に扱っていいわけでもない。
ポイズンアントは硬いからまだ大丈夫。だから、まずブルーバードの被弾を減らす手段を考える必要がある。
ちょうど[岩屋根]に通って素材を集めてきた所で、あの場所には、ちょうど良い魔物が居た。
「ブルーバードさんが、新しいスキルを覚えてますね」
ここは[層樹林]の休憩洞窟。洞窟の中で、俺の仲間たちがめいめいにくつろいでる。今日はお友達の綿毛鳥(手の平からあふれる程度の、灰を被ったような、白と黒が混じった、もこもこまん丸の鳥)も訪れているようであり、隅に数匹が固まって寝ている。
岩の洞窟内部、壁面近くに置かれた端末をいじりながら、マルメロはそう答える。
「新しいスキル?」
「新しいスキルっていうか、まぁポイズンアントさんのスキルですけど」
ポイズンアントが元々持っていたスキル。“毒牙”か。牙を用いた攻撃を当てた際に、一定確率で相手を毒状態にする。毒は、相手に倦怠感を与える程度の微弱なものであるが、とはいえ有用なデバフ。体が大きすぎたり、敵が強すぎたり、耐性があったりで、毒が掛かりづらい時もある。
「スキル“毒牙”だっけ。でもブルーバードには“牙”がないから、死にスキルになるのかな?」
「いえ、実は“毒牙”の“牙”は、“鋭くて硬い身体の一部による攻撃”が対象なので、ブルーバードさんで言えば、クチバシと爪が該当しますね」
「え、じゃあ使えるやつだ」
しかし、スキル共有が、ポイズンアントからブルーバードでだいぶ時間が掛かったな。ポイズンアントが“人化”を覚えるのはまぁまぁ早かったけど。何か、ほかに隠れた条件があったりするのだろうか。普通に運が悪いだけも、まぁあり得るが。
俺は地面の上に胡坐をかいたまま、マルメロのクリーム色の、ふわふわモフモフの背中を見つめる。
「いえ、ブルーバードさんはスキルスロットが一つです。二つ装備は無理です」
「スキルスロット?」
「スキルスロットは、現在装備しているスキルのみ使用できる欄、のことですね。スロット数以外にも、各スキルに割り振られたコストと本人への適性が、装備できるかどうかに関わってくるのですが、そっちは非明示パラメータなので、実際に外し嵌めしてみないと分からないです」
うん? でも、
「ポイズンアントは?」
「ポイズンアントさんは、元からスキルスロットが複数あるので」
「ふーん。ブルーバードは頭小さいってこと?」
隣で、青いカッパの女の子がゆらぁと立ち上がり、こちらに歩いてくる。
「鳥頭だしね」
「まぁ、シェル魔物は拡張性が高いので、スキルスロットを増やすアイテムも存在しますよ。まぁ数が増えるほどに要求数も多くなるのですが、ブルーバードさんは一から二なので、まだ、一個あれば大丈夫ですね」
ブルーバードが後ろに回り、ぽかぽかと背中を殴ってくる。
「入手先は?」
「ここのカタログから」
「あったっけ?」
一回カタログには目を通したはずだが、見た記憶がない。俺は立ち上がると、背中にまとわりついた青装束の、少女の体ごと持ちあがる。俺はマルメロの横から、端末を覗き見る。
「カタログの右上に、検索欄があるじゃないですか」
「あるね」
「実は、ここに特定の単語を入力すると、メニューに表示されていないアイテムの表示が可能なんですよ」
そんな隠し要素が。
「他に、どんなアイテムが非表示になってるの?」
「ネタバレはちょっと」
配慮が行き届いているなぁ。
俺はマルメロと位置を代わり、教わった通りのアイテム名を、そこに入力すると。
本当に出た。“スキルスロット増やしグミ”。グミなんだ。ブドウ色の透明な、ぷにぷにとしたグミ。
「ちょっと高いね」
「居心地ポイントの貯金は……まぁありますけど」
休憩洞窟では、内部に登録した、招き入れた魔物たちの滞在によって“居心地ポイント”という独自通貨が得られる。これを用いて、洞窟内部の拡充や他アイテムの購入が行える。
ポイズンアントが発生させる居心地ポイントの分は、脇に置いてあるベンチや、彼女の机、天井の照明など、内部のインテリアを購入するために使っていた。ブルーバードの分はずっと、俺の冒険に付いてきて映像を送る“端末”の購入のために貯めている。
「もうちょっとだね、ブルーバード」
と、俺は背中にしがみついたブルーバードに話しかける。
「使っていいよ」
「いいの?」
「わたしのでしょ。わたしに使うための」
別に、スキルスロット一つでも、戦闘中以外は困らないんじゃなかろうか。
「マルメロ、スキルスロットの付け外しって、どうやるの?」
「スロットなら、この端末で可能ですよ」
「外では?」
「“この端末”を外に持ち出すことが出来れば、あるいは?」
冒険のヒントみたいなの出してきたな。多分、外部へと持ち出せる用の小型端末も、ここで購入できるのだろう。まぁ今はいいや、多分高い。
ってことは、ここで付け外しをして……。
冒険に出る前に、“人化”から“毒牙”に変えてしまえば、その冒険中はもうブルーバードは“人化”を使えない。図体がでかいので、魔物形態は少し連れづらい。魔物シェルに入れておけば持ち運びは簡単だが、最近は、ブルーバードも積極的に外に現れており、それを奪いたくはない。
「じゃあ……買っちゃおうか。一個ね」
「うん」
俺は端末を操作して、“なんとかグミ”の購入を確定させる。
俺の右手上に、ガジガジとした異次元な穴が現れ、そこから光が生まれてアイテムが形作られる。俺が下に手を置いていると、それが落下してきて、俺の手の上に納まった。
「はい、ブルーバード」
俺は包み紙を剥いて、右肩の上にのしかかったブルーバードの、顔の前に差し出す。少女は顔を近づけ、ぱく、とグミだけ口に挟んで、そのまま口の中に入れた。ほろほろと包み紙が空気に溶けていく。
「これで変わったのー? マルメロー」
「はい。滞在魔物の欄から、確認ができますよ」
俺がウィンドウを動かして確認する。ブルーバードと重なるようにウィンドウがあり、そこに二つのスキル名が並んでいる。うむ。
ちなみに、魔法のポーチの中で寝ているゴールデンちゃんの情報が確認できない。表示はあるのだが、何やら靄のようなもので隠されている。これは、まだ手持ちじゃないからか、それとも、閲覧のためにレベル的な制限があるのか。あるいは両方か、それ以外か。
「付け外しは?」
「スロット数が所有スキル数を上回る場合は、自動的に最初にすべて装着されますよ。一応、外すことも可能です」
「ふーん」
スキルウィンドウの上に指を置いていると、ペタと、“毒牙”スキルの文字が指にくっ付いて取れた。ふわふわと動かし、“装着スキル”ウィンドウと、隣に現れた“待機スキル”ウィンドウの間を行き来させる。ウィンドウに近づけると、磁石みたいに文字が吸われて嵌まる。面白い。
「わたしのスキルで遊ばないで」
「何か感じる?」
「何も」
「ブルーバードもやる?」
「やらない」




