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どたどたと草原の向こうから現れたのは……ピンクの、細く長い二本足の大型の鳥。地面を、細い足を動かしてしゃかしゃかとこちらに走ってくる。しっぽのような長い尾羽が、背後に尾を引き、風に揺れている。計三匹が群れとなって、俺たちの方へと向かってくる。
「ポイズンアントは俺の側で待機、マルメロは、様子を見て援護に入るか決めるね」
「了解です」
俺の後ろから青い巨鳥が飛び立つ。大きな影が俺の上を飛んでいく。足元の草が、俺の髪が強風に揺れる。
ブルーバードの戦法は基本、上空からの奇襲を繰り返すヒット&アウェイ。彼女の武器は、硬く鋭い嘴か、強靭な脚だが、飛行を絡めるなら主戦力はその脚、そして爪となる。
今回鍛造屋さんで作ってもらったのは、隕鉄製の付け爪。隕鉄を使えば普通の鉄よりどう強くなるのかは分かってないが、とりあえずレアでカッコいい。磨かれた暗い銀色の爪が、ブルーバードの黒い爪の上で光っている。
「マルメロ、漏れて来たら対処お願い」
「了解です」
草原を走ってくる三匹の爆走フラミンゴ。と、上空から迫る大きな影に、フラミンゴたちは三手に別れた。
面倒な。まぁこっちの手駒も三匹。俺も攻撃手段は持ってる。手は足りてるか。
フラミンゴたちは右、左、まっすぐと三手に別れた。まっすぐ進み続けている、ピンク色の二本足鳥の真上から。
大きな影が襲い掛かる。
「キェェエエーー!」
フラミンゴは跳躍し、空を飛ぶ青い巨鳥へと飛び掛かる。ブルーバードの軌道は、地上に居たそいつを爪で襲い掛かる算段だった。ブルーバードの胸元あたりに、そのピンク鳥は飛んでくる。
大きな翼が羽ばたいて、大きな青い体を宙で止める。一、二回、羽ばたき位置を調整し、爪が飛んできたフラミンゴの頭の位置に届いた。
鉄の爪がフラミンゴの頭を叩き落とし、フラミンゴは地面に落ちていく。勢いをつけた一撃ではないので、相手への打撃は小さい。それに、ブルーバードはまだ、足に付いたその重さに慣れていない。動きがぎこちない。
右と左に分かれたフラミンゴのうち、右手の個体は旋回して、空を飛ぶブルーバードの方を追っている。左手に進んだフラミンゴは、そのままこちらへと向かってくるようだ。
「ブルーバード! 慣れない道具だから、焦らず丁寧でいいよ!」
逃れてきた一匹は、そこで黒牛の魔人ことマルメロに受け止められている。残りの二匹は、空を飛ぶ青い巨鳥の下でブルーバードを追って走り回っている。フラミンゴたちに飛翔能力はなさそうだ。
ブルーバードが一番威力を出せるのは、空高く飛んで降りて、その勢いを付けた爪の一撃。体がでかいのでそこまで速度は出せないが、体がでかいので一撃が重い。しかし、フラミンゴたちはスピード型であり、ブルーバードの上空からの強襲に反応できる。つまり、いつものヒット&アウェイが通じない。
大鳥は空の上でホバリングしたまま、地上を見下ろしている。地面の上ではちょろちょろと二本脚のピンク鳥が走り回っている。
やがて……ブルーバードは、地面に降りてきた。フラミンゴたちはそれを避けるように距離を取り、その周囲を円を描くように二匹で走っている。
どうしたのだろう、空を飛ぶのが疲れたのか、それとも、空を飛んで追うのでは、フラミンゴに追いつけないと思ったか。地面に降り、おそらく、ブルバードは向こうから近づいてくるのを待っている。
ピンクの鳥は二匹で、地面に立ったブルーバードの周囲を円を描き走り回っている。
やがて、突然一匹が進路を変えた。ほぼ同時に、もう一匹も、円の中心へと、そこに居るブルーバードへと近づくように方向を変える。
二方向からだ、ブルーバードは挟まれている。青い鳥は頭を傾かせ、その二匹を両目で捉えているようであり。
それから、大きく翼を広げて立ち上がる。ブルーバードはその片方に狙いを定めているようであり――
ブルーバードから近づいた分、先に、ブルーバードの正面から近づくフラミンゴと彼女が接触する。のけぞって、掲げた脚の先が近づくフラミンゴを狙う。
たん、と、軽くフラミンゴは跳躍する。フラミンゴとブルーバードとでは、その背丈が二倍以上違うが、彼女の頭へと飛んだフラミンゴの、頭の高さが合う。
まずい、ブルーバードの動きはそこまで速くない……、
「“雷よ”!」
俺は、ブルーバードから近づく方の個体へ握った呪符を掲げ、発動する。呪符は光り、生じた電撃が空気を裂いて光を撒き、一直線にフラミンゴへと飛んでいく。
背後からブルーバードを狙っていたフラミンゴは、足元の地面ごと吹き飛んだ。ブルーバードの頭を、もう一匹のフラミンゴが正面から襲う。ブルーバードは目を閉じ頭を引いている。フラミンゴは、長く細く曲がった首を伸ばして、ブルーバードの頭を狙ってクチバシを叩きつける。
「ブルーバード!」
ブルーバードが闇雲に翼を動かし、大きな翼がフラミンゴの体を捉えて押しのける。フラミンゴは地面に着地し――
「ブルーバード、空に逃げろ!」
ブルーバードは翼を広げて地面を飛び立つ。飛びかかってきたフラミンゴはブルーバードの足を掠めて、放物線を描いて草の地面の上に落ちていく。
どうにか、ブルーバードは空へと逃れたようだ。フラミンゴの跳躍には限界があり、空は飛べない。高く飛べばとりあえず安全だろう。
ブルーバードを叩いていた一匹はほぼ無傷、“雷の呪符”が当たったフラミンゴは、倒れた草むらの中からよろよろと起き上がってくる。あっちはもう一押しで倒せる。
もう一匹は、そこでマルメロとぼこぼこに殴り合っている。マルメロと一匹で渡り合えているので、こいつらは一匹でもかなり強めの敵。正確には、攻撃、スピード性能が高めで、耐久力は並みかそれ以下。マルメロはそのうち勝つだろう。
群れで現れたから一個一個が弱めなやつかと思ったが、見誤ったな。いつもならマルメロとポイズンアントのセットで対応しなきゃいけないやつ。
「ブルーバード! まだ戦えるか! 戦えないなら、俺の後ろに戻ってこい!」
空を飛ぶ彼女に俺の声は届いたか。青い巨鳥は空高くホバリングしたまま、こちらを一瞥し、すぐに下の敵に目を戻した。
継戦の意志あり。
「ブルーバード、先に弱ってる方を仕留めろ! もう一方から攻撃を食らわないように注意しろ!」
俺の指示に、ブルーバードは下降を始める。降りていく先に居るのは、よろよろと立つのがやっとなフラミンゴ。
空を飛び、風に乗り、巨体が過ぎ去り銀の爪が一閃。フラミンゴの体に、赤い爪痕が残像のように刻まれ、ピンクの鳥は殴られた勢いのまま地面に倒れた。弱っている状態で、ブルーバードの攻撃を避けられる速度は出せなかったようだ。
残りは二匹、片方はマルメロと組みあい、もう一匹は、今しがたブルーバードに攻撃を与えた元気な一匹。
大空の上で、青い巨鳥の影が空から地面を見下ろしている。フラミンゴは立ち止まり、細い首をもたげて、空の上の影を見上げている。
“呪符”はまだあるし、命中させれば一気に戦局は有利になる。さて、ここでブルーバードは苦戦するべきか。別に、今は三人居るんだし、有利な相手に有利な味方が出ればいい。相手はスピード型、ブルーバードの攻撃よりも、フラミンゴの速度が速い。いつもなら、あれはブルーバードが相手をしない敵。
しかしまぁ、これ以上の手出しはブルーバードに嫌われるだろう。俺が行うべきは、彼女を保護しようとする心配ではなく、彼女が失敗してもカバーできるよう、見守る目。
地上と空で、二種類の鳥がお互いを見合っている。
風が吹き、地面の草が揺れていく。
空で青い翼がはためき、大きな鳥が地上を見下ろしている。地上では、ピンク色の、足と首の細長い鳥が佇み、じっと空を見上げている。
空に居たままでは、フラミンゴの攻撃は決してブルーバードには届かない。そして、ブルーバードもまた、空に居たままでは地上のフラミンゴに触る手段がない。
仕掛けるのはブルーバードからだ。
大きな青い巨鳥が、降下を始める。大きな青い翼を広げ、風を掴み、緩やかな曲線を描いて。
青い鳥が、地面のフラミンゴへと迫る。
スピード型のフラミンゴからしたら、それは大したことのない速さだ。視界外から襲うでもなく、それはまっすぐ正面から向かってくる。フラミンゴはぐっと、足に力を込めて。
ここからだ。
ピンクの鳥が地を跳ねた。風を滑って降りてくる青い鳥に対し、その上を取るように高く飛び上がる。
両者の滞空性能には違いがある。フラミンゴは跳べば後は落ちるだけの地の鳥、しかし、ブルーバードはその翼で空を飛び、空中での行動制御が可能。
青い鳥は体を反り上げ、進行方向に対して翼を立てて、一気に減速を試みる。しかし、青い鳥の体はフラミンゴが落ちていく軌道の上から逃れられていない。一度減速すれば、その翼で急速に加速することは難しい。
じゃあどうするか。
ブルーバードは、体を捻らせ、羽ばたいて、下に落ちた。巨鳥の足元には、もうすぐ地面がある。
巨鳥の足が地面を掴んだ。四つのカギ爪が地面に食い込み、巨鳥は、思いっきり体を後ろに反らして。
振りかぶった。ブルーバードのクチバシが、宙を飛ぶフラミンゴを正面から貫く。
大きな青い頭に、フラミンゴは長い首ごと潰され、地面に力なく落ちていく。
もう動かない。フラミンゴの体が色あせていく。ブルーバードの勝利だ。
ぽん、と、青い巨鳥から白煙が立ち上り、中から、青いカッパを羽織った小柄な少女が現れる。マルメロともう一匹はまだ組み合っているが、マルメロが優勢でありもう今にも決着が付きそうだ。
ブルーバードがこちらを振り返る。
「お疲れさま」
彼女はたたたと、草の地面の上を走ってきて、そのまま、俺の胸元に飛び込んで来た。
「どうしたの?」
フードの中で、俯いた少女の顔を覗き込めば、少女は力の抜けた表情をしている。あっちで、最後の一匹のフラミンゴが倒れた。俺はブルーバードの背中の後ろで、マルメロに手を振ってお疲れと送る。
「……つかれた」
「そうだね」
ブルーバードは、俺の体に身を寄せたまま動かない。この子は普段、俺に甘えてくることはほとんどない。
俺は、少女のフードの中に手を入れ、頭の後ろに手をまわして、そのまま抱き寄せる。
「よく頑張ったね」
「……うん」
少女は、俺の胸元に頭を預けたまま動かない。俺は少女の両頬に手を動かして、その柔らかい肌を上からぐにぐにと動かす。少女は、珍しくなすがままにされている。
「もう……戦いたく、なくなった?」
どうだろうか。ブルーバードだけ、まだ強化が足りてない。元々の素質が、ポイズンアントや、“黒牛魔”形態のマルメロから劣っている。このまま一緒に歩いていけば、彼女だけが息を切らして付いてくることになるのか。
「まだ……がんばれる」
俺の腕の中で、少女はそう呟いた。
広い荒野の草原の上。風が吹けば、波のように草が倒れ、流れていく。火照った熱を、静かに風が吹いて冷ましていく。
俺が与えるべきなのだ。隕鉄の付け爪の装備を作った、確かに攻撃性能が上がった。だが、それだけではまだ足りない。まだ強化できる。もっとレッドパールに経験値を溜めて、彼女に合った強い装備を、強いスキルを、俺が考え、俺が探して、俺が見つけて、俺が持ってくる。
俺は静かに、小さな少女の頭を撫でる。




