第十四話、俺強化
確かに、思えば、俺本体の強化は全然やってきていない。俺が持つ装備なんて、拾った爆弾銃と、その場で作った“おざなりな魔物の服”くらい。
お金も貯まってきたし、俺の強化もしてみよう。彼女らは戦闘でスキルカードやら魔物カード、レッドパールへの経験値が得られていくが、俺に関しては、俺から何かしらをしないと、装備の更新がないのだ。
まぁ、お金があるとはいえ、お金には限りがあるし、稼げるのは彼女たちの貢献によるものだ。お金は大事に使いたい。ということで。
まずは情報収集か。商人さん、仕立て屋さん、鍛造屋さんに、それぞれ行ってみるかな。
「にーちゃんが、前に出て戦う必要があんのか?」
ここは[木々の町]、主要な道に面して位置する商店。店番は、いつも通りアーシャが行っている。
「いや、まぁね。俺だって戦えた方が、仲間も安心して戦えるんじゃないかなって。ほら、戦場には俺が一緒に行かないとだし。そんな中で、足手まといなんて居ない方がいいでしょ」
ふーんと、褐色の肌に白い布を巻いた少女は、分かったような分かっていないような返事をする、
「つっても、ソーシャってのは、味方の魔物とかを戦わせるもんだろ。あんたが危ないなら、守らせる用の魔物を近くに置いときゃいい」
「その守らせる用の魔物も、俺が強いなら要らないわけで」
彼女はカウンターの向こうで、店番用の椅子に座り、カウンターに肘をついて顔を傾けながら俺を見ている。
「焦ってんのか?」
「今は、チーム全体の強化週間でね。いろいろ改善点を見つけて、それを直そうとしてる所だよ」
「それで、“チーム全員が戦えるように”?」
アーシャは、椅子に座って楽な姿勢をとりながらも、じっとこちらを見つめている。
「チームを一つの思想で引き上げようとしても、出来上がんのは別に良いチームじゃねーよ」
通りがかりに客が来る。客は、カウンターに並んだ商品を一つ取り、お金を出して渡して、アーシャがそれを受け取る。手を振り、にこやかに客を見送る。
「“戦えるかどうか、強いかどうか”で見た時、あんたはチームの外れ枠になるわけだ」
「……」
「でも、チームに必要な役割って、それだけじゃないだろ? 例えば、後ろから全体を見渡したり、仲間の様子をつぶさに観察したり。あたしは、にーちゃんがそれを担ってると思ってたが」
「まぁ、間違ってはないけど」
アーシャは机の上を見つめながら、つらつらと述べる。
「一つの思想だけに寄せたチームは、そんなに強くない。それは、一つの指標には高く、尖ってるように見えるかもしれないが、それ以外では折れやすい」
アーシャは、カウンターの裏にある何らかの紙束を手に取り、ぱらぱらとめくって中身を見ている。
「各々、それぞれ得意な役割があんだろ。にーちゃんの魔物には、戦うこと、守ることを任せればいいし。にーちゃんが磨くべきは、本当に“自分も戦うこと”なのか? 自分が戦えないって欠点を、自分の仲間に補わせることが、そんなに嫌か? はたから見たなら、それは――」
ぺち、と、一番上の紙が紙束の上に落ちた。
「――にーちゃんは仲間を信じ切れてないって。そんな風に映るぜ」
「……」
「ま、何か注文があれば受け付けるよ。“限りある資源でチームの強化”がしたいんだろう? 考えが固まったら教えてくれ」
仲間を信じる。信じるも何も、俺たちの仲間はまだ入ってきたばかりで。彼女たちだってまだまだ未熟なところがあり、任せきればみんなが危ない目に遭うことになる。
別に、俺は仲間のことが嫌いなわけでも、信用ができないわけでもなく。俺はただ、仲間の能力を正しく評価をして、その通りに運用して、組み立てようとしている。
この前、ポイズンアントが動けなくなり、危ない目にあった。改善点は、“近くに俺を守る魔物が居なければ俺が危うい”ということであり、それは俺が強くなれば潰れる欠点だ。
だから直そうとしている。それの何が悪いことだろう。直せばチームが楽になる、負担が減る、上手く回る。
いつもなら、こんな風に考えてるんだけどって、そう言えば、アーシャは俺の考えをくみ取って、何か良い感じのものを取り寄せてくれて。
それなのに。今回だけは。
「まぁ……自分で探してみるか」
「戦士や冒険者の戦闘手段について、詳しく知りたいって?」
俺は今、[木々の町]にある宿屋に部屋を取っている。同じ宿屋には、マーチャさんという戦士の人が泊まっている。戦士と冒険者は似ているが、戦士はどちらかというと一つの場所に留まり、あるいは町から依頼を受けて街を護衛してたりしてる人たち。
部屋を訪ねると、彼女(彼)は暇していたようであり、部屋の中に招き入れてくれる。マーチャさんは、細身で背の高い性別がどっちもある人。日に透かせば赤い、赤茶けた髪を後ろで一つで結んでいる。格好は軽装だ。
「なんでだ? あんたも戦いたいのか?」
「冒険者の人とか見てると、なんか強くて、自由で、カッコ良さそうじゃないですか。俺もあんな風になれたら、楽しいだろうなって」
俺がそう言えば、マーチャさんは微妙に渋い顔をして俺を見ている。
「……マーチャさんも、俺にはやめとけって、言ってきたり?」
「まぁ、アストラみたいな流れの上振れを見て、憧れるのは勝手だけどさ」
彼女はベッドの背に背中を預け、こちらを見ている。
「そいつらはただ“生き残ってる側”だぜ。あんたには、ちゃんと“それ以外”が見えてるのか?」
「……」
「まぁ、生き残ってるって言っても、そうじゃない冒険者が頻繁に死んだり、居なくなってるって訳でもないけどな。じゃあ、“そうじゃない奴ら”が、どこに行ったと思うよ?」
「……どこへ行ったんですか?」
彼女は楽な姿勢でベッドに横たわりながら、天井を見上げている。
「そこら中に居るよ」
「そこら中に?」
「そいつらはみんな、魔物と戦うことを諦めて、戦うことをほかの人間に任せて、町の中で平和に暮らしてるのさ。小さな町の中に引きこもってな。もう、小さな魔物一匹も、自分で倒そうとはしていない」
[木々の町]にはそこそこの数の住民が暮らしているのを見ることが出来る。この町には、隣接してダンジョンがある。でも、その中に入っていくのは、俺たちを含めたごく一部の人間だけ。
「まるでそれが悪いみたいに言っちまったが、俺は町の中での暮らしが悪いものだとは思ってないぜ。俺も腕っぷしが強くて、ほかに成り手が居ないってんで、この仕事に就いてるが、町の中で別の仕事を見つけてたらそっちをやっていた、かもしれねぇ」
彼女は足の指先で布団の端を挟んで、持ち上げたり折ったりして遊んでいる。
「住民の中で冒険者や戦士をやってんのは、住民の中で“適性があった”奴らだ。その上で聞くが、お前はどうだ? トリジ」
「適性がなくても……努力したり、装備を揃えたり、後からどうにかなるもんじゃ、ないんですか?」
「それ、何の意味があるんだ?」
「意味……」
「最初から向いてる奴なら、苦しんで頑張って、強くならなくても……まぁ……成りたいもんに成れて、それやって暮らせてるってのは、楽しいものなのかね。俺にはわかんねーけど」
適性……は分からないが、俺がマルメロのお供である限り、俺だって戦う必要が出てくるんじゃないだろうか。
「適性が見たいんなら、今から棒きれの二本でも持って、俺と打ち合うか? それで、あんたがどれくらい、俺みたいなのに向いてるのかが分かる」
「……いえ」
「怖いか? 負けること、傷つくことが。それとも、自分に適性がないって分かることか?」
適性の……有無ではないのだ。今回は、必要があるって話で。
「あんまり……お手を煩わせる訳にもいかないので。今回は、お話だけで、十分参考になりました。ありがとうございました」
「そうか。俺は手間なんて気にしないけどな。俺は口も上手くねーし、何かやべーこと言ってるなって思っても、あんま気にしないでくれ。俺も、大した気持ちで言ってない」
思えば、俺の近くにいる人間は、俺の意見の否定をしない。俺が何を考え、試そうとしても、マルメロは賛同してくれるし、ブルーバードは……まだしも、ポイズンアントはまず肯定してくれる。俺は彼女たちに囲まれて、自分が分からなくなっているんじゃないだろうか?
俺は何が出来る? 俺は何が必要とされている? 俺は何をすべきで、どうあるべきで。
それは多分、俺が考えて、俺が見つけて、俺が正解しなきゃいけないんだ。
町の長老さんに相談すると、町の住民の一人が“呪符教本”なるものを持っていると教えてくれた。その人の家を訪ねると、部屋の奥、静かな本棚の中に、わずかに埃を被って、それは置いてあった。
その人に頼んで譲って貰い、お礼の品を半ば押し付けるようにして、俺はその本を持って帰ってきた。
“教本”とは、アイテムの一種であり、書いてあることの通りに繰り返すと、やがてスキルとして習得できる、スキルの補助輪みたいなものだ。




