ー5
レベルフロント攻略二日目。ヴァンピちゃんは今日は来なかった。エリア2からの、引き続き攻略となる。
エリア2。こちらはマルメロ、ブルーバード、ポイズンアントと居るし、敵が現れても一匹ずつ丁寧にやれば問題なく倒せる程度の強さ。
だが、エリア3に向かうまでとなると、どうだろうか。
エリア3までの道中で、連戦を余儀なくされ、途中で引くなら行程は倍になる。更新を目標とするならエリア3まで進み、そこで一回り強い魔物を倒すまでが必要。倒せなかったら、帰りもエリア2の魔物たちだ。
次にエリア3まで進むなら、今よりも実力的な余裕が必要だ。
倒せば倒すほど、レッドパールに経験値が溜まり、また小さめのレッドパールが落ちることで、手持ちのレッドパールに合成して等級を上げられる。レッドパールの等級が上がったなら、レッドパールを複数持ちでも、入ってくる経験値の分散減少が軽減され、経験値効率が上がる。
つまり、ここでぶん回していれば自然と強くなっていく。今の手持ちのレッドパールは三つ、それらを育てつつ、目標はエリア3への更新。
雑多な魔物を相手に戦闘を繰り返していれば、俺たちの弱点が見えてくる。
弱点一つ目、俺。俺の体は、シェル魔物や魔物体に比べるとか弱く、戦闘能力が低い。俺が近くに居なければ、マルメロが魔物体に変身できないため、俺の戦場への参戦は必須なのだが、とすると俺の弱さが段々目立ってくる。
今のところ、仲間をフルに使う戦闘はしていないため、空いている子が俺の近くに居て守ってくれる。これを、俺が自衛機能、あるいは防御だけでも上げられれば、俺を置いて味方が安心して戦えるわけである。
弱点二つ目、弱点というか、ゴールデンちゃんが暇している。さすがにここの強めの魔物相手に、俺たちの体を自由に使っていいよーとは出来ないため、俺たちの体も貸せず。まだ、俺たちのレベルも足りていないようで、ゴールデンちゃんからの魔物シェルもなく。
戦闘を回していれば、それなりに収穫も溜まり、使えるお金も出来てくる。
「別に、私はご主人さまに何かを求めてはいないです。ただ、生きてさえいてくれれば」
ここは[層樹林]の浅い層にある休憩洞窟。今日はみんなを集めて今後についての作戦会議中。
みんなの意見を聞いてみたい所もあり、俺は思い切ってマルメロに、俺に何か求めていることがあれば教えてくれと聞いてみた。するとそんな答えが返ってくる。
「つまり、俺の生存性能……ってこと?」
「まぁ、そうなりますね。“おざなりな魔物の服”では、そろそろ型落ち感がしませんか? もう少し、丈夫で、多少の流れ弾が飛んできても耐えられるくらいの防御力があれば、私も安心して戦えるかと思います」
これはマルメロからの俺の意見。
「意見ありがとう、マルメロ。ブルーバードは? 俺に、こう……求めることはない?」
俺は次に、青いカッパを羽織った少女に聞いてみる。
「ファッションセンス」
「心に留めておくよ。他には何かない?」
俺がそう返せば、頭の小さな女の子は、大層不服そうにこちらを見つめている。
「俺も“おざなりな魔物の服”が若干ダサいことは把握しているけど、まぁ、今は性能以外にどうこう言っていられる場合でもないしね。“衣装卵”……を使えば、まぁ見た目の上書きは出来るけど」
あるいは、防具もなんかこう、仕立て屋さんで、良い感じに見た目を変えてくれたりしないだろうか。まぁそれは“衣装卵”でも出来るか。
一つ、何かしらのカッコいい“衣装卵”を持っておけば、今後は防具もダサさを気にせず、上から一張羅として着続けることができる。ついでになにか良い効果が付いていれば良し。一つ作っておくのは良いかもしれない。
「わたしは……見た目とか、良い感じの方が、気持ちが上がるっていうか……トリジの」
と、ブルーバードはぼそぼそと続けている。
「確かに。見た目、大事かもね。どうしても後回しになってしまうかもだけど……まぁ、優先して取り組むことも、考えのうちに入れておくことにするよ」
「ながい」
「気が向いたらなんかするよ」
俺はブルーバードの方に近寄り、フードの上から、両側から頬を挟む。顔が小っちゃくて可愛い。わしゃわしゃとフードの上から擦り付けていけば、俺を見上げる仏頂面がだんだん度を増していく。
満足して手を離した。
「ポイズンアントは? 俺に求めることは何かない?」
俺は、岩の洞窟の中に座る、黒髪の少女に話を回す。
「私……私は……」
黒髪の少女は俯き、何かしらを考えている様子だ。
「死なない……人が、良いです」
「おっけー、ポイズンアントも、俺に生存性能を高めて欲しいってことでいいのかな?」
こくんと、ポイズンアントは頷いた。反応的になんか違いそう。でも、多分言わないのではなく、彼女の頭の中で、はっきりと像が結んでないのではないだろうか。今無理に聞いても、答えが返ってこない気がする。
マルメロからの要求は生存性、ブルーバードはファッションセンス、ポイズンアントもとりあえず生存性を、俺に求めていることが分かった。
あとは……。俺は、そこに落ちている金色の餅を掴み、持ち上げる。
「ポイズンアント、ちょっと体貸して」
「え、あ、はい。……え、私ですか?」
俺はでかい餅を投げ、それは広がり、ポイズンアントの頭に飛び掛かった。
白シャツ、グリーンの吊りスカートの少女が岩の床に正座をして座っていた。彼女の頭に金色の広がったべたべたが飛び掛かり、引っ付き、そしてその肌の中に沈み込んでいく。彼女のさらさらとした長い黒髪が、きらきらの金色に染まっていく。
目を開けば、そこに十字の星の光が宿った。少女がばっと、両手を腰に回す。
俺は少女の肘を上から押さえつける。
「ゴールデンちゃん、やめなさい」
「そんな力で、私を止められると思っていますか? 私のほうが力が強いです!」
「やめなさい。君の仲間だよ」
金髪の少女は、服をまくろうと白いシャツに手を掛けていたが、やがて、諦めたようにゆるゆると手を下ろした。
「どういう感じのあれなら許されますか?」
「エッチなのは禁止」
小休止。
「まだ一緒になってそんなに日が経っているわけじゃないけど、ゴールデンちゃんから見て、俺に、何か改善して欲しい所とか、こうなって欲しい、みたいな像とかあるかな?」
俺はそこにへたりと座り込んだ、金髪の少女へと話しかける。
「あなた様は、その、このチームの指揮官で、いらっしゃるんですよね?」
「そうなるね」
「なんだか余裕がないと思います」
ぐさ、と、ゴールデンちゃんの言葉が俺の心に刺さる。
「そこまで強くないのに、好戦的で、やたらと前に出たがっているようですし」
「そ……そこまで強くないこともないよ? 俺だって、本気を出したら戦えるし?」
「無駄じゃないですか? そのプライド」
「……」
「この前のピンチの時だって、自分が前に出ようとして、止められてましたよね。あなた様は一度、ご自身の身の程を、身を以て、お分かりになられた方がよろしいのではないでしょうか?」
俺は、このチームの中で、要となる駒である。マルメロは俺が居なければその体を保てず、マルメロは戦っても消耗はするが回復する、撃破されても時間経過で復活する。一方で、俺にはそんな死への保護はなく、傷ついても回復は遅いし、治すならいろんな道具を用いて回復を早める必要がある。
となれば、基本はマルメロを前に置き、俺が後ろに立ってそれを見守るという布陣。じゃあ、ギリギリの時は? ギリギリの時? そもそも、俺が前に出て戦うような場面を、事前に想定して組むべきだろうか?
まぁでも、見てるだけは暇なんだよなぁ……。しかし爆弾銃はある。遠距離攻撃なら……ヘイトこそ買うが、敵の近距離攻撃からは、遠く離れて戦闘に参加できる。今の爆弾銃だけでなく、俺は遠距離攻撃系の手段を充実させるべきだろうか? ぷらす、防御力。
「あなた様、あなた様、傷つきましたか?」
と、ゴールデンちゃんが嬉しそうに身を乗り出して、俺に聞いてくる。
「いや別に。考えてただけだし」
「なんだ」
ゴールデンちゃんは落胆した顔をする。所詮は、“闇のもの”が持ち合わせる程度の倫理観かこいつ。
「ご主人さま」
「なんだいマルメロ」
「私なら、ご主人さまに、十分に身の程を教えられると思いますよ」
そちらを見れば、黒い牛の獣人がこちらを見ている。彼女は薄く張り付けたような笑みを浮かべている。何を考えている。カチカチの引き締まった筋肉。相変わらず全裸だが、今の“黒牛魔”のカードが雄個体のもの、見慣れた胸の膨らみが、今回はない。
「ゼリーにするよ」
「フルーツゼリーでも、ご主人さま程度なら勝てますよ」
「別に大丈夫。全然わかってるし」
「そうですか」
んー……胸……胸必要……いや違う。何の話だっけ?
「マルメロ、“ファイアライオン”の方が可愛いから、戦闘時以外の平時は、“黒牛魔”じゃなくて“ファイアライオン”の体でもいい?」
「へ? あ、はい。私はなんでも……いいですけど」
俺は懐からカードを取り出し彼女に投げる。くるくると、透明な下地にライオンが写ったカードが飛んでいく。カードが彼女に当たり、ぽんと白煙を吐く。彼女の姿が変わり、中からカードが飛び出てくるくると俺の手元に帰ってくる。
「わーい、いつものもふもふマルメロー」
そこに現れたのは、クリーム色の体毛、赤いたてがみの生えた、ネコ科の獣人。この前までの主戦力。
「……ご主人さまは、獣がお好きなんですか?」
「どうだろうね? 猫は好きかも」
にゅうぅ……と、ポイズンアントの頭から金色の餅が湧き出ている。ポイズンアントは餅をその場に捨て置き、こっちに詰め寄る。
「あ、あるじ様! アリは! アリはどうですか!」
と、ポイズンアントがアリに関する意見を聞いてくる。
「アリは……でかくてカッコよくて、頼もしいよね」
「じゃあ猫とアリでは!」
「猫かな」
ポイズンアントが少ししおらしく肩を落とし、隣で、マルメロが勝ち誇ったような顔をしている。いやまぁ、ポイズンアントのことはもちろん好きだけど。
「あ、でっかい鳥はもちろん好きだよ。もふもふだし」
と、俺はそこでぼーっと傍観している、青いカッパの少女に話しかける。ブルーバードは俺の声に反応し、俺の顔を見上げる。
「で?」




