ー2
足元を覆う程度の雑草が生えた荒野。地面は綺麗に真っ平ではないので、どこに何が潜んでいるか分からない。
青い草の生えた荒野を歩いていけば、向かいから三体の獣が現れる。ふわふわに毛の生えた、灰色のオオカミみたいな魔物が三体。
「マルメロ」
「任せてください」
真っ黒な人型の、頭に湾曲した角の生えた獣人が、あちらの魔物たちへと向かっていく。
現在、俺が連れる味方は四体。精霊のマルメロ、魔物シェルのブルーバード、ポイズンアント、引き連れ状態のゴールデンちゃん。
仲間の一人目、マルメロ。
精霊は、火の玉状態から、魔物カードを用いて魔物体に変身することが出来る。魔物体は、ダメージや疲労が蓄積すると解除されるが、時間経過で回復し、再び魔物体へと変身が可能。ほかと違ってロストがないので、基本的には、マルメロを主戦力として戦っていくことにしている。
現在のマルメロの体は、“黒牛魔”のカード。同じく“黒牛魔”からドロップしたレッドパールを装備し、存在を強化した上で、このカードへの変身が可能となる。
今持っているレッドパールは三つ。赤くて丸い、真珠のような石。手のひらで転がせば、淡い虹色を浮かべている。その石は、純度を上げるごとに色濃く赤くなり、そして経験値を重ねるほどに大きくなっていくという。
“黒牛魔”からドロップした大粒のやつが一つと、他からドロップした小粒が二つ。チームの人数分には足りないが、増やしすぎても核への経験値が分散して溜まらない。マルメロと相談した結果、その三つを育てていくと決めている。
俺を含めると仲間は五人、あるかは分からないが、全員同時に戦うとなると二人はレッドパールの装備がない。
“黒牛魔”のカードは相当に強力なカードである。身に付いた、引き締まった鋼のような筋肉。青い炎のようなオーラを漂わせながら、黒い獣人は、草原の中を素早く動く。
黒い腕がオオカミの一体を捕らえた、彼女は毛皮の上から首を掴み、そのまま乱暴に、地面に叩きつける。ぎゅっ、とオオカミの喉から息が漏れ、次の瞬間には蹴り飛ばされ、草原の上を転がっていく。
マルメロは余裕そうだ。レベルフロントは全五エリアあるが、一つ上のエリアでドロップしたアイテムを持っていると、下のエリアの魔物たちは怖がり、近づいて来なくなる。
今、エリア1へと足を踏み入れた所だ。最終目標はエリア5までの制覇。今日の目標は、エリア2でモンスターを倒し、そのドロップアイテムを持ち帰ること、辺りだろうか。あるいは進めるところまで進むか。
俺たちの視界の先には、遠くに川が流れているのが見える。あそこを挟んで、向こう側がレベル2、こちら側がレベル1。
何もない草原の上を歩いていれば、その辺のくぼみに潜んでいた魔物が姿を現す。
わしゃわしゃと、羽の生えたバッタみたいなの。
「ブルーバード」
「なに……?」
俺が呼びかければ、彼女の億劫そうな声が返ってくる。
「戦って!」
「別に、わたしじゃなくても倒せるでしょ、それ」
「今回は、みんなの実力を正確に把握して、さらなるレベルアップを目指すのが目的だからね。まぁ俺を助けると思って」
めんどくさいなーとぼやきながら、青いカッパの少女が歩いていく。ぽんと白煙を吐いて、その姿を大きく変える。
そこに現れたのは、大きな、カラスのような青い鳥。ふわふわの胸、ふわふわの翼。鋭い目つき。
仲間の二人目、ブルーバード。俺たちが最初に手に入れたシェル魔物の仲間。
特にこの子は、トラップマップを探索した時に、最後の報酬として宝箱から見つかったお宝。戦闘には関係ないが、“人化”という希少なスキルを覚えており、彼女たちとの意思交流に非常に役立っている。
大きな青い翼が風を生んで草をなぎ倒す。巨大な体が地面を離れた。俺が抱き着くくらいの大きさはあるが、重さ的に、俺を乗せて飛ぶのは難しいという。
彼女は最初から強力な味方であった。まぁ、その最初の方が、[層樹林]という構造物の中での探索が主ということもあり、閉所で彼女の大きな体と翼は扱いづらく、出番も少なかったのだが。
とはいえ、呼んだら来てくれるし、出したら目の前の魔物は倒してくれる。頼もしい味方。
マルメロが魔物カードの更新を行っている間も、ブルーバードは最初からブルーバードの魔物なのだが、まだまだ彼女の実力不足を感じることはない。まぁ無理して呼ぶこともないんだけど。今は、小さい方のレッドパールを持って貰っているが、まだ効果が小さく、恩恵はほとんどない。
空から襲い掛かった鳥の足が、地面に居た、羽の生えた青いバッタみたいな魔物の頭を、強く押さえつける。ばたばたと虫の魔物は暴れ、ブルーバードのクチバシによる追撃が胴体に入る。
やがて虫は動かなくなった。大鳥は足を魔物から外し、じっと見ていたが、やがててけてけとこちらに歩いてきて、ぽんと白煙を吐いて人の形態に戻る。
「こんなよわいのと戦わせて、何になるの」
「わかった。次は強いのね。楽しみにしてて」
目に見えて、ブルーバードの顔が嫌そうにゆがむ。
「うそうそ。戦ってくれてありがとね。いったん休憩していいよ。おつかれさま」
俺がフードの上からポンポンと頭を優しく叩くと、彼女はそっぽを向いて、俺の後ろの方に帰っていく。




