第十三話、攻略・レベルフロント
視界の彼方に、平野の奥に左右に並び立つ、連山の影が見えている。
ここは“レベルフロント”と呼ばれる荒野。目の前に広がる平野から始まり、山の麓まで行き、斜面を登り、山の輪郭の頂上に立つ。そこまでに、合計で異なる五層の強さの魔物たちがエリアごとに分布している。
アーシャ曰く、「ここさえ攻略できれば、あとはあんたの足で、大抵のところは歩いていけるだろうよ」とのこと。
つまり、ここが、世界渡りに必要な標準的強さ。
目の前に広がる荒原を前に、俺たちの姿が並んでいる。
「みんなは忘れてるかもしれないけど、俺たちは今、ヴァンピという子を打ち負かすために強くなってる。おそらく、ここが最後の山場だ。ここを越えたなら、俺たちはヴァンピの元へ挑みに行く。たぶん、その時にも、みんなの力を借りると思う。メンバーも、ここに居る全員だ」
俺は振り返り、そこに並ぶ仲間たちの姿を一人ずつ見つめる。日差しにみんなの影が映る。一人は、頭に角の生えた獣人、一人は合羽を着た少女。一人は長い黒髪の女の子。地面に落ちた金色の餅と、頭に角と、背中に羽と尻尾が生えた女の子。
「きつい場所になるかもしれないけど、へこたれず、みんなで頑張っていこう! マルメロ! ブルーバード! ポイズンアント! ゴールデンちゃん! ヴァンピ!」
「はい!」、と、みんなから威勢の良い返事が返ってくる。
「……」
みんなの背後の空中にふわふわと漂う少女は、若干の不満げな表情を見せながら、俺の方を見つめている。
短く白い髪、短い二本の赤角。黒いカッターシャツと、てかてかとした黒いホットパンツ。蝙蝠のような二つ一対の羽と、長く黒いしっぽ。
その子だけ、場違いに冷めた様子で、俺の呼びかけに返事もせず、こちらをじっと見ていた。
「どうしたのヴァンピちゃん」
「待ちなさいよ」
“レベルフロント”は少し特殊なエリアであり、その場所にそのまま魔物たちが生息しているわけではなく、あるいはこの場所を守る障壁となるように、近隣のエリアから魔物たちが集まっている、らしい。
だからこそ、現れてくる魔物たちは雑多。一通りの属性や攻撃方法による攻略は難しく、ただ様々な尺度から見た純粋な強さだけが試される。
“レベルフロント”の手前側はまだ安全地帯、俺たちはそこらの岩陰に隠れるように、拠点のテントを張っている。
「ってわけだよ、ヴァンピちゃん」
ここは、真っ白に張ったテントの隣。ふよふよと、腰元から抱えあげられたように脱力しながら、一人の女の子がそこに浮いている。
「ふーん」
休憩洞窟に居て暇そうだったので、誘ったらそのまま付いて来た。まぁ、さすがに俺たちと混ざって戦うことはないだろうが。
「どう? 俺たちの仲間になる気には、なった?」
俺が問えば、ぷい、と彼女はそっぽを向く。
「なるとしたら、私が上で、あなたが下」
「俺一人だったら、それも有りだなぁ」
ふん、と彼女は軽く息を吐く。
「あなた一人だったら、いらない」
「仮想敵としているなら、あまり、私たちの手札とか割れるの良くなかったんじゃないですか? 本番も近いみたいですし」
「俺が、手持ち割れたくらいで負けると思う?」
「戦うの私たちですよね?」
俺とマルメロを先頭に、俺たちはレベルフロントのレベル1、“前野”へと向かう。後ろにはお供が三人、金色の餅は、今はバッグの中で寝ている。
俺は、ちらと彼女らを振り返る。空を飛んで付いてくる女の子が一人、青いカッパを着て歩く少女が一人、長い黒髪と緑のスカートを揺らす、白いシャツの女の子が一人。
俺たちの後ろで、三人は何事か話していて、俺の視線にちらとこちらに目が向く。なんでもないよと、俺は、隣のマルメロに目を戻した。
「まぁ、いいんじゃない?」
レベルフロント“前野”に着いた。レベルフロントは五つの階層に分かれ、それぞれ階層ごとに異なる強さの魔物と戦うことが出来る。手前ほど弱く、山を登り、上に行くほど強い。
“前野”は、左右に帯状に広がる連山の、手前に広がっている平野の、前方の大部分。エリアとしては最も大きく、出てくる魔物の種類も雑多で多彩となる。
ここがレベルフロントのレベル1。まずは、ここから足慣らしだ。




