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洞窟の壁際、新たな調度品“岩のベンチ”にマルメロを座らせ、その頭の上に、そっと金色の餅を置く。
「俺は今から君と対話がしたいんだ。その人の体を、一時的に乗っ取ってもいいよ。君が来てから、あれこれ、何がだめだとか、こっちからの命令みたいなものばかりで申し訳ないね」
金色の餅が、ライオンの獣人の頭に染み込んでいく。マルメロは、揺らぎもせずそれを受け入れた。あまり体毛の変化はないが、彼女の赤毛が金色に、そして目が金色の瞳に変わる。
おそらく“乗っ取った彼女”は、開口一番に一言。
「この人、最初から全裸です!」
洞窟の中にマルメロもといゴールデンちゃんの声が響き渡る。マルメロの声だ。
「けもの、だからね。獣に服は必要ないよ」
「全身がすーすーします!」
「あれ、慣れないかな? まぁ水着みたいなのならあるけど」
元から未梱包の餅なのに、全裸に違和感があるのだろうか? それとも、餅形態はあまり感覚器官が発達していない? まぁ餅だしな。
俺は荷物から黄緑色の卵を取り出し、彼女に押し付けると卵が変形し、胴を多い、肩に紐をつけ、下に突な逆三角で腰元を覆って完成する。
「これは全裸です!」
「違うよ、それは水着だよ」
「ほぼ全裸です!」
「うーむ……ほかの服が良いの?」
金色の星の瞳が俺の体をじっと見ている。え、この紫のダサいやつが欲しい?
俺はフルーツゼリーの衣装卵を回収し、紫の上着を脱いで彼女に渡す。マルメロもといゴールデンちゃんは服をいそいそと着ている。
「気持ちは落ち着いたかい?」
彼女は一番下のボタンまで留め終え、そして獣の両手を、胸元の襟まで持っていき。
「ばーん!」
と、彼女はシャツを開いて中身を見せた。そこには、クリーム色の体毛に覆われた、見慣れた二つの膨らみがある。
「満足したかい?」
「ちょっと面白くないです」
「次は、腰を抜かして驚くことを心掛けるよ」
まぁ、とりあえず満足してくれたようだ。彼女はまたいそいそとボタンを留め直している。
「一応、今の君にも言っておくけど、魔物シェルをくれる気ってのは、あるかな?」
と、マルメロことゴールデンちゃんは、ボタンに置いた指を止めて俺を見上げる。
「わたしは一応、ここの子になる気で付いて来ました」
「え、そうなの? それは嬉しいね! じゃあ好きなだけゆっくりしていってね!」
いろいろな問題が解決!
「しかし、あなた方が思ったより弱そうみたいですね」
「みたいだねー。君も強い」
にゅううと、金色の髪と瞳が引いていく。どうした?
「ご主人さま、一応、強制的に帰還させるのなら、夜空の下で水を貯めたタライにでも突き落とせば生息地への送還が可能です」
あれ、今の怒ってるんですかマルメロさん。
「ごめんねマルメロ、ゴールデンちゃんが、君の体で早速イタズラしちゃったみたいで」
「……いえ」
すぅぅと、上に湧き出た金色の餅が、再び彼女の頭の中へと入っていく。
「わたしは、ここに居ていいのですか?」
と、これはゴールデンちゃん。
「もちろん。この俺が保証しよう。それはそれとして、先住民として、ここには二人が居るから、この洞窟に住みたいなら一応、二人の意思も聞かないとね。ブルーバード」
俺が何かを聞く前に、青いカッパの少女は片手をあげてひらひらと振っている。来るもの拒まずだな。
「良いみたい。じゃあポイズンアント」
と、呼びかければ、少女はそっちの机の前に座っている。椅子を引いて、くるりと体をこちらに回す。
「その子が増えて……私が疎かにされることがありますか?」
正直、こっちが快諾だと思っていたが、ポイズンアントは一言、そう添えてきた。
まぁそうか。ポイズンアントだって、まだここに慣れてきたばかりで。人が増えたら自分という存在が薄くなるかも、そう心配するのも、もっともである。
「俺が持てる時間も手間も限られる。ここに誰かが増えれば、その分だけ均等に、君にいきわたるそれらが減っていく。それでも、俺は君がここに最初に来てからずっと同じように、君のことを大事にし続けよう」
俺の言葉に、黒髪の少女は、ふむと頷く。
「放って置かれてると思ったら、暴れだします」
「留意しよう」
「冗談です」
くす、と、彼女は椅子の上で笑った。最初に比べれば、ずいぶん砕けた様子だ。かわいくて、愛らしい。
「私はあるじ様の忠実なるしもべ。私は、あるじ様の決定に従いますよ」
「ありがとね」
と、俺はベンチに座った彼女に向き直る。
「ゴールデンちゃん、とりあえず、君はここの休憩洞窟で住むことが出来るよ」
それから……、
「俺は町の中に入るけど、一応、君はまだ、俺に紐づいていない未管理の魔物。町の中に入れて貰うには、ある程度の落ち着きを、君の方から見せていく必要があるね。どう? ゴールデンちゃん。君は町の中に入りたいかな?」
まぁ今のところは付いてきておとなしい子だった。特に言う必要もないかな? と、岩のベンチに座ったマルメロもといゴールデンちゃんは、ぺかっと、その両目を見開いた。
「そこに、どうでもいい人たちが居るのなら、乗っ取って遊びたいです!」
「一旦出禁ね。これから、人の町で過ごす倫理を俺とお勉強していこうね」
ブルーバードにヴァンピちゃんの様子を聞いたが、特に変わった所はなかったとのこと。今はここに居ない。あとで、ちゃんと俺で会いに行って確かめないとだな。
まぁ、今日はいったんお休みか。ゴールデンは、シェルを通して呼べるわけでもないし、ここに置いていくか、それとも身のそばに置いておいて、宿屋に持って帰るか……言い含めたら、ちゃんと大人しくする子ではあるか。
「……まぁ、ゴールデンちゃんは、いったん俺と一緒に来る? 俺から離れず、俺の言うことは聞くんだよ。ポイズンアントは、今日はこっちでお休みかな?」
「あなた様! そこの二人も乗っ取って遊びたいです!」
「だめだよ~」
ゴールデンちゃんが動かせる用の体とか必要だろうか。……人形とかにしても、喋る口、喉や器官がないと結局変わらないかなぁ。この子が自由に使える体。また商人さんに相談してみるか。
俺のところに、また新しい仲間が増えた。




