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小部屋の中、黄緑と白のカエル人が一人、奥で眠る大型の魔物が一匹。
ぺた、と、彼女が足を動かす。と、マルメロがトカゲに何かをしてしまう前に。
紫色の、ブドウなりのトカゲが目を覚まし、その頭をもたげる。
トカゲがその目でマルメロを視認した。のそ、のそと動いて、ムラサキトカゲは体を伸ばして、マルメロと正面から向かい合う。
マルメロはまさにヘビに睨まれたカエル。ヘビじゃないトカゲだ。トカゲ? まぁいいや、トカゲとカエルってどっちが強いんだろう。
「がぅぅう!!」
トカゲが口を開いて威嚇する。そこに鋭い犬歯が見えた。たぶん戦意ありそう。
「やっちゃえマルメロ!」
「がんばります!」
黄緑色の肌のカエルの亜人は、両腕を構えてブドウドラゴンと対峙する。
「よぉそこのねーちゃん!」
ドラゴンが喋った!
「え、あ、はい!」
マルメロが返事をする。
「そう! ここはオイラの巣穴! お前ら勝手に襲来! でもオイラは寛大! そんなお前らに避けられぬ課題!」
流ちょうに喋りだした! 小さなドラゴンは四肢を地面に付けて、くびをもたげてわななく! 首元になっている紫色のブドウのいくつかが、赤く強く光り、点滅する!
「オイラの果実は無限の爆弾! ひとつ残らず避けてみろ!」
「どんとこい!」
マルメロは構えていた両腕を下ろし、足を開いてその場に屈みこみ、地面に手をつく。
「さぁいくぞ!」
ブドウドラゴンの、首にたわわになった紫色のボールは白く、赤く輝きだし、その一つが首から外れて地面に落ちる。体躯の大きなドラゴンは、狭い範囲で身軽に体を回して一回転! 落ちたボールをしなる尻尾が捉え、弾かれ、マルメロのほうに飛んでくる!
マルメロは、カエルの両脚でひとっとび! 輝くボールは地面に落ちて、転がり、ボンと爆ぜて地面を揺らす!
「意外に軽快! 初回は合格! こいつは手加減……要らないな!」
ドラゴンは口を開いて笑う。ぴかぴかぴかと、首になる紫色の果実が交互に光り、点滅する。
ぼとぼとぼとと、地面に複数の果実が落ちる。ぴかぴかと、落ちた果実は不規則に光っている。ドラゴンは再び、その場で体を一回転! 撃ちだされた複数のボールが、そんなに広くない小部屋の中に撃ち出される!
ボールが部屋の中に散らばった! マルメロは逃げ先を迷い、きょろきょろと見渡しているうちに……落ちたボールはピカピカと光っていき……、
「マルメロ! 危ない!」
ボン! 足元のボムが爆発する!
「マルメロ!!」
爆発を受けて、マルメロはよろよろと後ずさる。続いて、ボン、ボン、ボンと、散らばっていた爆弾が間隔をずらして爆発している。一斉同時に爆発するわけじゃないのか……?
「マルメロ! 大丈夫か!」
「まだいけます!」
彼女から強い声が返ってくる。心配だが……かと言って俺が前に出て戦えるわけじゃない。戦闘は彼女に任せるしかない、が……。
「ありゃありゃ。ねーちゃんはじゃあ、“この程度”でおしまいか?」
ブドウドラゴンは部屋の奥に構え、鎮座してよろけたマルメロを見つめている。図体は大きく、肌にまとう紫色のウロコは滑らかにきらめいている。
カエル人のマルメロとブドウドラゴンとでは、数倍の体格差がある。そもそもカエル人は攻撃の手段にとぼしい。近づいて、純粋に殴り合いをしても、マルメロが負けてしまうことはなんとなく分かる。今は、相手のペースに乗るしかない。
マルメロは構えた両腕を解いて、強い視線で向こうのブドウドラゴンを見つめる。
「私はまだ……行けますよ」
「そうかい、ならば続行だ!」
ぴかぴかぴかと、首元のブドウが不規則に光る。たま切れを期待したい所だが、いくつか落としてる首の玉の房は、しかし数が減っているようには見えない。あの爆弾は減ってもすぐに補充されるのだろうか?
ぼとぼとぼとと、地面にいくつかの玉が落ちる。玉はそれぞれ一回ずつ赤く、強く輝いてすぐに光が冷める。ドラゴンの体が一回転! 尻尾に薙ぎ払われた爆弾の玉が再び部屋の中に散らばる!
「くっ!」
マルメロは再び、部屋の中に散らばった爆弾を見渡している。それらは隙間なく小部屋内に散らばり、逃げ場などないように思える。俺の居る所はもちろん安全なのだが、背中を見せて逃げたとして、相手の提案にそぐわない行動をとった場合、向こうが何をしてくるかが分からない。
やがて、マルメロの足元の爆弾が光りだし――
「マルメロ! 足元の爆弾がもう爆発するよ!」
マルメロは真下を見下ろし、すぐに後ろに跳躍! そこにあった一つ目の爆弾の爆発の範囲からは逃れられるが……、
「マルメロ! 後ろのそれも!」
カエル人の体は後方へと跳躍、しかしその先にはまた爆弾がある。爆弾は光り、その輝きを強めていって――
「マルメロ!!」
ボン! 彼女は爆弾の爆風の中に突っ込んだ!
「おっとぉ! そっちの坊主は中に入らない方がいい。お前なら一撃だ」
小部屋の中に走りだそうとした俺を、ブドウドラゴンが釘を刺して止める。
「……っっ! マルメロ! 大丈夫か!」
白い煙の中から、彼女の体が現れる。確か、ダメージが一定になると変身が解除されると言っていた。彼女がまだカエル人の体を保っているということは、まだ耐えられるダメージがあるということ。
しかし、彼女はよろけながら立ち上がる。あと何発耐えられそうか分からない。下手したら、あと一回。そうしたらもう……ゲームオーバーだ。
「さぁて。続けるかい? おねーさん」
「私はまだ……平気ですよ……」
彼女はまだ立っている。強い意思で向こうの魔物を見返している。彼女はまだ戦う気なのだ。
「マルメロ! 分かった! 俺の指示通りに避けて!」
ちらと、小部屋の中のカエル人がこちらを見た。俺とは違う構造の縦長の黒目がこっちを見ている。カエルの表情は……分からないが、マルメロなら俺を信じてくれると分かる!
「お願いします!」
マルメロは答え、向こうのブドウドラゴンに視線を戻した。
「さぁあと一回! それとも二回? あんたはどれだけ、耐えられるかな!」
首元のブドウがぴかぴかと光り、ぼとぼとと順に地面に落ちていく。地面に落ちたボールはやはり、ピカピカと不規則に一回ずつ光っていく。
ブドウドラゴンが体を一薙ぎ、小部屋の中へと三度爆弾の弾幕が展開される。
「マルメロ! 左!」
俺の命令を受け、即座に彼女は左へと跳躍した。足元の爆弾が光り、その光を強めて爆発! さらに彼女の後ろにあった爆弾が爆発! 次には、その右隣の爆弾が爆発!
「マルメロ! 右!」
「はい!」
マルメロが跳ね、宙を飛ぶ。彼女が空中を通り過ぎ、直後、過程にあった爆弾が爆発、その左後ろが爆発、最後に、彼女が飛ぶ前の場所の爆弾が爆発。
「ご主人さま! 避けられましたよ!」
「飛ばされる前、地面に落ちた時、光った順番で爆発してるからそれを覚えて避ければいいね!」
「なるほど! つまり?」
つまり?
「え? あ、うん! じゃあ俺が避け先を指示するね! 方向はマルメロ基準で!」




