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俺たちは洞窟の外、波引く砂浜まで出てきた。日は沈み、空は藍に染まり、夜へと向かっている。
水色の羽織りの彼は、手を振りながらふらふらと砂浜を歩いて行った。彼のおかげで、今日はずいぶんと格上の相手と戦えた。成果も十分、手に入れた魔物カードは、主力として更新するに値するものだろう。
「サラちゃんはどうすんの? まだここに居んの?」
「誰がサラちゃんよ。なに? あたしも、あなたの所に招き入れるつもり?」
「え、来てくれるの? 君が来てくれたら、今居るみんなを差し置いて、君が一番の実力者になるね!」
んー、と、彼女は藍色の空を眺めて考える。
「やめとくわ。私は、雑魚とつるむ気はないし」
「じゃあなんで聞いたの?」
と、彼女は数歩こちらに歩いてくる。「ん」と、手の甲を上にして、片手を差し出してきた。
「なに?」
「手を出しなさいよ。こういう時だけ、察しが悪いわね」
俺は乞われるまま少女の手の下に自分の手を差し出せば、ことんと、何か落ちてくる。
「これは……なに?」
指に挟み、それを顔の前まで持ってくる。それは透明なコイン。しかし、金属のようにずっしりと重い。色は……黄緑色か、桜色か。
「今日はなんだかんだ楽しかったから、それあげる。感謝を噛み締めなさい」
「ありがとう。なんだか、俺ばかり貰ってばかりで、申し訳ないね」
「私は楽しかったって言ってるでしょ」
そう言って、彼女は俺から一歩離れた。
「行っちゃうの?」
「あいにくと、あたしは鎖の繋がれた生活には興味ないの」
「うちの鎖はだいぶ伸びるけどね」
「鎖自体が嫌なの。それじゃ、私は行くから」
と、彼女もまたその場から去っていく。黒い岩場の上を登って消えていく影を見送った。
その場には、波と静寂だけが残っている。
「契約が成立しました」
隣でマルメロが呟く。
「うわ、急に何」
「それは“幻霊のコイン”。幻霊の種族の中で流通する、種族コインの一種です」
言われて、俺は改めて、手の中に残ったコインを見直す。そこには、透けた、冷たく綺麗なコインがある。
「いつも使ってるのとは、違うね」
「現在私たちが使用しているのは、原生種の内部で流通している“クルスコイン”」
「くるす?」
「“十字路”という意味の単語から来ています。そこが、さまざまな種族の交差点となるように。そんな願いを込めて、クルスコインが造幣されました」
確かに。いつも使っているコインには、バッテンの模様が付いていた。町にも、いろんな見た目の住人が居る。
手の中のコインを景色に透かして見てみれば、“幻霊のコイン”には……羽? と鱗粉……蝶だろうか? ここが暗くて鮮明に見えない。多分何か描いてある。
「それで、契約って?」
「幻霊から“幻霊のコイン”が一枚贈呈される場合、契約が成立します」
なんで?
「この世界、勝手に成立する契約がちょいちょい無い?」
「知らない方が悪いです」
「君は、何で事前にそれを教えてくれなかったの?」
「楽しくないかなって」
ネタバレ防止ですか? 配慮ありがたい。
「そして、成立した契約ですが、契約した幻霊が所持するコインの元に現れます。コインの所持者は、一部の場所に置くことを除き、コインを破棄できません。幻霊が再び承認した場合のみ、コインを破棄することが可能です」
ふーん。
「別に、悪い契約じゃないじゃん」
「私は別に、悪い契約だとは言っていませんが。まぁ悪用も可能です」
まぁやばそうな時はさすがに先に教えてくれるか。
この契約は、要するに、今後あの子が気まぐれに遊びに来る可能性があるということか。気に入られたのだろうか? てっきり、このコインを使える場所まで遊びに来いとか、そういう方を想像したが。まぁどっちでも楽しいか。
「ま、日も暮れ始めたし……ここで一夜を過ごすよりは、拠点に帰った方が安全だとは思うけど。暗い中の帰り道はどうかな。マルメロはどう思う?」
聞けば、ライオン人の彼女はうーんと考えている。
「ご主人さまの残り体力次第ですが、せっかくキャンプ道具まで持ってきたので、ここらで夜を明かしてはどうでしょうかね? まぁ、抑えられる消費ではありますが」
俺は、隣のポイズンアントを見下ろす。
「そう……だね。せっかくだし、今日はこの辺でキャンプしようか。“闇のもの”ちゃん、帰還は明日だよ。ポイズンアント、キャンプの準備を手伝ってくれる?」
俺たちは、波の隣を歩き出す。着いたばかりの所に、比較的安全そうな、岩に囲まれた閉所があったはず。あそこにキャンプ道具を広げて、魔除けの加護を焚いて……。
戦闘は彼らに任せてばかりだったし、ドロップがレッドパールばかりになったので、得られた食料系素材は少ない。つまり、今日の夕飯は、持ち込んだ携帯食料ばかりになるが……。
まぁ、それもまたキャンプの醍醐味か。お腹が空いてれば何でも美味しく食べられるだろう。
砂浜の上に、三人の足跡が残っていく。それらは、すぐに波にさらわれて消えていくのだろう。
*
「“黒牛魔”の魔物カードですか? 現在の私には適応できませんね!」
と、マルメロの口からショッキングな事実が放たれる。
「え? ……じゃあ、あんなに頑張って手に入れたのに、俺たちが使えるものじゃなかったってこと?」
まぁ、苦労して手に入れたものだし、売れば、高く売れはするだろうけど……。
「それは違いますね。現在の私には適応できませんが、いつまでもそうとは限りません。えぇと……なんて説明すればいいんですかね。魂の器? 格? みたいなものが、現在の私に足りていないんです」
「それは……どうやって拡張するの? 確か、マルメロは成長しない、とか言ってたよね?」
聞けば、マルメロは答えてくれる。
「はい。私は成長しません。じゃあどうするかというと、外付けのレッドパールを装備して、私という存在を強化することが出来ます。一定のラインまで達すれば、今は使えない“黒牛魔”のカードも、私が使えるようになりますよ」
レッドパール……ここもレッドパールか。今までは何もなく装備できていたが、まぁそれらはその辺で手に入れられたカードたち。上に行けば、苦労も増えるということだろうか。
「まぁ長期的には、所有カードの合計、獲得カードの強さの累計で、強化なしでも強いカードが使えていきますよ」
長期的には。
レッドパール。ポイズンアント、ブルーバード、主力のマルメロ、あと俺の分……この“闇のもの”ちゃんも、戦闘に参加することになるだろうか? そもそも、ポイズンアントやブルーバードは普段の狩りから参加してるかな? あまり、育成するレッドパールを増やしすぎても、分散して……とか。まぁ、育成計画に関しては、また落ち着いた場所でマルメロと話すか。
これからはレベリングだなー。




