ー14
黒い瓦礫を避けつつ、砂の上に倒れた黒牛の巨人に近づき、写影機を構えてパチリと一枚撮る。無事、姿を写し取った魔物カードが、俺の手の平に排出される。
「それがカード器でござるか」
「そうですよ。見ます?」
俺はそれらをウラヤさんに手渡して、足の方からわしゃわしゃと歩いて来た、暗い緑色の大きなアリを迎える。
手前に二つに分かれた顎があり、つぶらな二つの目があり、触覚があるが、アリ表情診断の資格を持っていないので、今の彼女が何を考えているかは分からない。
俺はその頭に手を伸ばす。
「よく頑張ったね、ポイズンアント」
ぽんと、彼女は白煙を出して人間の形態へと変化する。彼女は少し俯き、俺は少し一の落ちた頭にそのまま手の平を落とす。
「あるじ様は……死ぬのが、怖くないのですか?」
ポイズンアントの女の子は、控えめにそう聞いてくる。
「怖くはあるよ。俺がもっと臆病だったら、町の中で、危険から離れて生活することを選んだかもね」
「早死に……しますよ」
俺は少女の言葉に返す言葉もなく、穴の開いた天井を見上げる。洞窟の頭上には、夕焼けの近づく茜色の空が見えている。
「私が出来る限りさせないつもり、ですけどね」
と、背後から砂の踏む足音が聞こえてきて、そばにライオン人ことマルメロの顔が見える。
「やぁ我が相棒。今回も、俺のことを存分に助けてくれたね」
ライオン人ことマルメロは、若干呆れたような目線をこちらに向けている。
「あまりに度を過ぎた危機が目の前にあった場合、次回からボイコットすることを検討していますよ」
彼女はそんなことを言う。
「と言っても、今回は、視界外からの突然の脅威だったし」
「見知らぬ他人を見捨てて逃げる勇気も、時には必要ですよ」
「俺は前進が好きだからね。苦難には立ち向かうものさ」
はぁ、と、マルメロはなにか諦めたように息を吐く。
「無理にこの人に付き合う必要はないですよ、ポイズンアントさん。あなたが町で過ごしたり、あるいは、町の外で平和に食糧なんかを追っかけていたりする事が好きなのなら、あなたはそれが許されるし、この人は気にしない」
マルメロがポイズンアントにそう言えば、ポイズンアントの視線は、俺へと戻ってくる。
「今回の冒険は楽しかった? ポイズンアント」
「……はい」
「じゃあ、また冒険しよう、ポイズンアント」
「ちょっとー」と、離れた場所から声がする。振り返ってみれば、金色の餅を片手で掴み、砂の地面にずりずりとこすりつけながらこちらに歩いてくる、サラマンダーの姿がある。
「終わったならこれ、取りに来なさいよ!」
そんな運び方したら恨まれるんじゃないかな。彼女はそれを持ち上げ、ひょいと放り投げる。狙いは外れず、俺の頭の上に飛んできて、俺はそれを両手で受け止める。
「せんきゅー、サラちゃん」
「誰がサラちゃんよ」
ふん、と彼女は不服気にそっぽを向く。
「そう言えば、どうするんですか? それ。持って帰るんですか?」
「確かに。ウラヤさーん! これ、自分の方でどうにかしても大丈夫そうですかー?」
彼は熱心に黄色の写影機を見ていたようだが、俺の声に、こちらを見る。
「持ち帰る気なら、責任をもって面倒を見るでござるよ」
俺は、物言わぬ金色の餅を見上げる。
「だってさ。俺と一緒に、俺の住処まで帰る?」
金色の餅は、細かくぷるぷると震えている。
「トリジ殿。貴重なものを見せて貰って、感謝するでござる。しかし、何も分からなかったでござる」
と、ウラヤさんが歩いてきて、写影機とカードを返してくる。
「あ、俺も同じですよー。いつの間にか手元にあって、雰囲気でそのまま使ってまして」
「しかし、写影機を使えるというのは羨ましいでござるな。まぁ、セットとなる精霊の素体も、わしは持っていないのでござるが」
確かに、見渡してみれば希少な能力だ。二体目の精霊のゲット手段とかあったりするのだろうか。




