ー11 でかいの
壁をぶち破って、巨大な黒い何かが現れた。それは一つの小屋さえ壊せそうな巨体。
いったん返して!
頭の上からにゅるんと金色の餅が出てくる。降りるでもなく、俺の頭の上に張り付いたままだ。
「ウラヤさーん!! 戻って来てー! 出番ですよー!」
来た方の洞窟の先から、水色の羽織りの彼が姿を現した。
「これはまた、大層なものが出てきたでござるな」
すぐそこで見ていたのか。あるいは成り行きを見守っていたのかも。
「あんたは!? あんたは見たの!?」
サラマンダーが今聞いている。
「わしは年上っぽい体にしか興味ないでござる」
「見たのね!? 後で潰す!」
「じゃあ見てない」
彼は、砂の上をたったと走って、さっきそっちに投げ捨てた、木編みの笠を拾って背中に付けた。
「ねぇ、君はあのデカブツの体を奪えない?」
俺は、頭の上に話しかける。俺の頭上で、金色の餅はプルプルと震えている。無理そう。
「ウラヤさん! どうしましょうあれ!」
「こんな閉所だと、ケガする可能性があるでござるな」
ここは、洞窟の中ではいったん膨らんだ空洞の砂の広場。一応広くはあるが、壁があり、少し走れば突き当たる。
この中で一番強いのはウラヤさんだ。彼がそんなことを言っているのなら、いったん、ここよりも開けた所を目指す必要がある。つまり、
「逃げよう!」
俺たちは背後の洞窟の穴を目指し、一目散に駆けていく。後ろから、砂を撒きつつ、巨体が追ってくるのが見える。
俺たちは次々と、広場の入り口の穴へと飛び込み入っていく。入り口の穴は人が二-三人通れる程度で、後ろから迫る黒い巨体の体は通らない。
最後にサラマンダーが細い穴の中に入って、全員がこちらに来た。巨体はそのままこっちに走って来て。
穴に突っ込んできた。ガン、ガンとその体をぶつける。肩幅の広い、四足の獣。手足や胴は細いが、その細さで凄まじい膂力を出している分、恐ろしさが強まる。
ぶつかり続けていれば……その穴は広がり、崩れそうだった。
「あれがアラカミですか!」
「違うでござる」
確か、途中にもっと壁がなく開けた空間があったはず。
そこまでは少し距離がある。道中の魔物は今しがた間引いていた所だ、途中での接敵は可能性が低いはず。普通に走っていれば、あちらの方が足が速く、追いつかれるだろうが、途中に狭い穴が何度かある。
ごりごりと壁を削って、背後から黒く巨大な化け物が追ってくる。四つ足で這い回る、肩の辺りにふさふさの毛が生えた、頭に縞模様のシャープな角を生やした化け物。
と、走っていると、頭の上から侵食する気配がある。なに? 再び俺の髪先が金色に変わり、そして体を乗っ取られる。
走りのフォームが変わった。手のひらをピンとまっすぐに伸ばし、たったったと、警戒に暗い砂の上を走っていく。団子で走っていたみんなを抜き去り、俺は先頭へと躍り出る。走るのうまい。
「ちょっと! そいつも脱がしなさいよ!」
やってる場合じゃないでしょ!
俺たちは開けた空間に出てきた。背後には固まった壁があり、俺たちは底の穴化から出てきて、それ以外は遠くまで壁のない開けた場所。さほど高くない天井は、俺たちの頭上を覆って地面と平行に広がっている。
俺たちはいまだ砂の上を走り続け、彼だけが一人、そこで立ち止まって振り返る。俺の体から金色の気配が抜けていき、俺はそのまま地面の上にばたりと倒れる。
「ちょっと! まだ安全じゃないわよ!」
「俺じゃないやつが……無理して走らせて……」
心臓がバクバクと治まらない。
「ご主人さま、立ち止まるよりも、歩き続けていた方が呼吸が楽ですよ」
背後で、派手な破砕音が聞こえる。
黒い岩の破片をまき散らし、同じく黒い巨大な獣が煙の向こうから姿を現す。
「少し手ごわそうな相手でござるが……何。あいにくと、こんな所で、負けていられる身の上ではないのでな」
水色の羽織りの彼は、笠を脱ぎ捨て刀を抜く。くるくると綺麗に回転しながら笠が飛んでいき、向こうの砂の上で、銀色の輝きがてらりと光る。
そいつは、水牛をヒト型にしたような化け物だった。手足が細く、低い天井がなければ立ち上がっていたとしても不思議ではないような体格。豊富な肩の毛の上で、獰猛な目つきがこちらを見つめている。
「ちょっとトリジ、あいつには“対話”を試みないの?」
「暴力的なヒトはちょっと」
加勢は……必要だろうか。ウラヤさんは一人、あちらの、体格では何倍も差がある化け物と一人で対峙している。俺は論外として……マルメロは足手まとい、サラマンダーの炎なら有効打が入るだろうか? あんまりサラマンダーに頼りすぎるのもあれだろうが。
そして交戦が始まる。




