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暗がりの洞窟の中、黒い岩が点々と置かれた、砂の広場の空洞。
すぐそこに一人の女の子が佇んでいる。影はどの方向にも伸びていない。
金色の餅が、サラマンダーの頭の中に沈み込んでいく。彼女の燃えるような鮮やかなオレンジ色の髪が……まばゆい、白に近い金色に染まっていく。
次に、サラマンダーが顔を上げ、その目を開いた時には。
瞳の中に、金色に輝く、十字の光が浮かんでいる。
彼女(?)は、自分の手を顔の下まで持ち上げ、それをひっくり返したり、ぐっぱーと開いたり閉じたりしながら何かを確かめている。
そして、こちらを見た。星の光と目が合う。
「見てください!」
そう言って、彼女は胸元の、溶岩のような、肌を覆っていた装甲を掴み。それ掴めたんだ。
ばっと、両側に開いた。
俺たちの前に、彼女の素肌が晒される。日焼けとかではなくて、脱いだ服の下も、暗い肌の色は同じだった。先っちょは薄い桜色。
おー。
ばちっと、何かが千切れたような音がした。急速に、彼女の髪の色が元の色に戻っていき、べにゃっと彼女の頭の上に金色の餅が排出される。サラマンダーはそれを片手で掴み、その辺の砂の上に思いっきり投げ飛ばす。
「ぶっころしてやるわこのゴミモチ!」
「サラマンダー! 無事!?」
「ぶ……ほかに言うことはないの!?」
「え!? ほかに!?」
「あ、あたしの見たんだから、もっと取り乱したりとか……」
彼女は慌てて片手で胸元の服を直している。
「……なんでもないわよ! 私が戦うのに邪魔だから、あんたらも引いて!」
「おっけー! マルメロ! ポイズンアント! 俺たちはいったん引くよ!」
振り返って二人を見れば、薄暗くて顔を確認しづらいが、マルメロもポイズンアントも、呆けたようにそこで立ち尽くしている。
「ど、どうしたの二人とも!?」
「……あぁ、いや、その」
「……わ、私はその」
聞けば、二人とも、もごもごと何かを言って目を伏せる。こっちには刺激が強すぎたか。サラマンダーが、こちらをちらと確認する。
「そっちの二人の方がよっぽど効いてるじゃない! もういいから、その子ら連れてあっち行って!」
「サラマンダーは一人で大丈夫!?」
金色の餅は、その粘性の高い不定形な姿のわりに、かなり俊敏なようだ。べちゃ、ぼちゃと、素早く視界を横切ってはあらぬ地面や天井にくっ付いている。
もう一度、金色の餅がサラマンダーに飛び掛かり、サラマンダーが体をくるりと回し、その背中の尻尾が飛び掛かってきた餅の体を捉え、薙ぎ払った。餅は体に砂を巻き込みながら地面を転がる。
「ちなみにそれ、倒さないといけないやつ!?」
「死に値するわ! 同罪であんたも後で潰す!」
「みんな! 今のうちに逃げるよ!」
と、ひゅっ、ひゅっと、金色の餅は俺たちの周りを、素早く移動して。
「ポイズンアント」
俺は、ポイズンアントの腕を掴んで引き寄せ、俺の体の後ろに回す。
金色の餅は、俺たちの退路を断つように、俺たちの後ろの、来た洞窟の穴の前をふさぐようにそこで佇んでいる。
「しまった! 挟まれた!」
「あたしは後にしてあげるわよ!」
「逃げ道をふさがれた!」
暗い洞窟の中、砂と岩の広場。俺たちの視線の先に、俺たちの退路を塞ぐように、一匹の金色の魔物がそこに鎮座している。
仕掛けてこないな。……。
「今のところ……攻撃とかじゃなく、体を乗っ取ろうとしてるだけだし。実は安全なんじゃないの?」
「じゃあ、あんたがその体を差し出しなさいよ!」
「確かに」
俺が砂の上を歩きだそうとすると、後ろから、がしと腕を掴まれる。
「ご、ご主人さま! 危ないですよ!」
「実は、そんなに危ない子じゃ、ないんじゃない?」
「脱ぎたいんですか!?」
「違いますよ」
「じゃあなんで!」
俺は、うーんと少し考える。
「ほら、お風呂入るのとか、少し面倒じゃん? 俺の体を操作するのが複数居るっていうのも、そんなに悪くないことじゃない?」
「私なら面倒な方を相手に押し付けますよ!」
「まぁまぁ、いったんね。いったん対話を試みてみよう」
俺がマルメロと目を合わせてそう言うと、彼女の腕の力は、少し弱まる。
「ご主人さまがそう言うのなら。……気を付けて、くださいね」
「うん」
と、背中から、もう一つ声が降ってくる。
「ちょっと! 何しようとしてるの!?」
「まー、そこで見ててー」
俺は、そちらの金色の餅へと歩いていく。ぷるぷると、金色の餅は、砂の上で静かに震えている。
俺がその子の前で立ち止まり、屈みこむ間も、金色の餅は地面の上で静かにしていた。
俺は、片腕をその子に差し出す。
「君は、君の体が欲しいのかい?」
おそらく、その状態では喋れないのだろう。金色の餅は、俺が呼び掛けても、ただそこで震えたままでいる。
「俺と一緒に来るかい? たまになら、俺の体でいいなら貸してあげるよ」
こちらの言葉は通じているのだろうか。金色の餅は、やはり、細かくプルプルと震えながら、ただ砂の上に落ちたままでいる。
と、少し動いた。粘性のある金色の体が、少し突き出て、その先っちょが俺の差し出した腕へと近づいてくる。後ろで息をのむ音が聞こえる。
俺の腕に、ひんやりとした、金色の餅のねばねばした体が触れた。そいつは俺の腕を掴み、這い上がる。少し重いか。俺は腕を引っ張られながら持ちこたえ、そいつは俺の差し出した右腕を上って、肩へと近づいてくる。
やっぱり、頭じゃないといけないのだろうか。顔を覆われるのは少し怖いな。金色の餅はゆっくりと俺の体を移動して、そして、俺の視界の下から、薄い、金色の膜が広がり、すべてが覆われていく。
顔や頭に金色の餅が触れて、そして体の中に染み込んでくる。おぉ、体の主導権が奪われた。俺の体がひとりでに立ち上がり、背後を向いた。そちらには、驚愕、懐疑、あるいは恐れを帯びたそれぞれの表情が、俺の方を向いている。
「私のこと、なんかより」
俺の声で、別の誰かが喋っている。
「洞窟の奥で眠っていた、でかい化け物の方を、気にした方がいいですよ!」
ばっと、向こうでサラマンダーが洞窟の奥を振り向いた。
同時に。
けたたましい音を立てて、奥の黒い壁が破砕される。




