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「また何か、来たでござるな」
ウラヤさんが立ち止まり、ぞろぞろとした一行の足跡もやむ。
俺たちは暗い、砂の敷かれた黒い岩の洞窟の中を歩いている。洞窟は穴だらけであり、道はあっちこっちに続いていく。
立ち止まって見ていれば、洞窟の奥から、何やらふわふわと、何かがこっちへ来ている。
それは浮かぶ白い……透けた、透明な大きな塊。クラゲのようにも見え、下を向いた袋が、ふわりと浮かび、落ちてしぼみ、またふわと広がっては、こちらへと進んでくる。なんというかこう……実体感がない。驚くほど軽そうなのに……そうだ、風になびいていないのだ。
「サラマンダー殿。あちらのお相手を、お願いしてよろしいでござるか?」
と、ウラヤさんがこちらのサラマンダーに呼びかける。
「ふん。別に、あんたのことを助ける縁もないけど、まぁ暇だから戦ってあげる」
そう言って、溶岩の衣を身にまとった、暗い肌の少女が歩いていく。長く鋭いしっぽが少女の後ろで揺れている。
「クラゲ、苦手なんですかー?」
あっちを鋭く見つめるウラヤさんに近づいて、問いかける。彼はたははと笑う。
「苦手……まぁ、そうでござるな。ああいう手合いには、わしの刀のような、物理的な手段が通じないのでござるよ。まぁ、対抗策を用意していなくも、ないのでござるが……限りがあるので、出来れば温存したい所でござる」
あちらに向かったサラマンダーは、手元に、強力に輝く小さな炎の玉を浮かべている。
「死になさい!」
「炎が効くってことは……じゃあマルメロでも行けるかな?」
「それはちょっとした勘違いですね、ご主人さま」
と、マルメロことライオン人が、俺の隣に顔を出す。
「勘違い?」
「私の現在の体である魔物カード“ファイアライオン”は、“原生種”と呼ばれる、自然的な種族に分類されるものです。対して、あちらのサラマンダーさんは“幻霊”」
暗い中、少女は手と瞳にらんらんと光る炎を宿し、あちらに浮かぶ、くらげだったものを虐めている。くらげ、だと思えばクリオネ、シャチにイルカと、でかい透明な塊は、宙をはためく度に、その姿を変えている。
「幻霊は本来、不定形な、力だけの塊のような存在。彼女の操る炎は自然を逸する、捉えどころのない、超常の炎。あちらのクラゲも、おそらくは幻霊タイプでしょう。だから、私の炎は効かず、彼女の炎だけがあれに効くんです」
と、白いクラゲから何かがあふれ出す。白い煙のような、蒸気のような……白い煙は黒い岩の天井に当たれば、そこに白い霜を生やしだす。あれは冷気?
「ってことは……俺たちだけだと、対抗手段がなかったってこと?」
「そうなりますね。まぁ、多くの幻霊もまた、住む場所が限られます。はぐれの個体に出会っても、逃げたらいいですし、見えてない幻霊にさほどおびえる必要はないですね」
すぐそこで、広がる冷気と苛烈な炎がまじりあい、お互いを削りあう。戦いは、サラマンダーが優勢に見える。
「サラマンダー……も、幻霊、でしょ? なら、マルメロが、触れも攻撃も出来ないんじゃないの?」
「どうでしょうね。あのサラマンダーさんは、私が触れるし攻撃も通じると思いますけど。もしかしたら攻撃を続けていれば、変身が解け、あるいは実体のない体に変わるかもしれません」
ふーん、じゃあサラマンダーは、ブルーバードが持つ“人化”みたいなスキルで、今の体に変身してるってことなのかな。幻霊だし、“実体化”みたいな、別のスキルかもしれないが。
ひときわ強い炎が、また洞窟を薙ぎ払う。ふしゅ、と、あちらに浮かんだ透明なクラゲの体に穴が開き、ふしゅふしゅと、そいつは穴が開いて空気が抜けるようにしぼんでいく。その体はどんどんしぼんでいき……小さくなり、薄れ、やがて消えていった。
「え? あれ、死んじゃった?」
「まだそこに居ますよ。見えなくなっただけです。力が回復すればまた、見えるようになって、動き出してどこかに行くでしょう」
地面に、氷が溶けて水だけを残すように、砂の上にいくつかのきらめきが落ちている。今の、倒した相手のドロップアイテムだろう。
「おつかれ、サラマンダー! 相変わらず、すごい炎だね!」
「雑魚は、”これくらい”のことで驚いて、いちいち大変ね」
と、澄ました顔の彼女が帰ってくる。もしかして、サラマンダーはまだまだ本気を出していないのだろうか。
「確かに。これくらいか」
「しばくわよ」




