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洞窟の奥から現れたのは、地面を這った四つ足の、トカゲみたいな、しかし頭はサイみたいな、ピンク色の肌のでかい化け物。
わしに任せろとの言葉を信じ、俺はウラヤさんの背中を見送る。
彼は手元の刀の鍔に手をかけ、すっと刀身を引き抜く。暗闇の中でも、滑らかに白い光を返す鋭利な一本の刀。
彼は音もなく刀を抜き去り、両手で握って、その刃を正面に向ける。
向こうのピンクの化け物は、そろそろと、ウラヤさんの様子を注意ぶかく見つめながら、地面すれすれを移動している。
洞窟の中を風が吹いている。彼の顔に掛かる細い髪が、風を受けて揺れている。
爆弾銃でも売って、無理やり動かして仕掛けさせた方がいいだろうか? でも、まぁ任せろって言われたしな。
化け物は地を這い、彼を中心の弧を描きながら、地面を移動している。彼は静かに刀を構えたまま、その動きを目で追っている。
来る。
突如、地面から砂埃を巻き上げ、ピンクの化け物の姿が消え去った。離れたところから見ていれば、地を蹴り、彼我の間を一瞬で詰める、彼に飛び掛かる大きな化け物の姿が見えている。
彼は流れるように動いて、それから、そちらで白い反射光がひらめいた。正直、何が起こっているのか分からなかった。ただ、飛び掛かった化け物の巨体の横を、彼の体が通り抜けて、それから、化け物が受け身も取らず砂の上に落ちていく。
彼は動かず、落ちた魔物もまた動かない。ただ、洞窟を通り抜ける風がひゅうひゅうと音を鳴らしている。
「超過ダメージですね」
隣で、マルメロが何やら言い出す。
「超過ダメージ?」
俺が聞き返すと、マルメロが語りだす。
「魔物には、活動限界に陥るまでの体力があるのですが、例えば体力を100として、それに300や500のダメージを与えた時。弱体状態や素材のドロップに入る前に、ああやって、昏倒して動かなくなることがあります」
ピンクの四つ足の化け物は、地面に落ちたままピクリとも動かない。
「おや。やり過ぎてしまったでござるか」
チン、と、音が聞こえる。見れば、彼は刀を鞘に戻していた。歩いて、壁際に投げた被る笠を拾い、付いた砂を払っている。
「え!? もう倒したんですか!?」
倒れた魔物を見ていれば、そのうち肌の上に、白い霜のようなものが現れ、広がり始める。
「あれ……死んじゃう?」
「魔物は死にませんよ。ただ、過剰に受けたダメージに、自己修復に手間が掛かるだけです」
「なかなか、塩梅が難しいでござるな」
ウラヤさんが砂の上を歩いて、倒れた魔物の隣に屈み、それを突いている。魔物の体は全身が凍ったように、動かず全体が揺れる。
「ねぇサラマンダー。もしかして、ウラヤさんって、めちゃくちゃ強いんじゃない?」
俺が、隣の溶岩肌の女の子に話しかければ、彼女は呆れたような目を俺に向けてくる。
「何やら、妙な気配を感じるでござるな」
暗い砂の上を歩いていれば、ふとウラヤさんが立ち止まり、そんなことを言い出す。
「お噂の、アラカミとやらですか?」
聞き返せば、彼は苦笑するように目を細める。
「だとすればいいのでござるが……あいにくと、アラカミはそんな生半可な存在ではござらんよ」
「“闇のもの”でもいるんじゃないかしら。ここ暗いし」
と、隣からサラマンダーが言ってくる。
「闇のものって?」
「あんた、何も知らないわけ?」
「美味しいお弁当屋さんなら知ってたよ」
「美味しいお弁当屋さんは気になるでござるが……“闇のもの”というのは、この世界に存在する種族の一つでござるな」
ウラヤさんが話を戻した。
“種族”。俺たちが滞在している[木々の町]には、それこそいろんな見た目の住民たちが居たが、それとはまた別枠なのだろうか。
「“闇のもの”……確かに、言われてみれば、そんな感じの気配が、するでござる」
気配ってどうやって感じ取るんだろう。俺は、彼にならって洞窟の奥を見つめる。そこには砂と、大地に覆いかぶさった暗い岩盤があるだけで、空洞は奥の暗がりへと続いていくが、俺にはそこに何も見いだせなかった。
「通りがかったついで、ちょっと潰していくでござるか」
「“闇のもの”は、まぁ暗い水たまりみたいな奴らよ。面倒なのは、人でも魔物でも襲って憑りついちゃうところなの。奴らの住む場所は大体決まっているけど、たまにこうやって、暗い場所の奥に潜んでいたりするから、近づくときは注意するのよ。わかった?」
俺たちは、暗い洞窟の中をさらに奥へ。波の音はもはや遠く聞こえない。天井の穴も少なくなり、もはや付いて来てくれるのは潮くさい風のみだ。
「教えてくれてありがとー、サラマンダー」
「ふん。別に、ついでよ」
「私も知ってましたけどね」
マルメロが謎に張り合ってくる。
「ポイズンアントはー? “闇のもの”って知ってたー?」
俺は歩調を緩め、最後尾を歩いていた黒髪の少女の隣に着く。
「はい……知識として」
「こわくない? こわいなら、魔物シェルの中にこもっててもいいよ?」
先ほどから出番もなく、ポイズンアントは静かに行程に付いて来ている。
「いえ……魔物が怖いわけではないので」
「そう?」
ぽんぽんと頭を撫でると、ポイズンアントは不思議そうにこちらを見つめている。




