ー6
「シャンパンタワー式ドロップシステム、っていうのがあるんですよ」
俺たちは、ウラヤさんを筆頭に、穴あきの暗い洞窟の中を歩いていく。海の音から離れて進むほど、頭上の穴は少なく、洞窟の中は暗くなっていく。
俺の隣には復帰したマルメロが並び、何やら知識を披露してくれる。
「モンスタードロップには、いくつかのシステムが組み合わされているんですけど、その中の一つに“CT式ドロップシステム”っていうのがあってですね。“シャンパンタワー”って、分かりますか? ご主人さま」
俺は首をかしげて、ライオン人ことマルメロの顔を見返す。
「簡単に言うと、ピラミッド状に積み上げたグラスのことですね」
「楽しそうだね!」
「低い層ほど、たくさんのグラスが並んでいますよね? で、高い層になるほど、同じ階にあるグラスの数が少ない。この、“下の階のグラスを低レアドロップ”、“上の階のグラスを高レアドロップ”として、その中から抽選でいくつかのグラスを選び、選ばれたものがドロップする。そうすると、低レアほどよくドロップして、高レアほど少なくドロップする」
今の一行には、ポイズンアントやウラヤさん、サラマンダーも加わり、少し大所帯だ。彼らは話すことなく、あるいは俺たちの会話を聞いている。
「で、このCT式ドロップシステムっていうのは、持っているアイテムのグラスが埋まることなんですよ」
「埋まる?」
「そう。そして、埋まると、そのアイテムがドロップしづらくなる。埋まったグラスに液体を注げばあふれ、他のグラスに液体が落ちていく。だから“シャンパンタワー式ドロップシステム”と呼んでいます」
シャンパンタワー式ドロップシステム。最初から高レアが落ちるわけではないから、この例えでは、一番上から注いでいるわけではなさそう。
「このシステムを活用すると、例えば、特定の魔物の低レアの素材を大量に所持していれば、その魔物の高レアアイテムをドロップしやすくなる。あるいは、低レアの素材を大量に集めたい場合、高レアのアイテムを先に獲得しておくと上手く集めやすい、そんな感じです」
ふーん。それは、知っているか知らないかで、得られる成果が大分変わってくるシステムなのだが。
「なんで、今までそれを教えてくれてなかったの?」
「聞かれなかったからです」
いや……まぁ、今まで時点で、そんな特定の魔物を集中して狩り続けることも無かった……ゼリースーツ製作の時に、フルーツゼリー狩りをした時くらいか。そう言えば、あの時も、途中から透明なカードがドロップしやすくなっていた……気もする。
「マルメロをひっくり返して振ってみたら、別の有用な知識が出てくるかい?」
「出ません。まぁドロップの仕様は複雑で、それだけ覚えておけばいいってものでもないです」
シャンパンタワー式ドロップシステムか……覚えておこう。
「しかし、じゃあなんで、今になって突然それを教えてくれたの?」
「それは、今現在同行中の、サラマンダーさんが所持している“レッドパール”に関係してきます」
話題に上がって、サラマンダーがこちらを見てくる。
「この“レッドパール”というのは、ドロップシステムに、特殊に干渉してきまして。まずこの“レッドパール”を装備している状態で戦うと、相手のドロップがほとんど“レッドパール”となってしまいます。今言ったシャンパンタワーの“素材枠のグラス”を、片端から埋めてしまうというわけです」
へぇ?
「じゃあ、一個持ってたら、核が集め放題じゃん」
「そうですね。まぁ、弱い魔物から落ちるレッドパールは、小さいし、等級も低いので。売却、あるいはたくさん集めて合成して高い等級のレッドパールを作る、などに使うことになります。魔物素材が集められなくなる弊害はありますが、売却額自体はそんなに変わってこないはず、です」
ふーん。確か、レッドパールを持った状態で魔物を倒すと、経験値が核に貯まり、貯まった分だけ装備者の強さを補強できる、そんな感じだった気がする。だから、核を付けっぱで経験値を集めようとすると、核だけが落ちて魔物専用の素材が落ちない。
魔物素材の使用先は、売却して日々の日銭を稼ぐほかに、装備、スキルカード、衣装卵などがある。脳死で付けっぱなしに、あるいは強さをレッドパールに頼りすぎたりすると、ほかの強化要素を利用できなくなるわけだ。まぁ、核をお金に換えて素材を買うという手もあるだろうが、おそらく非効率だろう。
「魔物の強さに対して、レッドパールの等級が高いほど、シャンパンタワーの占有率……つまり、レッドパールだけが落ちる確率は高くなっていきます」
俺は、同行する溶岩服の少女の方を振り返る。
「サラマンダー!」
「……なによ」
暗い肌、鮮やかなオレンジ髪の女の子は、怪訝な目でこちらを見ている。
「君はこう……素敵な存在だよね! 髪は綺麗で、肌も綺麗だし……そう、優しいし! キラキラしてて、あと焦げた良い匂いもする!」
「要求があるなら、率直に伝えてくれる? ……“焦げてる”は褒めてる?」
サラマンダーは呆れたような目でこちらを見ている。
「俺の仲間の分の、レッドパールが欲しかった所なんだ。種となるものをいくつかね。君のものをもう奪おうとも思わないから、道中で得た魔物のドロップから――」
と、丁寧に言っていればサラマンダーが俺の言葉の上から割り込む。
「別に、あんたらが倒した魔物のドロップを、横から奪おうなんて思わないわよ」
「ありがとう! 優しい!」
と、それから、俺は先頭を歩くウラヤさんに目を向ける。
「ウラヤさん。うちのサラマンダーちゃんがレッドパールを持ってて、それがモンスタードロップに影響してくるみたいなんですけど……このまま同行させても、大丈夫そうですか?」
暗がりの中、砂の上を歩く、笠を被り、水色の羽織を着た男性。彼はこちらを振り返り、やはり柔和な笑みを浮かべている。
「わしは、特に気にしないでござるよ」
「ありがとうございます!」
「“あんたの”じゃない」
「それより、そろそろ雑談はこのくらいにして……」
と、ウラヤさんは、腰元の武器に手を掛けながら、立ち止まる。
「戦いの時間でござるよ」
洞窟の暗がりの奥から、のそのそと大きな影が這い出てくる。波打ち際に近い場所で見ていたものより……魔物が、ひときわ強そうだ。あるいは、こっちは“ダンジョンの奥”なのかもしれない。
ウラヤさんが、腰の鞘から武器を抜いた。それは、緩やかに湾曲した、細長い片刃の剣。刀という分類の武器だ。
ウラヤさんは笠を脱いで投げ捨て、刀を構える。小麦色の笠はくるくると綺麗に飛んでいく。
「まずは、このわしに任せてみるぜよ」
「はい!」
ウラヤさんは俺たちの先頭に立っている。後方で、俺、サラマンダー、マルメロ、ポイズンアントが控えている。
洞窟は天井の穴が少なく、どこか薄暗い。地面は相変わらず砂、壁と天井は黒い岩の、洞窟の中。
向こうで青年が刀を構え、一匹の魔物と対峙する。




