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俺たちは少し離れた岩の陰から、向かい合った二人の様子を見守る。
穴あきの黒い洞窟の中。天井にもぽつぽつと大きな丸い穴が開き、同じ形の日向が、砂の地面の上に明るく出来ている。洞窟の中を海風が吹き抜けていく。すぐそばで、波の押し寄せる音がしている。
「どっからでも掛かって来ていいわよ」
向こうに、すらっとした体型の女の子が一人立っている。暗い色合いの肌、裸の上に、固まりかけの溶岩のような装甲を身にまとい、頭には二本のまっすぐな角が生え、背中には、シュルシュルと揺れ動く、細く鋭いしっぽが生えている。
対して、手前側に、クリーム色の体毛のライオンの獣人。鋭い爪、口の端から、高い温度の呼気が漏れ出している。
ライオン人は、低く体を屈め―
砂の上を、一気に飛び出した!
マルメロは、四足の獣のように両手両足を地面に付き、砂をかき上げ駆けていく!
対して、サラマンダーの彼女は、対して身構えることなく、少し体を屈める。
マルメロが一直線に走り抜け、二者はもう接触する!
避けられた。
マルメロは両腕を広げ、抱き着き、押し倒すように彼女の体へと突撃した。しかし、サラマンダーはひらりと身をかわし、マルメロの背中に手を付いて、するりと上から抜ける。
マルメロは標的を失ったまま、たたらを踏んで砂の上を走っていく。一度転んで、それから止まって振り向きサラマンダーの方を向く。
「ほら、どうしたの?」
サラマンダーはマルメロを見つめ、不敵に挑発する。マルメロは乗らず、静かに警戒の目を向けている。
マルメロの手に、白い光が収束する。手の甲を覆って伸びていくように、白い光で出来た三本の長い爪が、マルメロの手の平に着いた。あれはスキル“強化爪”。
「そのおもちゃで、あたしと遊びたいの?」
マルメロの体が勢いよく飛び出す。腕の片方を振り上げ、振り上げた白く長い爪を、そのままサラマンダーへと叩き付ける。
そして、サラマンダーの体がくるりと回る。サラマンダーの背中の細く長いしっぽが、マルメロの手首を打ち、マルメロの攻撃はいとも簡単に払われた。
苦し紛れに、マルメロは息を吸い胸を膨らませ、口から炎の息を吐きだす! サラマンダーはしかし、それを避けもしない。
「ぬるいわ」
「……」
「炎ってのはね……こう扱うのよ!」
サラマンダーが、片手を掲げ、口の前に人差し指を立てて添える。
「マルメロ!!」
刹那、サラマンダーが息を吸い込む、鋭い呼気が聞こえた。
「“ファイア・ブレス”!」
マルメロの息は、風船を膨らませるような小さな吐息。
そして、サラマンダーが放ったそのブレスは。
赤く業火の光を発し、砂を舐め、天井を這い、空洞を満たすように広がり、端で渦巻きながら進んでいく。マルメロの体はその炎の濁流の、中にある。
黒く表面が焦げた体が倒れた、ぼろぼろと体が崩れて溶けていく。中から、黄緑色の火の玉と、それからカードが飛び出し、カードは空中をくるくると回転しながら俺の元へと飛んでくる。
俺はそれを手に取り、あちらのサラマンダーはカードの行方を目で追って、自然とこちらに目を向けている。
「負けたみたいだねー。マルメロ、お疲れ」
ふわふわと、光の玉が頼りなさげに揺れながら、空を飛んで俺の元へと戻ってくる。
「手下が一人居なくなったというのに、またずいぶんと気の抜けた顔。それとも、次はそっちの魔物が、あたしの前に立ちはだかる?」
サラマンダーが、ちらりと俺の隣の少女を見た。
「降参するよ。もう戦う手段がない」
爆弾銃は、最近はマルメロやブルーバードが強く、マルメロに比べると見劣りするので、地形破壊くらいにしか使っていない。
“グリーンメテオ”という、強力な切り札のスキルカードを持っている。使えば三日ほどのクールダウンが必要で、しかし威力はそれ相応に高く、大体マルメロ三十個分くらいの威力がある。切れば、いや当たれば、目の前の彼女すら倒せるかも。
しかし、あれは開所でしか使えず、また出現から墜落までタイムラグがあり、落とす場所は落とす前に指定するため、落ちてくるまでに相手が一か所に留まっていなければ当たらない。運よく当たった所で、まだ倒せるかも分からない。
じゃあ、もう無駄に抵抗はしない方が身のためかも。
「そう。でも、私には関係ない」
少女は素っ気なく返すが、戦闘が終わった途端、こちらに押しかけ俺を襲うといった素振りもない。
「おや、君は俺にひどいことをするかい?」
あっちの彼女は、この状況を持て余すかのように、何を言うでもなく、こちらの方の砂の地面を見つめている。
「暇なんでしょ? 君も。要は」
俺がそう語りかければ、彼女は何も言わない。俺はサラマンダーの方へと歩いていく。
「けれど、最近、自分を見つけて寄ってくるのは、“レッドパール”目当ての、怖い来客ばかり。望まない来訪者たちに、君は辟易していたところだ」
「あなたもその一人よ」
「厄介な来客を呼ぶお宝は……まぁ、負けた俺から提案することでもないか。そんな事より、俺も暇なんだ。おいしいお弁当がバッグの中にある。お墨付きだよ。一緒に食べない?」
じっと、懐疑的な目が、こちらを見ている。俺は、彼女の少し手前で立ち止まる。
「媚でも、売ってるつもり?」
「俺たちが要らないのなら、バッグの中から、それなりの戦利品を出して、俺たちだけここから立ち去ってもいい」
赤い、燃える炎を宝石にしたような、綺麗なオレンジ色の目。
「いいわ。あなたの提案、乗ってあげる」
と、サラマンダーの彼女は上の穴、そこから見える青空を見上げる。
「上の方が、景色がいいの。風も気持ちいい」
彼女は岩の上を指さした。確かに、外は明るくて気持ちが良さそうだ。
「海鳥なんかが、食べ物を狙わないかな?」
「その時は一品増やしてあげる」
ポイズンアントに手伝って貰って、俺は岩の洞窟の上に登ってきた。
そこには、広がる青空、片側には青い海。足元は黒い岩。見渡せば、そこかしこに穴があり、無警戒に歩いていれば落ちてしまうかも。
「あるじ様、落ちないように気を付けてください」
「落ちても砂の上だから大丈夫だよ。ポイズンアントも気を付けてね」
「おいしいお弁当はまだ?」
「ちょっと待ってね、今、みんなで座るシートを出すよ。マルメロ……は、まだしばらく火の玉か」
「私も手伝います」
「ありがとね、ポイズンアント。先に、シートが飛ばないよう重りを出そう」




