ー3 遭遇
「何か……気配が近づいてきます」
マルメロの警告に、俺たちは立ち止まる。暗い、そこかしこに穴の開いた黒い洞窟の中。足元は砂。耳を澄ましたなら、聞こえてくるのは、空洞を通り抜けるヒュロロとした風の音。それから波が岩を打ち付ける音。
俺たちの後ろにも、左手に続いていく洞窟の奥にも、前方にも、いまだその影は見えていない。右手には壁に穴が開き、明るい海と砂の水底が見えている。
音が聞こえてきたのは、上からだった。
穴だらけの洞窟は、天井にもたびたび穴が開いて、そこから外の光が丸く落ちてきている。そこに、影が入ってきた。
見上げれば、こちらを覗き込むその二つの目と、目が合った。
「あんたたち、だれ?」
輝くようなオレンジの髪、暗い肌色、赤く輝くような目。服、というよりは装甲だろうか。彼女は体に、溶けかけのマグマのような、黒と赤の入り混じった岩のようなものを肌の上からまとっている。
頭の後ろに二本のまっすぐな角があり、手のひらの指は、爪ごと一体化したような明るいオレンジ色の爪。少女は両手を穴の縁に置き、俺たちの上から上体を見せて、こちらを覗き込んでいる。
「君が、“海辺のサラマンダー”?」
俺がその呼び名を使えば、彼女はじわと眉をしかめる。アタリなようだ。捕らえるのが難しいと聞いていたので、数日は探し回ることを覚悟していたのだが。
「何よ、核ならあげないわ」
彼女はつんとした様子で言ってくる。声は上から降ってくる。
「君と戦って、勝ったとしても?」
「あたしを捕まえられると思ってる? この迷路で」
盲点だった。今までは、現れてくるモンスターは向かってきこそすれ、戦闘の途中で逃げ出すことなど……まぁ特有の魔物を除くと、居なかった。
「何か、譲ってくれる条件とか、ないかな?」
「あげないって言ってるでしょ」
「でも、ここまで来て、手ぶらで帰るというのも」
「あたしに関係ある事情じゃないわ」
俺は、地上に目を戻してそこに居るマルメロと目を合わせる。サラマンダーは天井の上に居て、あっちの素早さがどれくらいかは知らないが、あのサラマンダーにマルメロの手が届くには、小さくないタイムラグがある。まぁ逃げられるだろう。
「あなたたち、ソーシャなの?」
と、天井の上の覗き者は、俺たち三人を順に見渡しながら、そう問いかけてくる。
「そうだよ。俺たちが、ちまたで噂のソーシャだよ」
「ちまたも噂も知らないけど」
ふーん、とサラマンダーはこっちを興味深そうに見ている。
「俺たちソーシャにしか、出来ないことがあるんだっけ?」
「あたしに聞く?」
「こう……俺たちと一緒に居ると、面白いものが見られるかも?」
「なにも、具体的なことは言えないの?」
サラマンダーは特に強い意図もなく、俺たちを見下ろしている。
「あいにくと、他人と比べられるほど、ソーシャにも一般にも詳しくなくてねー」
サラマンダーは、身を乗り出して、穴の上から。
するりと降りてきた。褐色の肌を見せながら、その上から、溶岩のような鱗のようなものを身にまとっている。頭に、斜め後ろへと伸びる明るい二本の角。背中の後ろには、シュルシュルとした、細く、滑らかに動く長いしっぽ。
「ソーシャのくせに、ずいぶんのんき。無理やり襲って奪おうとは思わないの?」
サラマンダーは、そちらで腰に手を当てて、えらぶった様子で言ってくる。
「いやまぁ、やる時はやりますけど……」
今日はポイズンアントの目があるし、あまり手荒な真似は……まぁ居なかったとして、俺の行動がどれだけ変わったかは分からないけど。
「やりますか?」
隣でマルメロが言う。彼女は、鋭くサラマンダーを見ている。
「マルメロ、落ち着いてね」
「なんか弱そうだし、一戦くらい戦ってあげてもいいけど」
と、そちらのサラマンダーの女の子が言ってくる。
「マルメロ、やれそう?」
問いかければ、彼女から返事が返ってこない。マルメロを見れば、彼女はいつになく、目の前の相手を警戒しているようである。
「まぁ……せっかく付き合ってくれるっていうんなら……やっちゃおうか! 勝ったら、君の持ってるレッドパールは俺たちのね!」




