第十一話、精鋭攻略 海辺の洞窟
「この世界の存在には、外付けで“レッドパール”というのを付けられるのですよ」
ここは[木々の町]の食堂、ミツネ屋。
テーブルの反対側、俺の正面には、ライオンの獣人が座って麺を口にしている。日によってまちまちだが、今日はマルメロも一緒になってご飯を食べている。
横長のテーブル、体面に座るのはクリーム色の体毛をした、ライオンの獣人。机の上に乗った、琥珀色の出汁に浸った麺をすすって食べる。
「へー、その、“レッドパール”っていうのは?」
「“レッドパール”は、モンスターを倒したときに、経験値を得て貯める事の出来る不思議な石です。経験値を貯めた後の“レッドパール”を、特定の対象に装備すると、貯めている経験値に応じて対象の存在を強化できます。例えば、体が丈夫になったり力が強くなったり。出せるスキルが強くなったり」
ふーん。世界にはまだまだ俺の知らない要素が転がっている。俺は彼女が食べているのと同じものを、噛み切りやすい、角ばった麵をすすっていく。
「俺はまだ見たことないねー。それは、いったいどこで手に入るものなんだい?」
俺が聞けば、彼女は麵をすする手を止めながら答えてくれる。
「適当な狩り場で湧く、“精鋭”と呼ばれるモンスターを倒せば、そいつからドロップしますね。まぁ“レッドパール”にも等級があるんですが、まずは、手の届く相手を倒せばいいでしょう。“レッドパール”も、合成で強化し、貯めた経験値を引き継いでいくことが出来ますし」
ふーん。じゃあ適当な奴でもとりあえず手に入れればいいのか? 経験値を何にも貯められない今の期間がもったいないかも。
「今の[層樹林]に、その“精鋭”って奴らは居るかな?」
「どうでしょうね? 私は聞いてませんが……まぁ、ここら近隣の“精鋭”なら、商店のとこのアーシャさんが、何かしら知ってるんじゃないですかね?」
商店か。さて、いくらで教えてくれるかな。
「“精鋭”の情報か。まぁあるにはあるけどちょっと遠いぜ。あと、行くなら事前に申請出して行くことになるな。狩りに行く奴らが被るとトラブルになるし」
さすがは、何でも知ってる我らがアーシャちゃん。
カウンターを挟んで向こうで、褐色肌の少女がそう教えてくれる。
「まぁ、最初は何でもいいや。とりあえず一つ手に入れたいし、多少は手間が掛かっても行くつもりだよ。今は“レッドパール”ってのが欲しいんだけど、“精鋭”ってのは、その一体につき、核一個しか落ちないんだよね?」
ふーん、とアーシャはカウンターの向こうからこちらを見つめている。
「そっか。そうだな、一個しか落ちないというか、その“レッドパール”を一個拾った状態のモンスターが“精鋭”ってことだ。“精鋭”から核を取ったら一般魔物に戻る」
「なるほどねー……」
ということは。
「その過程は、平和的でない?」
「交渉して、くれそうなら、まぁ、試してみればいいんじゃないか? その強いやつに」
まぁ……良いものはなんにせよ握っておくよな。でも、言い方的に、必ずしもバトルで手に渡るものでもないのだろうか? まぁ勝てるなら武力が簡単そう。“簡単そう”で簡単にやっちゃっていいのか?
俺たちは強くならなければならない……とは言え、手段を選ばず強くなれという状況でも、今はない。ブドウドラゴンの時みたいに、相手を満足させれば勝ち、みたいな状況になってくれたら……なんてのは、甘い考えか。
俺は何であれ、それを貰いに行くのだ。とりあえず強めの戦力は備えていこう。
俺は引き続き、店内のアーシャに話しかける。
「一番近そうで、一番楽そうで……俺たちでも取りに行けそうな“精鋭”の情報、売ってくれない? その狩り独占権? みたいなのも含めてさ」
「別に、大した情報じゃないしな。精鋭って言うには、持ってる核の等級もそんなだし、それから面倒な案件だから、誰も取りにいかずに腐ってたんだ。タダでいいぜ。ついでに、これから精鋭の方向の情報も集めといてやるよ。狩りの申請も、うちで仲介して出来るぜ」
「ありがとう! アーシャ大好き!」
しらーっとした目が、商店の日陰の中から、こちらを見つめている。隣からも見られている。
「ってことで、その“精鋭”が出るエリアに遠征しに行こうと思うよー」
ここはダンジョン[層樹林]、その内部に設置している休憩洞窟。休憩洞窟には、今の手持ちの二匹のシェル魔物を登録しており、今は俺の前に座ってそれぞれ話を大人しく聞いてくれている。
「ふーん。ってことは、しばらくここら辺を空けるのね」
と、小さな赤角が頭に生えた、白髪、黒シャツの少女が俺に返す。
「そうだよー。ヴァンピちゃんも、一緒に来るかい?」
「いかない」
彼女はヴァンピ。木々の町の、ちょっとしたはぐれもの。彼女は俺の手持ちの魔物ではないのだが、いつか、休憩洞窟に入る時に出会い、そのまま中に入って、俺の仲間を紹介した。
それ以降、ちょくちょく休憩洞窟に現れているし、ほかのブルーバードやポイズンアントとも関わりを持っているようだ。
「んで、二人はどうする?」
俺は、俺を見上げる二つの顔に話しかける。
「わたしは別に。必要なら呼んで」
と、片側の、青いカッパを着た、栗色の髪の、頭の小さな少女。こっちがブルーバード。
「おっけー、ブルーバードは洞窟で待機ね。ポイズンアントはどうする?」
俺は洞窟の固い地面に座る、もう一人の少女に呼びかける。白いシャツに緑の吊りスカート、長いストレートの黒髪。こっちがポイズンアントだ。
ポイズンアントは、地面で体操座りをしたまま、おずおずと俺に向けて発言する。
「それは……私も、ご一緒させてもらっても、よろしいのでしょうか?」
「もちろん!」
「では、荷物持ちでも何でも、お引き受けします」
「心強いね!」
やる気はないがそこそこ強いブルーバード、そして、こっちのポイズンアントは魔物ではあるが戦闘は苦手。ポイズンアントは、連れていっても戦闘要員ではない。また、荷物を持ち運ぶにも魔法のポーチがあり、大量の素材の運搬も何のそのだ。
けれど、ポイズンアントは魔物特有の怪力がある。俺ではどうにもできない障害物をどかせたり、あるいはテントのような大型の荷物を楽々動かせたりとか。使い処はあるだろう。最近は料理の勉強もしているらしい。
ま、何にせよ使えようが使えなかろうが、この子が連れて行って欲しいというのなら俺は連れていくつもりだ。彼女の気質上、何らかの仕事を任せた方が安心するというだけで、俺は別に、ポイズンアントをこき使いたいわけじゃない。
「ってことは、今回の精鋭狩り遠征は、俺とマルメロとポイズンアントの三人。ブルーバードは洞窟で待機ねー」
俺は二人とマルメロの顔を見渡し、異論がないことを確かめる。
「それからー」
と、俺たちから少し離れてそっちに佇んでいる白髪の少女。
「ヴァンピちゃん」
「……なに?」
俺が改めて彼女の名を呼ぶと、ヴァンピは怪訝そうな目でこちらを見ている。
「俺に会いたかったら、空を飛んで来てもいいよ。何なら、呼べばこっちが飛んで帰って来ようか?」
「何言ってるの? 私とあなたはそんな仲じゃない」
あら冷たい。ヴァンピはまだ[木々の町]との仲は不穏な状態であり、この子のここら辺での立ち位置は微妙な状態だ。出来れば俺はそれを良き方向に持っていきたい。しばらくここを空けて、この子を放置していくのは不安だが……今のところ、彼女の中に問題を起こしそうな気配はない。
最初に会った以降、盗みも起こしていないようだし。いったん、大丈夫と割り切って行くしかないかな。今の俺の実力では、無理やりに彼女をどうこうみたいな手段も取れない。
俺の手持ちの魔物たちに言っておくべきことはこれくらいか。さて、遠征には何の道具が必要になるかな。
「遠出すんなら、こいつを使っていいぜ」
そう言って、商店の裏に用意されていたのは、てかてかした質感の駆体。上にまたがる二輪の乗り物。
「これは“パネルバイク”」
そう言って、アーシャはその乗り物に片手をかける。
「借りていいの?」
「利用料は貰うぜ」
それは、見た目は二輪の乗り物。しかし、車輪……のあるべき場所に車輪がなく、車輪の上半分のカバーはあるが、下半分の半月の空間が丸ごと欠けている。浮くんだろうか?
「こいつは、宙に浮いて速く走れるが、曲がる機能がなくてな。障害物の少ない平地、かつ直線距離を長い距離移動したいときにはお勧めだ。今回の目的地は遠いからな。地図の通りに、こいつで進んでいけばまぁ半日で行けるだろう」
「何から何まですまないねぇ」
免許とか要らないのかな。まぁ乗ってまっすぐ進むだけか。
「ま、にーちゃんも色々やってるみたいだからな。持ちつ持たれつだ」
俺は、バイクの隣に屈んでいた腰を上げ、隣のアーシャへと向き直る。
「ありがと! ありがたく使わせてもらうよ!」
町の地下通路を通って、穴を出た先で、背後に連なる樹層の塊を見る。
展開したバイクに乗って、草原を走って風を切る。遠目に見える色々な目印を見つけながら、バイクの軌道を修正し、ただ青空の下、草を切って黒と黄緑のバイクは走っていく。
いくつかの景色を通り過ぎて。
そのうち、潮の音が聞こえてきた。
俺はバイクを降りる。ぱたぱたと、黒と黄緑のバイクは、小さな三角形のプレートに分かれ、折り畳まれて小さくなっていく。最後に、砂の上に残った塊を、魔法のポーチの口からにゅるんと入れ込んだ。
「マルメロ、ポイズンアント。出てきていいよ」
俺は、黄緑色の火の玉にカードを投げ、それから緑の巻貝の中から仲間を呼び出した。
現れたのは、クリーム色の体毛、ライオンの獣人。彼女は精霊マルメロ。大人なのだろうか、どの形態でも俺より一回り体がでかい。
隣に居るのは、白シャツ、緑の吊りスカートの、黒いロングの髪の少女。彼女はでかいアリの魔物だったのだが、人化の術を覚えてからというもの、ほとんどその人間の形態で過ごしている。
俺は周りを見渡す。片側は青い海、足元は白い砂浜。しかし見通しは悪い。すぐそこに、黒い岩場がせり上がって続いている。
岩盤には穴が開いており、進むには、穴あきの岩盤の中を進んでいくか、あるいは、頑張って上に登ったら、視界も良いし進みやすいのかもしれない。
ここは[穴あき海岸]。黒い、洞窟の開いた岩場と、砂浜、それから海のある場所。




