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休憩洞窟。“休憩洞窟のカギ”というアイテムを用いて解放される、ダンジョン内に作ることの出来る、隠された安息の地。
休憩洞窟には魔物を登録して預けておくことができ、中に入れた魔物と、内部の完成度によって居心地ポイントという独自通貨を得ることが出来る。この居心地ポイントは、休憩洞窟の施設を利用したり、あるいは洞窟の内装をいじるために使うことが出来る。
今現在、休憩洞窟に入れているシェル魔物は、ブルーバードとポイズンアントの二匹。プラス、ブルバがその辺で出会った魔物が中で過ごしていたりする。
ブルバが稼ぐ分の居心地ポイントは、最初にまず、冒険観測端末という、俺に付いてきてその様子を録画するアイテムを得るために、貯めておくことになっている。その端末は、カタログで見られるアイテムの中では一際高額であり、まだなかなか手が届きそうにない。
居心地ポイントは、洞窟内を整備するための家具などにも使えるが、ブルバは野生児らしく、クッション一つ入れたそのままの洞窟で、文句なく過ごしていた。
そして新顔ことポイズンアント。アリの形態のままなら、洞窟の奥で丸くなって寝ている様子もまぁ様にはなっていたが。
ポイズンアントは人形態を覚えてからというもの、活動する時は、そのほとんどを人の姿で過ごしている。魔物形態の方が戦えるのだが、そもそもポイズンアントは戦いを好まない。
そんなわけで。休憩洞窟には、野晒しブルバに加えポイズンアント(人形態)も増えたので、ポイズンアントが稼ぐ分の居心地ポイントで、今日は休憩洞窟の様相を改善しようという、それ。
「まずは広さだねー。最初の拡張はポイント少なめで出来るみたいだし、とりあえずやっていいかな?」
「えー?」
と、青いカッパを着た、栗色の髪の小柄な少女が、隣から俺の操作する端末を覗き込んでくる。
「この隠れ家感がいいのにー」
ブルバが隣でぼやいている。
「でも、ポイズンアントも暮らす住処だし、もうちょっと文明的にしても良くない?」
「そんなに文明が好きなら、ポイズンアントは、トリジの方の部屋で寝泊まりすれば?」
現在の俺は、[木々の町]内部の宿屋の一室を借りて生活している。ベッドは一つ。まぁ、ポイズンアントが望むなら、新しい大きな部屋を取ってもいいのだが……。一日二日ならともかく、毎日となると、俺の理性が危ない。ポイズンアントは可愛い。
まぁ……ブルバの連れてくる友達は、その辺の野生の鳥。ブルバの感性自体もまだ野生に近く、ブルバや友達にとっては、あまりここを整えすぎると、そこは居心地の良い場所ではなくなるのかもしれない。
「君は文明を知らないだけだ」
「なに? マウント?」
「折衷案を探そう。ここは、今はブルーバードとポイズンアントの住処だからね。ポイズンアントは? 何か、部屋の内装の希望はあったりする?」
俺のやることに、隣で興味津々で覗いてくるブルバに対して、ポイズンアントは俺の後ろに控え、何をするでもなくそこに立っている。
「私は、あるじ様の決めることに従います」
少女は、俺の問いに静かに答える。白いシャツ、濃いグリーンの吊りスカート。洞窟の暗がりの中で、ストレートの黒髪は闇に近い。
「これは命令だよ、ポイズンアント。君の理想の部屋を教えてね。君が感じる居心地が、この洞窟で得られるポイントの収入にも関わってくるからね」
俺は彼女にそう言って、彼女の返答を待つ。ポイズンアントの方に視線が集まれば、少女は視線を上げて何かを考えている。
「何か……書くものが欲しいです」
「ほう? 書くもの?」
「机と椅子と、紙と……人の町では、覚えることが多いので。ちょっと、頭の中を整理して、記録しておきたくて」
「なるほど。ポイズンアントは勤勉だねー」
最初の希望が筆記具とは、中々趣味が落ち着いている。まぁ人の名前だけでもいっぱいあるしな。アリの集落は名前とかなさそう。
「部屋の広さは? どうする?」
と、俺が問えば、彼女は洞窟の中を見渡している。
「いえ。私の希望を言うのなら、私は、狭い方が、居心地はいいかもしれません」
確かに。アリはなんか、狭い地中の穴とかで暮らしてそうだし。このままでも、その原風景に似通うところはあるかも。
「じゃあこのままで行こう」
俺は並ぶカタログをスライドさせて、筆記机や筆記具一式を探していく。
「ねぇ、私の希望はー?」
と、隣から、青いカッパの少女が俺の服を引っ張って言ってくる。
「ブルーバードの意見も聞いた上でやっているよ。部屋の広さは現状維持、これは、君ら二人の希望通り。そうだよね?」
「ちがうとはいわない」
「それとも、ブルーバードも何か買いたいものある? 観測端末用の貯金があるけど、まだまだ買うまでには時間が掛かりそうだしね。そこから少し引き出して、細かい物を先に買ってもいいかも?」
俺は、隣で端末を眺めている少女に話しかける。
「そうやって、大願は小さなところからくずれていく」
「そっか。じゃあ我慢しなきゃだ」
俺はわしゃわしゃと、ブルバの頭を、青いフードの上から軽く撫でる。
俺が“公共の設備”とか言って、ブルバにも何か買ってあげた方がいいだろうか。しかし、ブルバも願望を自分からひけらかすタイプではない。この子は気ままだが、彼女の好きなものを俺はあまり知らない。ブルバは何が欲しいだろう?
彼女の居場所として再現するのなら、木の枝と羽毛で作った鳥の巣とか。しかし、この小さな洞窟では、大きな鳥の体を収めるだけの巣は、圧迫感を与えるだろう。友達が来ても“おひとりさま”感が出るかも。
そもそもこの少女の欲求は、その場限りの気ままなもので、ポイントを使って発散するには向いてないのかも。
ポイントは結局、居心地ポイントからの支出。彼女が何もしないでいいと言うのなら、何もしないということもまた、正しい対応かもしれない。




