第十話、町のお手伝いさん
「ちょっと食料調達の人手が足りてなくてなー。もし良いなら、にーちゃんたちが手伝ってくれないか?」
外地形[草原と湿原]。[層樹林]を含めて周囲に広がる広大な草原の地形だ。
俺たちは、[木々の町]から地下通路を通って、[層樹林]の外へと出てきた。
そこにあるのは、ただただ広がる草原の景色、たまにぽつんと生えた緑の木や、空を映す水たまり、そして青い空。
「何をするんでしょうか?」
と、後ろから新顔が話しかけてくる。濃緑の吊りスカート、白いシャツ、緑の混じった黒く長い髪。それはポイズンアントの人間の形態。先日、休憩洞窟を訪れてそのままスカウトした新しい仲間。
「今日はね、カゴいっぱいに食べ物をね、採って来てって言われてるよ」
俺とマルメロの背中に、それぞれ背負いカゴが二つ。アイテム入れなら俺も魔法のポーチを持っているのだが、こっちの背負いカゴは食材専用アイテムであり、これに入れておくと食べ物が腐らないという。
「私もあるじ様をお手伝いします」
「そっか。じゃあみんなで一緒に行こうね」
“外地形”は、“ダンジョン”とは違い、広大で、迷路のように構造が入り組んでもおらず、そして危険な魔物に遭うことが少ない。そして、これら“外地形”では、豊富に食べ物アイテムが湧いてくるらしい。
俺たちは、今日はそれらを集めて帰るわけだ。
青い空の下、空には綿雲が浮かび、のんびりと風に吹かれて流れていく。明るい空、明るい地上。最近は暗いダンジョンの中に潜っていることも多かったから、眩しい景色だ。
草の中を、三人分の足跡が進んでいく。俺の後ろを見れば、白シャツの少女が歩いて付いてきている。
「……? どうかされましたか?」
「ううん。ちゃんと居るかなって」
新しく増えたポイズンアント。どこから来たのかは知らないが、その種はここらでは見かけない魔物。遠くから流れてきたのだろうか。少し、彼女のことを聞いたところ、彼女は戦闘はあまりしたくないとのこと。
先輩であるブルーバードは、今のところ、休憩洞窟に放置していれば、洞窟の内外を歩いて気ままに過ごしている。居心地ポイントもくれるし、素材も何やら溜まっているし、たまに俺から戦闘のお助けとして呼ぶこともある。ブルーバードは、俺たちの中に上手く居着いている。
一方、ポイズンアントは、洞窟の中でじっとしていたり、あるいは彼女のように気ままに暮らすのも向いていない様子。まぁアリは社会的な生き物だ、何かしら仕事を与えた方が、彼女も安心するのかもしれない。
けれど、本人いわく戦闘は苦手。ならば、この子に与えるべきは、俺たちの身の回りの雑用、あるいは町での雇用とか。シェル魔物が定職に就けるかは分からないが、今回みたいな突発のお助けを聞いたり……あるいはバイトみたいなラフな雇用形態に、とか。
外地形に豊富に湧いてくる食料アイテム群。しかし、それらはダンジョンない素材などとは異なり、地面にただ落ちていて、ただ拾えばいいというものではないらしい。
「あ、来ましたよ! 豊穣イノシシです!」
どこかから、どたどたと音と煙を上げて、草原の上を何かが走ってくる。それは一塊の巨大な影。
見た目には、人が上に乗れるほど大きなイノシシだが、背中が何というか、苔むしているというか、緑が芽生えている。背中を緑色が覆い、その上に、キノコみたいなのがたくさん生えている。
「あのイノシシは、栄養豊富なキノコを、体から落としながら走っていきます! けれど、キノコは地面に落ちる前に拾わなければなりません!」
よく見れば、イノシシは、動きの勢いのわりに若干速度が遅い。俺たちが小走りで追いつける程度だ。イノシシはスローに走りながらこちらを目指して走っている。どうも、俺たちが眼中にあるというわけではなさそうで。
「イノシシの後ろを追いかけて、落ちるキノコをキャッチしてください!」
「おっけー、そういうルールね。ポイズンアントもちゃんと聞いてた?」
「はい」
「じゃ、みんなで頑張ろうか」
やがてイノシシは俺たちの前を通り過ぎる。イノシシの体から、キノコが飛び散っては地面に落ち、見ていれば数秒でそれは消えてしまう。どういう原理のキノコだ。
イノシシの巨体を見送り、俺たちはその背中に付いて後を追い始める。
目の前に、走るイノシシのでかいケツがある。どたどたと巨大な体が目の前で揺れ、体から、ぽんぽんぽんと、キノコが現れ、あらぬ方向へと飛んでいく。
「おっと」
俺は地面へと落ちていくキノコを、落ちる前にかすめ取り、キャッチした。手にあるのは大ぶりのキノコだ、軸は白く笠も白く、もにもにと弾力がある。たんぱく質を吸って育つそうで、このキノコにもたんぱく質が含まれている。美味しそう。
背中のカゴにキノコを放り込み、少し遅れた足をイノシシの後ろまで追いつく。脇を気にしてみれば、マルメロは慣れた雰囲気でぽいぽいとキノコを拾っていっている。さすが獣人。
もう一人、濃い緑の髪の少女は、草原の上を一生懸命に走って追いかけている。と、またキノコが現れ、ぽんと飛んできて、その軌道が少女の前にやってきた。
「とぉっ!」
おぉぉ!!
少女は目の前に飛んできたキノコへと、両手を伸ばして飛び込んだ。ずさー、と、受け身も取らず顔から地面に突っ込み滑っていく。
「ポイズンアントぉ! 大丈夫かぁ!」
俺は慌てて急ブレーキを踏み、マルメロにはそのまま追いかけるようハンドサインをして、俺はポイズンアントの元へと駆け寄る。
少女は、両腕を上に伸ばしたまま、地面に横になっている。腕を、地面より少し上げていて、キノコを掴んだその手は地面に落ちていない。
少女は片手を放し、よろ、よろと立ち上がった。顔や服には、付いた緑の草がいっぱい。
少女は手元の綺麗なキノコを見て、満足そうに微笑む。それから、こちらに視線を向けた。
「あるじ様。一個取れました」
……。
俺は背中のカゴをずらし、彼女の前に見せた。ポイズンアントは手を伸ばして、キノコから手を放し、中に落とした。
俺は手の甲で、顔についた草を軽く払い、それから彼女の頭に手を乗せて、わしゃわしゃと撫でる。
「おめでとう。よく出来たね」
「はい」
運動音痴……これは生来のもので、直せない奴だろうか? 食べ物調達リストには、今のような激しい運動せずに獲得できるものもある。他を当たってみようか。




