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第三話、町人のお使い

「どこから迷い込んだか知らないけど、町の地下洞窟に、いくつか魔物が入ってしまってるようでね。一度“懲らしめたら”、元の場所に帰るだろうから。それをトリジさんにお願い出来るかい?」




「ここだよここ! ここの裏手だ!」


 一人の住民に案内され、俺たちは、家の裏にあるという地面の穴へと案内される。


 それはどうやら人の手で掘られている穴のようで、土の地面の真ん中に暗い穴があり、そこから整えられた土の階段が下へと降りていく。


「この下だね! 中で、穴がほかの洞窟に繋がって、いろんな鉱石があったから、採掘してたんだけど……ちょっと前から魔物が見え出してね。あたしじゃ戦えないから、だれか戦える人間を呼ぼうかと思ってたんだ。あんたが来てくれて助かるよ!」


 と、タオルを頭に巻いた犬顔のねーちゃんが言ってくる。


「では、この俺 (とマルメロ)に任せてください!」


「うん! 無理はしないでね! 中で欲しい石があったら、ちょっとは拾っていってもいいよ!」


 俺たちが土の洞窟を降りていくと、言われた通り、途中で雰囲気が変わる。


 窮屈なお手製の穴から、そこそこ広い洞窟へと繋がった。中は、明かりもないのに青白くぼんやりと光って見える。青くきらきらとした石の洞窟。


 俺はカードを出して、浮いている精霊を呼ぶ。


「マルメロー」


「はい!」


 俺は空中にそれを投げ、黄緑色の光の玉がそれに飛び込んだ。途端、薄く透けた白煙の中からでかいカエルが出てきて、それはにょきにょきと人の姿へと変わっていく。


「今日は、この洞窟の中の魔物たちを倒していくらしいよ。全部倒せるかな?」


「任せてください!」


 マルメロ改めカエル人は、今日も明るく元気よくにこやかに返事をする。


「それと……」


 俺は、ごそごそとそれを懐から取り出す。


「この前、もう一枚透明なカードが落ちたよね。これってどれくらいレアなのかな? 別の種類の魔物のカードも、取ってみたいなって」


「どうでしょうね? 十匹倒せば一枚は落ちているような感じです!」


 頑張れば手に入りそう。じゃあ、結構雑に使ってみてもいいか。



「それじゃあ、今日は“洞窟の中の魔物を倒す”、それから、出来れば“新しい魔物のカードを撮ってみる”だね」


 暗い、しかしほんのりと明るい、きらきらとした青い石に囲まれた洞窟。手を伸ばしてジャンプすれば天井に届く。二人並んで両手を広げれば、お互いの手が壁に着くだろう、それくらいの大きさ。


 脇の穴から洞窟に出てきて、片側はすぐ行き止まりだ。もう片側は、曲がりくねりながらどこかへと続いていく。


「じゃあマルメロ、一緒に進もうか」



 洞窟の中を進んでいくと、やがて一つの気配を感じる。


「魔物ですね」


 隣をペタペタと歩くカエル人の女性が、立ち止まって小さく警告する。


 待っていると、ぺたん、ぺたん、と妙な音を鳴らしながら、何かがこちらに近づいてくる。それは曲がった洞窟の先から、姿を現した。


「おぉ?」


 それは透明なゼリー。六角形か八角形か、とにかく角形の柱状の透明な何か。透明な柱は、柱の上と下を交互に地面につけ、体を柔らかくくねらせながら、一歩 (?)ずつこちらに向かってくる。縦に長いが、俺の胴体くらいの身長。


「フルーツゼリーです!」


「美味しそうな名前だねぇ」


 そして、美味しそうな甘い匂いもする。透明な柱は、中に赤い球体を宿している。ゼリーは薄い黄緑色……その匂いは、何かの果物のような、甘い匂い。


「あ、そうだ。撮影しなきゃ」


 俺は懐から写影機、透明なカードとエル字型の黄色いケースを取り出し、カードの中心にある十字を向こうのゼリーに合わせて、ボタンをパチリ。


 出来た。透明なカードの中に、くねった黄緑色のゼリーが映っている。ケースからカードが排出される。


「では行ってきます!」


「うん、お願い!」


 変身は……まぁ後でもいいか。どう変身するかは分からないが、ゼリー対ゼリーは勝負が付かなそう。カエル対ゼリーなら、カエルが有利そうである。なんとなく。


 ぺっと、開いたカエル人の口からピンク色の下が現れ、伸びる! 伸びる! ピンクの舌は長く伸びて、そっちの地面のゼリーの体まで届いた。


 にょん! と、舌がゼリーの一部分を掠め取り、長く伸びた舌はカエル人の口へと戻ってくる。


「んまんまんま」


 もちゃもちゃとマルメロは咀嚼している。食べられる奴なんだ。美味しいんだ。


 ピュ! ピュ! ピュ! と次々彼女の伸びる舌が、柱状のゼリーを攻撃していく。


 と、ゼリーがプルプルと震え始める。


 ゼリーの変形! ゼリーは赤いコアを中心に、トゲトゲのボールに変化した!


 しかし効果がなかったようだ。てちてちと歩いてきた女性型のカエル人に両端から掴まれ、抱えあげられて、彼女はついに直接もにゃもにゃと食べ始める。

 


 ぺい、と、投げ捨てられたゼリーが地面に落ちる。ゼリーは小さくなって乾いた餅のように固まり、地面に落ちたまま。ポッポッと、その体からアイテムが排出された。


「ご主人さま、倒しました!」


「お疲れさま! よくやった!」


 マルメロが、カエルのおててで、固まったゼリーの周囲に落ちたアイテムをいそいそと拾い集めている。新しい“透明なカード”はなし……まぁレアだって言ってたしな。欲しい。いっぱい欲しい。


「マルメロ、さっそく新しい魔物カードを試してみる?」


 人型のカエルは、洞窟の奥を覗き込むように体を屈める。


「そうですね。じゃあいったんやってみましょう!」


 ぽんと、半透明な白煙が立ち上り、俺の方にカードが飛んでくる。同じく煙の中から黄緑色の光の玉が。


 俺は、手にあるもう一枚の“フルーツゼリー”のカードを手に持って、そっちに投げた。光の玉は器用にあやまたず空中のカードに飛び込む。


 ぼふ、と再び白煙が立ち上る。中から落ちてきたのは、今しがた見た透明な柱状のゼリー。中にゼリーは黄緑、青いコアがある。やがてにょきにょきとゼリーは変形して、それは立ち上がり人の形を取っていく。


 ゼリー人間の誕生だ! カエル人改めマルメロは、改めゼリー人となった!


 黄緑色のゼリーの体。半透明に向こう側の岩の景色が透けている。


「触ってみてもいい?」


「へ……変なところはだめですよ」


 恥じらいとかあるんだ。俺は、ヒト型ゼリーの端から近づき、腕の上からツンとその体を触る。


 カエル人の時は薄く粘液が出ていたが、今回のゼリーは、なんというか、意外と乾いている。触っても湿っていない、ゼリーというよりグミな感じ。ぐにぐにと、弾性の高いゴムのような体、あるいは、透明なだけの柔らかめの人体。


「今回は? その形態は、何が得意なのかな?」


「弾性の高い体を活かした高度な変形が可能ですよ! 薄いケースに押し込めて持ち運びが可能です!」


「そうなんだ! 潜入とか得意なのかな?」


 カエル人の次はゼリー人。二つとも、まだあんまり攻撃は得意じゃなさそうな感じ。とはいえ攻撃力の高い魔物カードを得るには、攻撃力の高い魔物に会いに行かなければならないし……まぁ、無理せず少しずつかな。


「ちなみに、ここぐらいの魔物だとまだ大丈夫ですが、強い魔物になると、弱体状態でないと魔物の写影が失敗することがあります」


「そうなんだ」


 じゃあ強い魔物の撮り逃げとかは出来ないか。


「失敗すると、どうなるの? カードはもうおじゃん?」


「いえ、写影に失敗した後も、“透明なカード”は使える状態のままそこに残りますよ!」


「そっか」


 じゃあ、とりあえず撮ってみるのはありか。


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