第九話、ダンジョンで遊ぼう!III
:登場人物
トリジ
主人公の青年。戦闘力はないのでマルメロのサポートに回る。
マルメロ
主人公のお供の精霊。いろんな魔物の体に入り、魔物を倒す。
ブルーバード
新顔のシェル魔物。休憩洞窟を占拠し、そこら辺で出会った友達を洞窟に呼んでいる。
「ここからすぐ行ける所に、岩屋根ってエリアがある。今のにーちゃんたちなら、丁度いい強さだろうし、効率よく強くなりたいなら、そのエリアで狩りをすることをお勧めするぜ」
俺たちは言われたまま、商人のアーシャから教わった道順を辿っていく。
それは[木々の町]の地下から、[層樹林]の下を伸びていく通行路を歩き、外地形[草原と湿原]へ。
何もない、平べったい草原の上、いくつかの池や偶に生えた木を眺めながら、しばらく歩いていけば。
そこに、巨大なパイプがあった。透明で、巨大なパイプ。それは自然の草原の上にポンと置かれ、パイプはどこかへと続いている。
「“パイプライン”ですね」
「パイプライン?」
俺は隣に立つ、相棒ことマルメロ人を見る。
「はい。地形にたまに置いてある、長距離をショートカット出来る構造です。パイプライン内部は空間が歪んでいて、少し歩くと反対側に出ますね」
「へー」
ここからの視点には反映されていないのか、パイプの中を覗いても、それはそこに置かれているだけの巨大で透明な筒。パイプの向こう側が見えるわけではない。
「ま、とりあえず進んでみましょう」
「そうだね」
俺たちは丘を登り、そこに置かれた透明な筒の中へと足を踏み入れる。
一歩足を進める、俺の体が前に動く、その少しの移動のずれで。
筒の周囲の景色が目まぐるしく変わり、それはすさまじいスピードで俺の背後へと流れていく。慌てて止まろうとしたが、厳密には俺は止まっていないらしく、景色はすさまじいスピードで不規則に俺の前後に揺れている。
「慣れないなら、目を瞑ってまっすぐ歩くといいですよ。私が手でも繋いでいるので」
揺れる景色の中で、隣にマルメロだけが確かに立っている。
「マルメロを見ていれば、酔わずに済みそうだね」
「……こけたりしないように、手を繋いでもいいですよ」
「じゃあお願いしようかな」
クリーム色の体毛の手を握り、俺たちは、透明な曲線の真ん中を前に進んでいく。
ぎゅるぎゅると景色が変わり、最後にそれは全体的に赤黒くなって。
景色の変化が終わった。俺たちは、透明で巨大な筒の端から、一歩足を落としている。
そこは赤っぽい、あるいは黒っぽい岩で出来た岩場の地。俺たちの頭上を覆うように、広く岩の天井が広がっている。左方向を見ればそちらに壁はなく穴、ここはまるで地層の間が開いて出来た、巨大な空隙の洞窟、みたいな感じ。
天井は遥か遠く、地面は岩だらけで視界は一望できない。岩の屋根の下だが、左方向に穴があるので風はある。
「おお新天地」
赤黒い岩場を俺たちは歩いていく。
岩の陰からモンスター! 最初に現れたのは――
それはカエル、大きなカエルだ。大体、俺たち二人を横に並べたのと、同じくらいの図体がある。特徴的なのは、体にまとった岩の鎧。白く柔そうな体の上に、薄い朱色の岩の装甲を纏っている。
「マルメロ、なんか強そうなの出たよ!」
「倒します!」
ライオンの獣人は口から火の息を漏らし、鋭い爪の付いた両腕を構える。
相手は装甲型か。マルメロの牙や爪は、柔らかい肉を裂くのには向いているが、ああいう岩の装甲には爪が立たないのではないだろうか。
マルメロが向こうの岩ガエルへと向かっていく。カエルの装甲は、頭を含めた、体の表側のほとんどを、一つの兜がそのまますっぽりと被っているような形だ。
目や下側には空きがあるが、高い場所にある目の穴を、正面から狙うのは難しい。また、兜は地面すれすれまで体を覆っており、そのままでは隙がない。
マルメロはまっすぐ岩ガエルへと向かっていき、装甲の上から攻撃。岩……いや、粘土か? 案の定というか、マルメロの爪は重い装甲を貫けない。多少のひっかき跡が残り、そして打撃を受けた瞬間にその装甲がたわんだ。
弾性がある、乾いた岩、というよりかは、重く湿った、積み重なった粘土のよう。
あれでは、“センマイウロコ”の削る攻撃も通らないだろう。どうにか装甲をかいくぐって生身の部分を狙った方がいい。
「今までの場所より手強いね! 気を付けて!」
マルメロは一度引いて、カエルから距離を取った。
薄い朱色の、岩のようなカエルがマルメロを睨む。岩の兜の、その先端の突起が、マルメロに向く。
「来るよ!」
カエルは後ろ脚に力を込め……飛び出した! 岩のような巨体がマルメロに迫る!
しかし、マルメロは側面に飛び込む。獣人の素早い身のこなし、紙一重で、風を切り突っ込んでくる巨体の横側を、彼女の体がすり抜けた。
ブレーキを掛けつつ、岩ガエルが向こうで止まる。その動きや音、地面のずれから、カエルの大体の重さが分かる。
思ったより重くないな。あの装甲は岩じゃない、もっと軽い何かだ。
「爆弾銃! 一発撃ってみるね!」
マルメロがこちらをちらりと見る。岩ガエルは、向こうでマルメロを睨み佇んでいる。
俺は岩場の陰で懐からアンティークな銃を取り出し、弾を確かめる。残弾は三発、今日はまだ使っていない。
俺は岩の陰から少しだけ体を出し、弾を打ち出す。図体のでかい体だから、止まっていれば当てるのは簡単だ。紫色の玉がカエルの背に張り付き、明滅して、起爆。
爆風に体が揺れる。岩ガエルにダメージは……入っていなさそうだった。しかし、兜の背面に大きな跡が出来る。
「もう一発!」
多分次はばれるだろうが、後はマルメロに任せよう。俺はいまだそこに佇む岩ガエルの、同じ跡へと紫色の玉を飛ばす。
着弾、そして起爆。爆風にカエルの体が揺れ――
そして、兜の上部に穴が開いた。
「あそこを狙って!」
「了解です!」
のそのそと、岩ガエルが俺の方を向き出す、俺は岩の陰から離れてさらに距離を取る。間にマルメロが入る。さっきの突進だと、マルメロの体でも止められないから、俺とカエルの間に、常に動かせない障害物、岩などを入れておかないといけない。
カエルの正面からマルメロが向かっていく。マルメロは、カエルの兜の顔を踏みつけ、カエルの上部へとよじ登っていく。
マルメロがカエルの背中に陣取った。そこに、今しがた空けた穴があり、下にはカエルの生身が見えている。
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
クリーム色の獣人が、朱色の岩の上で暴れている。凶悪な爪を見せ、それでしっちゃかめっちゃかにカエルの背中を引っ搔いている。
カエルが暴れ始めた。上に乗ったマルメロを落とそうと、体を振り、頭を振り、飛び跳ねている。マルメロは引っ搔くのをやめて背中にしがみつく。
「マルメロ! 引いて!」
俺の指示に、マルメロはとっさに背中から飛びのいた。直後、力を込めたカエルの脚が、その体を大きく飛び跳ねさせる。
巨大な岩盤の屋根の下、岩ガエルの巨体が高く跳ねた。俺たちの頭上を高く、カエルが跳んでいる。
カエルは上空で勢いを減らして止まり、落下へと転じる。そして、カエルの体は180度回転し、背中を下にして落ちていく。
岩のカブトが背中から落ちた。やはり、岩のカエルの腹には装甲がなく、真っ白で、柔らかそうなお腹があらわになった。
「今だ!」
足をばたつかせるカエルの、お腹の上にマルメロが飛び乗った。
彼女は、暴れる体を両腕で押さえつけ、ぎらつく牙を見せながら――
がぶり!
若干色あせて、若干体が縮んで固まったカエルが、そこに佇んでいる。俺は写影機を構えて、ぱちり。透明なカードに、カエルの姿が刻まれる。
「ご主人さま! 素材落ちてますよ!」
「いいね! 何が落ちてた?」
俺が彼女のそばに近づくと、彼女の手には、いましがたのカエルが体に纏っていた、薄い朱色の岩の薄片。
「“カエル粘土”ですね! 焼くと、軽量で硬質な物質へと変化します!」
「ふーん? 良さそうな素材だね! これで、防具なんか作ったりしたら強そう!」




