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「ん……」
目が覚めた。窓の外から、見え始める明るい光。ここは宿屋の部屋のベッドの中。
体を動かせば、何かにぶつかる。横たわったまま、視線を動かすと、視界の左下。俺の隣に、白い掛け布団の下に、知らない膨らみがある。
俺は布団を上げて、下にいるその何かを確かめる。
「おや……」
青いカッパの少女。今はフードが脱げて、栗色の小さな頭が見えている。いつの間にか、魔物シェルからこっち側へやって来たのか。少女はすやすやとそこで眠っている。
俺は、小さな頭をそっと撫で、少女を起こさぬようベッドを抜け出す。
「なんか、迷宮でさわがしくなってたから、ちょっと来て」
ブルーバードにそんなことを言われ、俺たちは昨日作ったばかりの、上層の方の休憩洞窟へとやって来る。
鍵を持って壁に近づけば、そこにある壁が緑色に光り、勝手に穴が開く。中からてちてちと、大きな青い鳥が現れた。
ぽんと、俺たちの前で鳥は少女に変わる。
「あっちの方でなんかやってた」
少女は腕を上げ、言葉でそう告げる。
「そっか。ブルーバードは一緒に来る?」
「いかない」
「おっけー。じゃあ俺たちで見に行ってくるね。教えてくれてありがとねー」
俺たちは、小さな指がさした方向へと歩き出す。
「さわぎって、いったい何が起こってるんだろうね?」
俺は隣の、ライオン人ことマルメロに話しかける。
「なんでしょうねー」
歩いていけば、すぐに、ブルーバードの言う“騒ぎ”が見えてきた。
そこは一つの区切られた大部屋。魔物たちがわんさか集まり、中心の何かにたかっている。
「モンスターパーティーですね」
「モンスターパーティー?」
俺たちの視線の先、外側はリンゴ、中身はミカンみたいな、そして、人が丸ごと入れるほどの大きさの果物があり、果物は上部分が潰れて開いていて、そこに魔物たちがわらわらと口を突っ込んでいる。
「いい匂いのする大きなフルーツが、ダンジョン内部に現れ、魔物が一か所に集まって現れます。一望してレアな魔物を見つけたり、ここにしか居ない魔物が居たり、あるいは一度に大量の魔物と戦えたり。あとは、中央のフルーツから、魔物を引き寄せるアイテムが獲得できますね」
「ふーん」
大部屋の中央に集まっている魔物は、一、二、三……全部で七体。確かに、初めて見る顔も居る。
「マルメロ、やるかい?」
「もちろん」
クリーム色の体毛をした獣人が、腕をぶんぶんと回しながら、魔物たちの集まるパーティーへと向かっていく。余裕そう。
*
俺たちは、町の中にある、前々から気になっていたお店を訪れた。
場所は、売店隣の、横に長い建物。右手の外階段から二階に上がって廊下をまっすぐ進んだ一番奥、の一個手前。
この前も訪れた仕立て屋さんの、隣のスペースのお店だ。俺が来てから、しばらくは閉まっていたのだが、いつの間にか店が開いていた。
店の看板には、ハンマーのマーク。
そこは“鍛造屋”。
「いらっしゃいましたー」
店をくぐると、中には店主が居る。ハンマーを構え、炉の前に続く石で出来たテーブルみたいな所の脇に立っている。武骨で隆々な体格の、浅黒い肌の、額に黒い鉢巻をまいたお兄さん(仮定)。
「……おう、いらっしゃい。新顔か」
「開いてたんで見に来ましたー。ここって、何をするお店なんですか?」
彼は屈んでいた体を起こし、若干目に掛かっていた鉢巻を上にあげる。
「俺は店主のガーディア、ここは鍛造屋だ。身に着ける防具や武器が作成できる」
店主が名乗り、俺たちも軽く名乗りを返す。
「防具ですか?」
「あぁ。ただし、作成のための素材は、そちらからの持ち込みだ。お金と必要な素材を持ってくれば、あとはこっちで作ってやる」
「防具も、魔物の素材とか使うんですか?」
「そうだな」
彼は無口に見えたが、必要なコミュニケーションは取ってくれている。
「隣に……仕立て屋さんがありますよね? そこでも、魔物素材を使って“コスチューム”を作れたと思うんですけど……それって、その防具とは、何が違うんですか?」
ぼーっと、三白眼がこちらを見つめている。
「違いはいくつかある。まずは、あっちが作るのは“衣装卵”、こっちが作るのは“防具”だ。“防具”は、“卵”みたいに小さく出来ない。“衣装卵”は服一式で、一度に着けられるのは一つ。だが、“防具”は、装備箇所ごとに複数装備できる」
なるほど、コスチュームは一張羅、防具は分割パーツか。
「あと、“衣装卵”は、“見た目の変化やちょっとした機能”が目当てだが、“防具”は、“装備者の防御力を底上げする”のが主な目的だ。まぁ、“防具”も、素材によっては副次的な効果が発生することがある」
なるほど、コスチュームは効果目的、防具は防御力目的。
「それらの防具って、誰用ですか?」
「ん? 基本は住民や冒険者、あんたみたいなソーシャもそうだし、魔物体の精霊用の物も作れる。まぁ、精霊が魔物体を解除しても、防具はその場に残るけどな」
ふーん。だいぶ物質的な意味合いが強いアイテムらしい。
「武器も、似たような感じですかね?」
「そうだな。大体が、一つだけ持つもので、そのまま持ち歩くものだ。“武器”は、攻撃の手段を得ることが主目的で、ついでに効果が付いてたりする」
俺は、隣のライオン人ことマルメロを見つめる。彼女に腕や足には鋭い爪がある。その強力な膂力を生かして武器を持つのもいいが、普通に武器なしで戦っても強い気がする。
つまり、俺たち用、俺が使う武器や防具を手に入れるための店だ。
「私は、ご主人さまが、もう少し防御力を上げていただければ、安心して戦うことが出来ますよ」
「そうだね」
俺本体が弱くて放っておけないから、今以上に深い場所に進めない、俺の弱さがボトルネックだと、マルメロと話していた。
俺が武器を手に……して戦うのもいいが、まぁまずは防具だろう。
「俺でも……駆け出し冒険者でも、作れそうな防具って、何がありますか?」
「ん? 見たところ、あんたはまだ防具を一点も持ってない感じだな。雑多な魔物素材を渡してくれれば、とりあえず一つは作れる。まぁ、ちゃんとしたものを作りたいなら、適した素材や鉱石を見繕って作るけどな」
「ちゃんとした奴だと、すぐには作れなさそうな感じですか?」
んー……と、彼は何やら考えている。
「そうだな。鉱石アイテムが100個くらいと、ここの近くなら、洞窟に“鉱石モグラ”って奴がいるんだが、そいつから落ちるアイテムを50個くらいだな」
だいぶ掛かるな。よわよわのゼリー系ですら、専用の湧き場所を使って、数日掛かったことを考えると……まぁ早くて一週間か、一か月か。
「すぐに作れる雑多素材の奴なら、鉱石系のアイテムは、要らない感じですかね?」
「ま、そうだな。適当な奴なら、別にうちにも置いてあるから、そっちを使える。まぁ、その分作成費用に上乗せされる」
今は……ダンジョン[層樹林]を主な狩り場としており、そこでは鉱石系の素材は見られない。狩り場を変えるにも、今はあの子を倒すのが目的だし。
「じゃあ……とりあえず、その、雑多な素材で作れる防具を、まず一つ、作って貰えますか?」
「いいぜ。装備箇所によって、必要素材量と得られる防御力に違いがある。胴体のものが、一番必要素材量は多いが、得られる防御力も多い。とりあえず一つ作るなら、まず胴体装備を作ることをお勧めするな」
「分かりました。じゃあそれで、作成をお願いします」
何かに使えるかと、売ってない素材も最近は魔法のポーチの中に貯めて来ている。俺たちは、そこから必要のなさそうなもの、適したもの、良さそうなものを選んで、テーブルに次々と並べていく。
「こんなもんか。じゃあ、これらの素材で作るぞ。費用はまぁ、今回は6000ライトってとこか」
「お願いします」
浅黒い肌を露出した彼は、背中からハンマーを取り、手に構える。
そして、石のテーブルに置いてある素材の一つへと、それを振り下ろした。
ぐに、と素材が潰れる。ハンマーを離してみれば、そこには、絵の具の玉を潰したみたいな平べったい塊が残っている。
彼はハンマーを次々と振り下ろし、石のテーブルに乗ったアイテム群を平たく潰していく。彼はそれをひとまとめにして集めて、また叩く。後ろのツボの中に入っている、青い、金属みたいな、半透明な石を何個か取り出して、それもまた叩く。硬いはずの石は、不思議なハンマーにより粘土みたいに潰される。
すべての素材の粘土化が終われば、彼はすべてを集めて一つの塊にし、ぐにぐにとこね始める。
「あんたも必要だから、そこに居てくれよ」
「え!? 俺も叩かれるんですか!?」
「あぁいや、違う違う。サイズを見るんだよ、あんたの防具だからな」
彼は、石のテーブルの上の塊を、焼く前のパンみたいに何度もこねている。やがて、塊は光りだし、徐々にその光を強めていって。
ポンと弾ける。光る塊はテーブルの上で立ち上がり、それは服の形を取った。彼がそれをキャッチする。
「出来たぞ。“おざなりな魔物の服”だ。特殊効果はないが、とりあえず丈夫になれる」
俺はおざなりな魔物の服を受け取った。ちょっと厚手の、紫色の若干ダサい厚地のシャツ。若干ダサいが、まぁ防具だし。
「それは、身に着けていれば効果があるものだ。着るのは胴体だが、胴体以外でも、防御力は頭の上からつま先まで適応される。防御力ってのは、まぁ簡単に言えば丈夫になる力だな」
「なるほど」
これくらいなら、マルメロ用のも作ってもいいか? だがまぁ、今のところマルメロが息切れしているところはあまり見ない。まぁ作っておいてもいいが、防御力だけ上げても、攻撃力が上がらないなら、あまり意味がない気がする。
無限に使える貯蓄があるのなら迷いなく作るが、それで使える他のものを考えると……多分、それに使うものを他に回した方が、結果的にマルメロのためになる気がするな。
「[層樹林]の魔物なら、上のとこの弱い魔物の攻撃なら、ほとんど通らないだろうし、暗いとこのちょっと強い魔物なら、まぁ一、二発くらい受けても大丈夫になるだろう」
俺は懐から財布を取り出し、中からコインを取り出し、支払いを済ませる。今より、一回りか二回りは丈夫になる感じかな? まだ魔物の攻撃を受けたことがないので分からないが。まぁこういうのは保険だ。
「良い買い物ができました。素材が貯まったら、また見に来ます」
「おうよ。達者でな」
俺たちは、鍛造屋の外へと出てきた。
宿屋に魔物シェルを置いて行っていれば、ブルーバードがこちらに遊びに来ていたようだ。扉を開けると、細みの足をプラプラと揺らして、ベッドに仰向けになって寝ていた。なんだか腰から下がきわどい。一応、下には白いハーフパンツを履いているが、それも裾が広い。
青いカッパを着た少女が、首だけこちらに向けて、現れた俺を見て、ひとこと。
「ダサい服着てる」
「これは丈夫になれる服だよ、君も着るかい?」
少女は緩やかに首を横に振る。




