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俺たちは迷宮の中を歩いていく。もう浅い部分で出てくる魔物はマルメロ(ライオン人)の敵ではなく、出てきた端から彼女が倒してくれる。鳥の姿で歩き回るのは疲れるのか、ブルーバードはいつの間にか少女形態へと戻っている。
てちてちと、青いカッパを来た小柄な少女が、フードの後頭部をこちらに見せ、裸足で俺たちの前を歩いている。
「魔物です」
俺たちの視界を何かが横切る。
「あ、スーパートンボです! レアモンスターですよ!」
「スーパー……なに?」
速い、あの、すごい速い。視界を何らかの影が、高速で飛び回っている。大体人の頭くらいの大きさの魔物。虫にしてはでかいが、魔物にしては、小さめの影。
「ほら、腕で何かを持っているでしょう!?」
「見えません!」
「あれはレアアイテムです! 攻撃を当てるとアイテムを落としますよ! ご主人さまも狙ってみてください!」
「え、俺が!?」
攻撃のダメージ量に関わらず、一ヒットしたらいいタイプ、なのかな? 俺は両腕を構えて視界を広く待っているが……何が起きているんだ?
マルメロも、体に何度か近づいた影を狙い、反応して腕を振っているが、でかい影はありえない軌道の曲げ方をして避けている。え、俺がアレをやるんですか?
まぁ俺でも参加できる戦闘だ、たまには寄与できてもいいだろう……俺は必死に目と感覚を開いて、この小部屋の中を飛び回っているトンボを追う。
「今です!」
俺は目の前に来た影を狙い、両手で拍手を叩いた。
ぎゅん! と避けられる。案の定!
と、隣で少女が足を蹴り上げる。カッパの下から、眩しい、細く白い足が持ち上がり、壁に向かって伸び、当たっている。
少女の足と、壁の間には、ぱたぱたと、羽を羽ばたかせてもがく、大きなトンボ……ハエ? なんか尻尾というか後ろ半身が短いぞ。羽も丸く短い。これハエじゃないか?
「さすが鳥類!」
ぽろっと、トンボの腕から何かが落ちる。ブルーバードはその素足を持ち上げ、壁から地面に戻した。壁のそいつを解放され、自由になった丸めのトンボが、空中をカクカクと動いてどこかへと去っていく。
「せんきゅー、ブルーバード!」
俺が声を掛ければ、ふん、と、青カッパの少女は、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。あれ、まだか。
「何が落ちたんだろう?」
壁から転がって落ちたのは……キラキラと光る、透明な宝石。カッティング済みであり、少し見る角度が変わるだけで、石の中で光が煌めく。
「あれ、また魔物シェルかな?」
「いいえ、それらは換金用の宝石アイテムですね。高く売れますよ」
後ろでマルメロが教えてくれる。
「そーなんだ」
俺は、落ちたままの透明な宝石を拾い上げ、隣の青カッパの少女に見せる。
「ほら、君が倒して得たアイテムだよ」
「……私が倒して得るものの所有権は、主である所のあなたに、自動的に移ります」
「誰だい、こんな幼い子に、定型的な従属感を与えているのは」
俺はかがんで視線の高さを合わせ、少女の前に手を差し出し、ごろごろとした宝石を少女に見せる。
「君が得たものだよ」
すっと、カッパの中の視線が上がり、少女と目が合った。短い栗色の髪、小さな顔。
「あなたなら……きっと私より、それの良い使い方を知ってる」
「かもね」
「私が倒したものを、あなたが受け取る。私はそれに、不満を感じてない」
「君はこれが欲しい? 欲しくない?」
少女はじっと、俺の指の間の、その宝石を見た。
「同族は、きらきらしたものを集める趣味がある、けど……私はそんなに。私は、ふわふわしたものが好き。それを壊すのが」
「そっか。じゃあこれは俺が受け取ろう」
俺はその宝石を、懐の中の小袋の中へと入れた。ふわふわしたもの……さっきのクッションみたいなものかな。壊す用……?
俺がブルーバードから離れると、少女はそこに佇んだまま、視線をそこのマルメロへとスライドさせる。そして呟く。
「このひと、なんか変」
「じきに慣れますよ」
マルメロ、否定は?
ついでに、いつもの巡回ルートを終え、俺たちは休憩洞窟の中へと帰ってきた。
ぺたぺたぺたと、小さな影が俺たちの前を先行して歩く。岩の地面を、青いカッパの小さい影が歩いていき、奥に置いてあるクッションの前で屈み、ぽすとその中に頭を埋めた。
外を歩いて、魔物と出会って、手に入ったマスカットも食べていたし、満足して疲れたのだろうか。
「あ、言い忘れてました。休憩洞窟は、複数の場所での作成可能で、離れた複数の休憩洞窟間で、ワープ機能が使用可能です」
「え、すごい」
離れた所でも一瞬で行けるってこと? 超便利じゃん。今のところ、俺たちは町の外に出て、移動するのにもずっと徒歩だ。
「消費ポイントや、設備は?」
「ワープマットを設置してのちに、行き来で少量のポイントを消費し、実行が可能です。ワープマットなら、ショップの中にあります」
マルメロは歩いて、そこにある鋼色の端末へ。ぴっぴと操作して、ウィンドウが立ち上がり、ショップの画面に映る。
どれどれ……おお、高額。さっき見た手持ちの居心地ポイントや、ほかに見えている一覧の家具類とは、文字通り桁が違う。まぁまだ一個しか洞窟ないしな。二個目が見つかる頃には、ここが充足して、ポイントも不自由なく手に入れられていたり……したら、いいなぁ。
と、そっちで寝ていたブルーバードが立ち上がり、青いクッションを抱えたまま、てちてちとこちらに歩いてくる。横に来て、再びショップのウィンドウを見つめる。ウィンドウの位置を下げると、少女はすらすらと画面を移動させていく。
止まった。少女が指さす。それは……またもや、高額な商品。
「これ欲しい」
それは……“冒険観測端末”? ドローンとテレビの一セットで、テレビをここに設置し、ドローンを俺が持っていくことで、あとはドローンが自立して飛行、俺の冒険を観測し、ここにあるモニターにその様子を映してくれる。
「面白そうだね」
もし、記録機能もあるのなら、いろいろ俺の行動や冒険の整理にも使えるだろうか? マップも、一々歩きながら書き起こすの面倒だし。
「今はまだ、ポイントが足りなくて買えないけど、じゃあポイントが貯まってきたらそれを買おうか。これ一つで、ほかに色んなものが買える値段がするけど、ほかに、先に小さいものとかは……」
少女は、俺の顔を見上げ、俺が言い切る前に、首を小さくふるふると横に振っている。最初に一番でかい物行くか。強い意志を感じる。
「じゃあ、目下の目標はこれだね」
「うん」
俺は手を伸ばして、青いフードの上から、少女の頭を軽く撫でる。
「じゃあ、俺たちはこれから町の中に戻るけど……君はどうしたい?」
少女は問われ、洞窟の中を振り返る。部屋の中に明かりはないが、内部はぼんやりと明るい。物は端末と彼女の抱えるクッションのみ。俺と、マルメロと、ブルーバードだけ。俺たちが引き揚げたら、この子はここに一人だ。
「いい。わたしはここに居る。あんまり町の中とか入りたくないし、人とか会いたくないし」
「そっか。一人でも寂しくない?」
「ここら辺で、適当に過ごしとく」
まぁ、“一人なら寂しいんじゃないか”、という考えは、俺の考えだ。彼女は違うのかもしれない。自然の中で、静かな方が好きな子も居るだろう。でもまぁ、この子の顔は見に来たいかな。
「わかった。じゃあ、ブルーバードはここで待機だね。何かあったら、魔物シェルで呼びかけるから」
「ん」
俺たちは、青いカッパの少女を置いて、休憩洞窟の外へと出てきた。




