第七話、ダンジョンで遊ぼう!
『ルミナコレクト・”ヴァンピ”』
息巻いて、ダンジョンへと入って来たは良いものの。そこは、層状に分かれた樹木の世界。上も下も遮蔽があり、見渡してもすぐに壁がある。少し上に座標がずれるだけで出会えなくなる、自然の中の要塞。
「と、とりあえず、上に行けばいいのかな……?」
空の上から[層樹林]の方に入っていったし……いや、そもそも彼女は通り過ぎて、外の[草原と湿原]まで行った可能性がある? アーシャは、さっきの子は町の子だと言っていたから、遠くまで行く可能性は低いかもしれないけど……。
「さきほどのカミカミを追跡なさいますか?」
と、隣のライオン人ことマルメロが聞いてくる。
「え、あ、うん」
「それではリンクを開始します。カミカミ個体“ヴァンピ”の追跡が可能になりました。この光が強まれば、近くに居ます」
と、彼女はいつもの精霊体の、黄緑色の炎のオーラだけを抜き出したかのような、揺れる炎を空に浮かべる。
「一度あなたが認識したカミカミは、いつでも追跡が可能な状態になります。しかし、これを浮かべている間、向こうのカミカミは“自分が追われている状態”だと察知します。こちらがどこに居るか、どれだけの距離に居るかを向こうは分かりませんが、私たちがこれを発動している間、向こうは常に警戒状態となるでしょう」
「便利な……機能があるね」
俺は、そこに浮かぶ、揺れる黄緑色の炎を見つめる。近づけば強まる。上下左右に動けば相手の方角が分かるし、あとは分かった方向に動いていけばいいか。
まぁ、この[層樹林]は、思った通りの方向に、簡単には動かせてはくれないけど。
俺はふらふらと試しに動いてみるが、一歩二歩では俺の目で見える違いは見いだせない。
「思った通り、ダンジョン内に居るようですね。それもかなり高層です。飛び立って、そのまま上のあたりに着地したのでしょう」
「お、マルメロの方が繊細に感知できる? じゃあ道案内はお願いしていい?」
「任せてください」
俺たちは、樹木の根っこや枝が絡まって出来た、暗い茶色の天井を見上げる。
ライオン人改めカエル人ことマルメロの背中に乗って、俺たちはぴょんぴょんと、徐々に上の層へと上がっていく。上の層への穴を見つけ、マルメロの跳躍で飛び上がり、その層でまた上への穴を探す。
視界は上に行くほどに明るく、組み絡まった枝や根の間から漏れ落ちてくる陽光も、徐々にその量が増えてくる。
「外の匂いがしますね」
「そろそろ頂上かな?」
俺たちはまた、一つ上へと繋がる穴を見つけた。その先には青空がある。俺たちを覆っている天井も、大分層の厚さや密度が下がり、隙間や穴が開いていたり、下の層では見えていなかった緑の葉っぱが天井を彩り飾っている。
俺たちは高く跳躍して、青空の中に飛び込む。
そこは[層樹林]、自然の要塞のその頂上。
最上層にはほとんど新しい木々が生えていない、あるいは、数本の青々としたはっぱを携えた樹木が数本固まって生え、藤棚のような小さな木陰を作るのみだ。それは新しい層の先駆けとなるのだろうか。
「風が気持ちいいね」
「そうですね」
俺は彼女の湿った背中から地面へと降りる。遮るもののない青空の下、どころか、歩いていけばそのうち地面すら落ちていく。
最上層の地面は葉っぱの緑が多く、しかし足元はしっかり絡み合って固まっている。見渡せば、そこに、一枚の布を広げている上で、女の子が座っていた。
短い白い髪。小さな頭の上に生えた、短い、上向きの赤い二本の角。背中には黒い羽と揺れる尻尾。黒いカッターシャツに、エナメル質のてかてかとした黒いホットパンツ。
小柄な少女は地面にあぐらをかいて座り、大きな黒い鍋を前にして、きょとんとした顔でこちらを見つめている。
「やぁ泥棒さん。追いかけて来たよ」
少女はわちゃわちゃと慌て、膝立ちのまま、広げられた布の前に立って両腕を広げる。
「だ、ダメよ! これは私の集めたタカラモノなの!」
少女の後ろにある、黄色と白のチェック柄の風呂敷。そこには、大きな鍋、はさみ、誰かのエプロン、羽ペン、空のビン、カラフルなボール……など、雑多なものが転がっている。
「それらは、全部君が他人から盗ってきたものなの?」
「違うもん! 私のものだもん!」
「ご主人さま」
と、隣のマルメロが話しかけてくる。
「なに?」
「写影機を出してください。“カミカミ”は、写影機を通した撮影で、強制的な服従が可能です。相手が何をしてくるか分かりません、まずは――」
「マルメロ」
俺が会話を止めると、落ちていた、静かな彼女の目線が、俺を見上げる。
「今は必要ない」
「……わかりました」
俺は、そちらの黒シャツの悪魔っこに向き直る。




