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ライオン人が魔法のポーチに頭を突っ込み、クリーム色の体毛で覆われてたおしりをふりふりと揺らしている。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……」
やがて、ポーチからにゅぽんと彼女の頭が出てきて、頭を振ってその短い髪を揺らす。
マルメロはこちらを振り返り、元気よく言った。
「集まりましたね! ご主人さま!」
俺たちは宿を出て町の中の道を歩き、細長い二階建ての建物を目指す。建物の右端に差し掛かり、木造の外階段を上って上へ。外廊下をまっすぐ歩いて突き当たりを右に。
そこには、衣服やハサミのイラストが描かれた看板が下がっている。
「ごめんくださーい」
暗いカーテンを押しのけ、数日ぶりに仕立て屋さんへと顔を出した。
「思ったよりも、早かったですね」
木造の部屋、重いカーテンの掛かった窓。室内の棚には丸められた布が並べられ、室内には作りかけの服や、半裸のマネキンなどが置いてある。
お揃いのモノクロのドレス、色違い、場所違いの頭に付けた大きなリボン。ミイロ(赤のリボン)とロミオ(黒のリボン)、双子の二人は、驚いた顔で俺たちを出迎えた。
「ふふふ。連れが優秀なもので」
頑張って戦ってくれたマルメロの貢献。そして、先日俺たちを引っ張って“ファイアライオン”の魔物カードの入手まで手伝ってくれたアストラの手助けあっての成長。俺? 俺はあの……生きててえらい!
俺はポーチの中に腕を突っ込み、中から、十本ひとまとめにした、ゼリーチューブの束を一つずつ外に出し、テーブルの上に置いていく。
「はえー、頑張りましたねー」
「でしょー?」
古い通行路で出てきたフルーツゼリー、もはや今のマルメロの敵ではなく、巡回ついでにサクサク倒せる。素材も、一体につき一本か二本落ち、数日回っていればどうにか必要量を満たすことが出来た。
「それでは、さっそく衣装の作成に入りましょうか」
と、部屋を仕切って置いてある、暗いカーテンの裏、ガラガラと荷台を押してミイロ(赤リボン)が現れる。
荷台の上に置いてあるのは……でかいツボ。
「ツボ? 仕立て屋にツボ? 何に使うの?」
「衣装の作成に使います」
「どの過程に?」
俺たちの正面に座っていたロミオ(黒リボン)も立ち上がり、部屋の奥、窓際に置かれた、人ひとりが入れそうなツボの前へと歩いていく。まぁ、ツボに素材を全部入れて、そこから繊維を作ったり……とか? あと染め物とか。
「ミイロ」
「はい、兄さま」
赤リボンがこちらに歩いてきて、テーブルに置かれたチューブの束を両手に一つずつ。彼女はそれを持ってロミオの傍へ。
「入れなさい」
「はい」
ぼと、ぼとと、チューブがばらけて中に投入。チューブごとか。ミイロ(妹?)は丸テーブルとツボの前を何度か往復し、ゼリー素材を中に全部入れていく。と、ロミオはツボの前に置かれていたでかいヘラ? みたいなのを手に取って、ツボの中に先を入れる。
中で何が起きているんだろう。ロミオはヘラでツボの中身を混ぜている。動きを察するに、中にはどろどろとした液体が入っていそうだ。やがて、ツボの中から光が溢れ出す。
「兄さまは、今から集中なさいますので、なるだけ静かにしていてください」
と、ミイロ(赤リボン)がこちらを向いて呼びかけてくる。俺は返事をする。
「はい」
「今喋りましたか?」
俺はぶるぶると首を横に振る。
そんなこんなしているうちに、ツボの中の光が強まっていく。ロミオ(黒リボン)は、若干息を乱しながら一心不乱にヘラで中身を混ぜているようであり――
やがて、ボンッ、と音がする。派手にツボの中から白煙が吹き出、ついでに虹色の紙吹雪やリボンなども飛び散っている。
「成功です!」
「分かりやすいね!」
続いて、ペイッと、ツボの中から何かが吐き出された。べちゃと、それは木製の床の上に落ちる。
落ちているのは、黄緑色の……水着? 肩紐があり、体に沿うように胴体があり、しかし太ももを覆う気はなく、下半身は下に尖った三角形の布地で途切れている。まぁ股と胸は隠せそうだが。
隠す部位的に女性用の形だが、種族に適応すると言っていたし、あれは俺みたいな男性が来た場合形が変化するのだろうか?
しかし半透明だ。それは肌を隠すための体をなせる衣装ではない。
「出来ましたよ!」
と、ミイロはそれを拾って俺たちの元に持ってくる。
「さっそくお試しになりますか?」
「マルメロを呼ぼう。きっと似合うはずだ」
確か、それは、着ている服を上書きし、着ることになるとか言っていた。俺がその半透明なゼリーを着たら、見せてはいけないものがあらわになってしまうだろう。マルメロなんて、もとから裸だし、着ても着なくても似たようなものだろう。
俺は懐からライオンのカードを取り出し、マルメロ改めライオン人をその場に召喚する。
「あら、可愛らしいお姉さん」
モノクロドレスの少女は、現れたマルメロの顔を見上げる。
「マルメロ、ロミオとミイロだよ。ミイロさんとロミオさん、マルメロです」
「こんにちは、私はマルメロ。ご主人さまに仕える忠実なしもべ」
モノクロドレスの女の子が、少し背の高い、ライオン人の正面へと回る。
「では、さっそくお身に着けになりますか?」
「お願いします」
と、ミイロはその手の黄緑のぐにゃぐにゃを、マルメロの胸元へと押し付けた。それだけだった。
少しの光、服は変形してマルメロの体を取り込み、その体を覆って、まとっていく。
服の変形が終わった。
「お……おう」
体毛の生えたライオンの獣人の上から、黄緑色のぷにぷにとした生地が服のように体をまとっている。幸い、人が着るときにそれは不透明になるようだった。ゼリーの上から、マルメロの体の模様は窺えない。
「……ご主人さま、顔が近いです」
俺は慌てて彼女の体から顔を離す。
「あぁごめん。触ってみてもいい?」
「……大丈夫なとこなら」
服の形は、大きく変わっていないようだ。しかしサイズはジャストフィット。ゼリーの水着は彼女の体にぴったりと寄り添い、彼女の比較的女性的な体の輪郭を、露わにしている。肩ひもがあり、それから胴体を覆って、下半身は下三角のパンツの一体型。
俺は、マルメロの体の、脇腹あたりを、服の上から指で触れてみる。ぷにぷにと、気持ちの良い触感が返ってくる。ひんやりしている。暑い時期にこれを着て泳いだら快感だろう。
「それは“ゼリースーツ”。水中で水上へと浮かぶ効果、それから、水中での機動力が上がる効果があります」
ふーん。それはグリーンフロッグでも賄えそうな効果だったが、まぁ強いライオン人の形態を保ちながら新しい能力を得るのは、悪くないかもしれない。
しかし、水中に適した能力、フルーツゼリーは水辺の生き物なのだろうか? 確かに地上ではあまり見ないし、俺たちが見たのは地下の洞窟の中ばかり。湿った場所の方が見かけている。あるいは、服にした時と元のモンスターとで、得意な能力は異なるかもしれないが。
それに、そうか。マルメロにカエル人になってもらって、俺がこれを着るという考えもある。そしたら二人で、水の地形もスイスイだ。
似合って……は、ない。黄緑色のぷにぷに、着ててもギリ違和感はないが、水着ならいつも着るようなものではないだろう。まぁ効果的なアイテムだ、お洒落用じゃない。マルメロに服でもと思っていたが、これは常用が難しそう。
「これは素晴らしい品だね! 本当に代価は要らないのかい?」
「えぇ。もちろん、次からお代はいただきますが」
「もちろん! とは言っても、次にお代と服の素材をまとめて差し出せるのは、いつになるかな……」
今回は、フルーツゼリーという簡単な魔物、そしてそれだけを狩れる狩場があった。しかし、ダンジョンの中では雑多に魔物が現れる。魔物も強い。
「何はともあれ、作ってくれてありがとう! ちなみに、これを脱ぐときはどうすればいいのかな?」
「触って念じてください。なんとなく脱げます」
ふーん、と、俺はマルメロの方を見つめる。
「私では脱げませんよ」
「あ、俺がやるのね」
俺はマルメロの体に手を触れ、念じる。と、黄緑のゼリースーツはしゅるしゅると得体の知れないいろんな光を放ちながら変形し、俺の手元の中でまとまって……それは、小さな卵の形を取った。黄緑色の透けた、卵型のアイテム。
「それは“衣装卵”。多様な種族に、特殊な衣装を着せられるアイテムです。ここ仕立て屋では、普通の衣服のほかに、魔物の素材を集めて作る“コスチューム”が製作可能です。作りたい服がある、素材が大量に余った、自分の体に能力が足りていない。そういう時はぜひ、私たちのお店に、おいでになってくださいね」




