3-14
「やっほー、アーシャー」
「おー、にーちゃん。今日は休みか? なんか上機嫌だな」
「ま、そうだね。久々に、残ってた心労が降ろせそうでね」
通りに面した、横長の建物の隣にある商店。店の正面はシャッターが開けばそのままカウンターがあり、俺はひさしの下に入って、店の日陰の中に居る、褐色と白布服の少女に話しかける。
アーシャは一度、通りを見渡して、ほかに客が居ないかどうか……あるいは、あの子が近くに居ないかどうかを確かめた。
「その件に関しては……あたしからも、あんたに礼を言わないといけないな」
「確かに」
「“確かに”、ではないよな」
「この借りは高く付くぞアーシャ」
「ここぞとばかりに……」
アーシャは、カウンターの上に両腕を組んで肘を置き、その上に頭を乗っける。
「んんっ。ま、今回は、あたしがにーちゃんに押し付けたようなもんだからな」
と、アーシャは改めて、俺にそう言ってくる。
「どちらかというと、アーシャは関係がないんじゃない?」
「そうかもな。でもあたしは個人的に、あんたに恩を感じてるぜ。今回の件に関してな」
まぁいつも俺がお世話になってるし。改めてアーシャから取り立てるものもないのだが。
俺に上機嫌だと言ってきたアーシャもまた、いつもより表情が浮かれていると、俺は感じた。
「つまり?」
「“つまり”じゃないよな」
「どういたしまして」
「……うん。その、なんだ。お礼としては……なんだけどな」
と、彼女は腰元の服を手で漁って、何かを取り出して見せてくる。
「これを……あげるよ。にーちゃんに」
アーシャが、手の中に握って差し出してきたのは……卵?
「“衣装卵”? なんかアーシャに色合いが似てるね」
褐色の下地に、赤や綺麗な白の模様が卵の表面に映っている。
彼女はこっちに差し出していた手をしまって、また腕を木目の上に乗せて顔を乗っける。
「それは、仕立て屋で作れる“衣装卵”とはまた違うもんだ。“敬愛の卵”っていう、別のアイテム。やれる事は似てるけどな」
「ふーん。“敬愛の卵”」
じーっと、俺はその卵を持ち上げて顔の前で眺める。
「やれる事は……まぁ、機能で言えば、それを使えばあたしと同じ格好になる。それだけで、ほかに特殊な効果はない」
「なるほど、記念品的な? でも、ずいぶんアーシャの個性が出たアイテムだね」
俺が聞き返せば、彼女は黙っている。卵から目を外してそっちを見れば、アーシャはじっと、じとぉーと俺を見上げていて。
「なに?」
「……そっちのねーちゃんに聞いてくれ」
「マルメロ。俺は“敬愛の卵”についての説明を求めるよ」
空を見ていたマルメロは、こちらに向き直る。
「“敬愛の卵”ですね。町の住民と親交を深めると、その証として住民から貰える、特殊なアイテムです。機能は今聞いた通り、貰った本人と同じ格好が出来るという小さなものです」
「へーーー」
俺はそこに脱力しているアーシャの方を向く。
「深まっちゃったか、親交!」
「あんまり変なこと言ってたら取り上げるからな」
アーシャは不機嫌な顔して顔を逸らしながら、そう言ってくる。
「これは、仲良くなったから貰えるの? それとも、俺に同じかっこして欲しいってこと?」
「あんたがそれ着て誰が喜ぶんだ? あたしは見たくねーぞ」
確かに。俺の日に焼けてないヒョロヒョロな体なんて出しても需要ない。魔物シェルたちに……着せようにも、あの“ブ”と“ポ”に着せるには露出が多いな。マルメロに着せるにしても、効果のないものを着せようとは思わないし。
「じゃあやっぱり、記念品的なやつ? なんでこんな機能が付いてんの? マルメロ」
俺が隣のマルメロに聞けば、マルメロは飛んでるトンボを目で追っていた。
「まぁ、使わない前提というか。自分を大事にしてくれる人間は使わない、自分を大事にしない人間には渡さない。そういうジレンマを孕んだやつ……的なのじゃないですか?」
「ふーん」
よく分からない。まぁでも、見た目がアーシャの模様だから、一見して分かりやすいかもしれない。
「まぁ、なんでもいいか。アーシャからこんなのが貰えるなんて嬉しいよ! ありがと! 後生大事にするね!」
と、俺がそう言えば、褐色黒髪ポニテの少女は、いまだにカウンターに顔を乗せて、じーっと俺のことを見上げている。
「ほんとに、本心から喜んでんのか?」
アーシャはやたら懐疑的なご様子。
「え、な、なんで? 嬉しいよ?」
「こんなのは、言われ慣れてるんじゃないのか?」
「あはは」
「“あはは”じゃないよな」
ふん、と少女はそっぽを向いた。
「ねぇアーシャ。ちなみにこれ……産んだの?」
卵型だ。聞いていいか迷ったが気になる。
「……は? 違うぞ、それは体の外に勝手に生成される奴だ。そこからじゃねーよ視線やめろオイ」




