3-10
「ご主人さま。作戦と何か違いませんでした?」
マルメロがこちらに歩いてくる。
「計画通りだ。自分を騙すにはまず味方からってね」
「敵を騙してくれませんか?」
マルメロは、そちらに座り込んだヴァンピを見つめながら、俺の傍まで近づいてきた。俺の体の疲労がすっかり消えている、が、精神の消耗は消えていない。俺はよろよろと、植物の地面の上に立ち上がる。
「ずいぶんと……熱のこもった、告白でしたね」
マルメロの顔を見上げれば、彼女は口を少し尖らせたような表情で、そう言ってくる。
「……私のところまで、聞こえていましたよ。……さっきの」
告白? あぁ、さっきの、あれね。
「……あぁ、説教のやつね」
「説教? ……。あぁ。熱血系のやつ……ですか」
んんん、と、マルメロは咳払いをする。
「ご主人様。写影機を」
「そうだねー」
俺は、懐から、L字の黄色いケースを取り出した。カードが……俺はポーチの中に腕を突っ込み、探って、透明なカードを一枚取り出し、ケースに嵌め込む。
「このまま撮ればいいのー?」
「はい。……ヴァンピさんは、デュエルフィールドが終わったので五体満足なんですけど」
「あれ、じゃあ今は失敗する?」
「本人が負けを認めているなら、いけると思いますよ」
俺は、写影機にはめた透明なカードを、その十字線をヴァンピの上に合わせる。黄色いケースが、ざわざわとその色味を不規則に変えていく。
俺は、ボタンを押した。ぱち、と、音がして、カードにヴァンピの体だけが浮いて写される。無事に撮れたらしい。
「ほいよ。何でも言うことの聞く、“スパイカード”だっけ? ヴァンピのが撮れたよ」
「はい。……ん?」
俺はマルメロにカードを渡して、ヴァンピの方へと歩いていく。
「ヴァンピ」
声を掛ければ、樹木の地面の上にへたり込んだ彼女は、俯いた顔をこちらに上げる。
「俺に負ければ、俺の言うことを何でも聞いてもらう。そういう約束だったな」
少女は、地面に目を落とす。
「……好きにしなさいよ」
「自分で立てるか?」
俺は、少女に腕を差し出す。少女は、俺が差し出した手を、ただじっと、ぼーっと眺めている。
「何を、させる気なの?」
少女は、不安の混じった声で、俺に聞いてくる。
「町へ行くぞ」
「え? 盗んだフライパン? 別にいいですよ! トリジさんには謝ってもらってたし、代金も立てかえってもらってたので!」
「いや、あの……こうしないと帰れないので」
「帰れない?」
「あ、いや、そうじゃなくて……その。ぬすんで、すみませんでした」
俺たちは、ヴァンピが町の人たちと話しているのを、離れた所から見守っている。
「ご主人さま。さっきの巨大グモはやはりダンジョンマスター個体のようでした。撃破に成功したので、ドロップ品に“夕方の化石”が入っていますよ」
「ん? なに? “夕方の化石”?」
隣から、マルメロが話しかけてくる。彼女の手には、オレンジ色の、透き通った結晶が乗っている。とても色の濃い、見たことのない結晶だ。
「レアなの?」
「そうですね。各地に散らばる超強力な奴らを倒すと、少しずつ手に入っていきます。集めていくと何か起こりますよ。これ以上は誰かに聞いてください」
「誰に?」
マルメロは、黒い腕を俺の腰の魔法のポーチに突っ込み、ごそごそと中に入れなおしている。
「あの……ごめんなさい。これ……返します」
そこは通りに面した長い建物の二階。仕立て屋さんの中。
ハサミを持ったヴァンピが、それをロミオに返している。
「何か、良いものは切れた?」
「え……いえ。あんまり……」
「そう。これは、布を断ち切るハサミ。欲しければ、商店できっと取り寄せられるけど……少し使いたいだけなら、ここに来れば、少しの間だけ、使っても良いですよ」
「……はい。ありがとうございます」
俺は、二階の外廊下から、中の様子を見守りながら、隣のマルメロに話しかける。
「そういやマルメロ、なんか俺の知らないスキル使ってなかったっけ?」
“黒牛魔”形態のマルメロが、こちらに顔を向ける。
「あぁ、“落星”ですね。今もありますよ」
と、彼女はカード化して、それを手の平の上に乗せて見せてくる。
「いつの間に?」
「あの時ですよ」
「あの時?」
あの時って、今さっき? 見たことない火力出してたけど。
「はい。スキルとは……まぁ、習得条件はいろいろあるんですが、そのうちの一つが“一つの動きを極限まで洗練させる”というものです。私はひたすら、無心になってただただ殴り続けてたので、なんか覚えちゃったみたいですね。殴り系のスキルです。精霊なので、カード化という出力なんでしょうね」
ふーん、と、俺はそこに乗ったカードを見つめる。
「なんか知らんけどすごい」
「あ、はい……ありがとうございます」




