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「はっ! どうしたの? 私の顔一つ触れない腰抜け! 空を飛んで近づいて来たって、私を傷つけられないのなら……」
俺は、鞘をまとったままの刀を振り上げ、両手で握り頭上に掲げ、ロケット加速の勢いのまま。
空を浮かぶ少女へと、殴りかかる。
「暴力人間!」
黄色い剣を片手に、両翼が前に動いて、ヴァンピの体を前方から包み隠す。黒い翼の上から、鈍い音を立てて刀が翼の中に埋もれる。
「そんな半端な覚悟でこんなとこまで来ないで!」
翼に阻まれた視界の向こうで、彼女は鋭くこちらに投げかける。
「うるせぇ! もう他に居ないんだから、俺が出るのは仕方ないだろ!」
俺たちの戦う真下の地面で、爆発音の連鎖が始まる。マルメロが交戦を始めたようだ。
「あはは! 雑魚! 雑魚手下!」
楽しそう。
「お前の手下もここまでで倒されてきてるだろ!」
むっと、少女が表情を変える。
「戦って散った私の仲間を貶すのはやめて!」
「相手の立場に立って考えてものを言え!」
“飛翔”が俺の体を空中で突き動かし、彼女は自前の謎の浮力でくるくると空中を踊ってかわす。
“飛翔”は飛び続けられるスキルじゃない。5秒ごとに浮かび上がり、俺は徐々に落ちていく。やがて、ヴァンピの手の届く場所から、俺は下に落ちて行って。
べ、と、白髪の少女は頭上で小さく舌を出している。
「ご主人さま! 魔物の糸があなたを狙っています!」
風圧を感じる。真下を見れば、俺に押し寄せる太い糸の柱が見えている。
避けるのは簡単だ。もう溜まっているロケットを発射させて急加速すればいい。だが、どうせなら。
俺は“瞬転”の呪符を切る。白い糸の濁流が俺の背中に触れるか否か。
直後、目の前にヴァンピの背中が現れる。真下から、真上へと放たれた蜘蛛糸が天へと昇ってくる。
俺はブースタージャケットのロケットを起動させ、音に彼女が顔をこちらに向けて。
「オラァ!」
彼女の背中から勢いよくタックル。空中をロケットが二つの体を推して飛んでいく。下から湧き上がる間欠泉に、彼女が大きく広げた翼が、捕まった。
「なっ――」
俺は、彼女が糸に体を引っ張られると同時に、飛翔で彼女の体から離れる。俺は落ちていきながら、糸の濁流に巻き込まれ、天井まで飛んでいくヴァンピの体を見送った。
天井に衝突し、蜘蛛の糸に捕まったその瞬間なら、彼女はまともに動けず無防備なはずだ。今狙うか……? ……いや、彼女が地面に居ないと当てられない。
俺は落ちていく。“飛翔”は五秒後、下を見れば、連鎖する爆発の音。白い巨大なクモの体の周りを、赤いオーラをまとった黒い人影が走り、ちょこまかと避けて回りながら巨体を殴っている。
5、4、3、2、1……俺は刀を抜いて体を反転させ。
「ぜぁああっ!!」
落ちた勢いのまま、巨大クモの頭部に刀を突き刺す。“飛翔”を同時に用いて、落下の衝撃を殺しつつ、柔らかい白クモの体表の上に落ちた。ぼす、と足と膝がそこに沈む。足元からは、特に反応がない。この刀では短すぎて、有効なダメージが入っていないのかも。この大きさだし、あるいは外皮すら貫けていないのかもしれない。
深く刺さった刀を抜いて、鞘に収めた。そこの地面に並んだ巨大な複眼が、一斉にこちらを向いた。
「すまん、痛かったか? 丁度いい所に居たもんでな。ついでに攻撃させて貰ったよ」
足元が揺れ、背後を見れば、持ち上がったお尻の突起の先が、俺の方を向いている。
蜘蛛の糸は、そこまで連射が出来ず、二回撃つと間に時間が入っている。また、蜘蛛の糸の二回の連射間隔より、ロケットが二回使える時間の方が短い。
突起の穴の中で、何かが湧き出すのが見えた。同時に、俺はブースタージャケットのロケットスキルを発動させる。
俺の体は再び空へ高く飛び上がる。天井までは、届くだろうか。見上げれば、ヴァンピは天井に張り付けられているが、捕まったのは片翼だけ。べちゃべちゃと伸びる白い糸の中、ヴァンピは必死に拘束を逃れようとそこでもがいている。
あれだけ無防備なら何か仕掛けたいところだが、なんせこのくそでか空間の天井に居るので、あそこに辿り着くまでも一苦労だ。“雷撃”は……いいや。“瞬転”は、最後の一枚を今さっき使った。
カードホルダーに入れられるカードも、“タイヨク”を残してマルメロに使った。マヒマヒソードは、どうだろう、彼女がしぶとく握っているようだが、糸に巻き込まれたのは右翼、そして右手であり、黄色い剣は糸と天井の間に埋もれている。
「あはははは! 味方の攻撃に巻き込まれて動けなくなったか! 無様だな!」
白い糸はフレンドリーファイアが有効。
ちっ、と彼女の表情が歪み、彼女の背中に灰色の目が現れる。それの対策はさっき知った。俺は目を逸らし、放物線を描いて、白クモからも、天井のヴァンピからも離れつつある。
さて……どうやってヴァンピを倒すかな。ゴールにいくつかのアイデアはあるが、そこに行くまでの道が見えない。
「ゴールデンちゃん、なんか助けてくれない?」
頭にへばりついた黄金の餅はぷるぷると震える。多分否定だ。乗っ取りは二人に通じないのか。そして、さっきの一戦でエネルギーも消耗している。“幻霊”の体を発揮して力を使えるのも、あるいは一瞬なのか。
マルメロはなんだかんだ善戦しているようだ。白クモの体の周囲で動き回り、糸も体の動きにも巻き込まれず、ただ一方的に攻撃している。だが、巨大クモの方もそこに鎮座し続けており、ただ殴られているというよりか、あまり効いてないから動いていない、という風にも見える。
白クモは、お尻から発射され、頭にへばりついた白い糸を、お尻を動かし適当に引きちぎる。白い糸は伸びて、千切れた勢いのまま後ろの壁に飛んでいく。地面には、さっき放たれた、魔物シェルの二人を狙った糸がまだ残っている。かなり残留性が高い、あるいは消えない物質なのか?
そして、体の近くを動き回るマルメロを狙うのを諦めたのか、白糸の発射口は、明らかに離れた俺の方に照準が向いている。今から、しばらくあれに狙われながらヴァンピと戦わなきゃいけないかも。
と、ようやく糸を引きちぎり、天井をヴァンピの体が離れた。片腕が獣のそれに変わっていたが、天井を離れたと同時に、すぐに人の白い腕に戻っている。変身状態を解くデメリットが分からないから、多分、あの強化形態は維持するのにエネルギーが必要になる。
ヴァンピだって……消耗してきているのだ。節約を考えるほどに。
「絶対に許さないんだから! そこで待ってなさいよ!」
と、ヴァンピは空を降りてきてこっちに向かってくる。遠距離攻撃も持っていたはずだが。向こうから近づいてきてくれるのはありがたい。
「おいおい、やっちまったなぁ! ジャイアントクイーンスパイダーさん!」
「ぶっ殺してやるわトリジ!」
「簡単に殺すとか言ってはいけません!」
翼を広げた白髪の少女が、俺へと下降してくる。
「簡単にじゃないわ! あなただけ、特別によ!」
「そういう問題じゃありません!」




