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「いろいろと合点が行きましたよ! 今回の、この特殊マップ! おそらく、ヴァンピさんがあのダンジョンマスターから、“ダンジョンマスター権限”を奪うことで作成しています!」
黒牛の魔人ことマルメロが興奮気味に叫んでいる。とりあえず、俺は自分に装備していた色々を手で外し、三人に再分配していく。
「ダンジョンマスターって……つまり、[層樹林]のボスってこと?」
「正確には違いますね! ダンジョンマスターは、ダンジョンの管理権限を与えられた管理者です! それとは別に“ダンジョンボス”という個体が、ダンジョンには設定できます!」
俺は、二部屋ぶりの黒髪の少女に向き直る。
「ポイズンアント、少しは休めた?」
「はい。すみません、私はあるじ様の隣を空けてしまいました……今から、私はあなたの隣で、この命が尽きるまで戦う所存です」
「そっか。ありがとね」
俺は少女のさらさらな髪を上からそっと撫で、すぐに手を離した。
マルメロに向きなおれば、彼女はまだ説明を続けている。
「まぁ強くないと手下が言うことが聞かないので、ダンジョンマスターは強力な個体が多いですが……この[層樹林]にはダンジョンボスが居ないので、あの巨大クモはただのダンジョンマスターですね。マスターがボスを兼ねることもままありますが、あのクモは違います」
俺はマルメロに聞き返す。
「ふーん。その管理者さんが、どうしてヴァンピとお知り合いに?」
「さぁ……過程までは分かりませんが。まぁなんとかして接触して、その権限をヴァンピさんに奪われ、今回の特殊マップが生成されたということでしょう」
装備の調整が終わり、俺たちは改めて、向こうのでかいクモに向き直る。ヴァンピと、ダンジョンマスターのジャイアントクイーンスパイダーとやらは、空間の奥に佇み、ただ俺たちの方を見つめている。
「ま、そっちの疑問はどうでもいいや。俺たちのやることは、あの子がもう反抗してこないまで、ぼこぼこのぼこにぶちのめすまで」
「あ、あのすみませんご主人さま……あの巨大クモを倒す算段が、ご主人さまの中にお有りで?」
「あぁ? なんでもいいからやるんだよ」
「あ、はい。そうですね」
俺は、白いクモの頭の上に収まった、小さな少女な顔を見上げる。少女はまっすぐこちらを向いており。彼女の赤い瞳と。
目が合った。
「準備はいいかしら!」
「そっちこそ! 今度こそ負ける覚悟は出来てるか!」
遠く向こうの奥、ふわふわの白い毛の上にあぐらをかいて座っていた彼女は、立ち上がって翼を広げる。
「ぎたぎたにされたいのね!」
「やってから言ってみろ!」
ぐぎぎと、少女の口の形が歪んだ。
「始めるわよ! もう容赦なんて、してあげないんだから!」
空間の奥に見えているのは、巨大な影を落とす真っ白なクモの魔物。前方頭部の上に、翼をはやした白髪の少女が乗っている。ここは樹層に囲まれた一つの大きな空間。
白煙が湧き立ち、俺の両隣に青い巨鳥が、真っ青な甲殻のオオアリが現れる。ナックルとベストを身に着けた黒牛の魔人が俺たちの前に出て、肩にへばりついた金色の餅が、俺の頭の上に登ってくる。
俺たちの撃破目標はヴァンピ。あっちのでかいのは、出来れば無視したいけど……絡んでくるなら対処しなきゃいけない。
空間奥、巨大なクモの上で、ヴァンピがこちらに手を振りかざす。
「ジャイアントクイーンスパイダー! やってしまいなさい!」
巨大なクモが、背後のお尻を動かし、持ち上げる。そのお尻についた鋭い突起は、180度曲がって俺たちの方を向き。
「攻撃、来るよ!」
突起の先端から、真っ白な糸の奔流が吐き出された。
それは、巨体から生み出されるあまりにも太い糸。俺よりも大きい魔物シェルの二人を、そのまま丸ごと飲み込むかのような糸の濁流。
青い巨鳥が空に飛び立つ。俺とマルメロは身のこなしが早く、それが到達する前にわきに避けることが出来た。
その場に残ったのは。
「……ッ! ポイズンアント!」
ポイズンアントの体は大きく、また彼女は素早く動き回るタイプでもない。あまりにも遠い向こうから、あまりにも速い速度で、あまりにも大規模な攻撃が放たれて。
彼女は、逃げ先をどちらにするか迷ううちに。
その白い糸が彼女の元に到達する。
「ポイ――」
飲み込まれた。白い濁流に飲まれた彼女は、そのまま背後の壁の下まで流される。糸は壁まで伸び、彼女の体ごと、糸の端が壁に張り付いた。俺たちの間に、巨大な太い糸の塊が横たわる。
「ポイズンアント!!」
「ご主人さま! 魔物よりご自分の身を!」
「“邪眼”!!」
と、彼女の声が奥から聞こえた。俺の体は……縛られていない。単体スキル? 効果範囲外? いや、前に見たときは俺とマルメロの二人が同時に掛かっていた。
今、空に飛び立ったばかりの青い巨鳥が、体を硬直させて落ちてくる。落ちてきたその鳥の体を。
空間の奥の白クモから放たれた糸の濁流が、とらえた。
「ブルーバード!!」
糸の端は地面に落ち、青い巨鳥は上から白い糸に抑えつけられ、地面でばたばたともがいている。まだブルーバードの生存は確認できるが……。
この糸を解除する手段がない。
「あはははははは!!! “仲間”、“仲間”って! すぐに二人も使えなくなってるじゃない! 使えない“仲間”を呼び出して、あなたはいったい何がしたかったの?」
遠く向こうの上空で、彼女が笑っているのが聞こえる。
俺は向こうを警戒するが、三発目は飛んでこない。ブルーバードは、糸の中で体をもがいているが、抜け出せない。俺は糸を手で触れようとして、手を止める。粘着性があり、俺も取り込まれる可能性がある。二人が自力で抜け出せないのに、俺が引っ張って何が変わるわけでもないだろう。
やがて、ぽふと、糸の中で膨らんでいたものが消えて、糸がしぼむ。あれだけの粘着性のある糸をくらい、体から剥がせなかった。おそらく呼吸器を覆い、張り付いたのだ。窒息ダメージで、体力がゼロになった。
赤い光が二つ、糸の中から飛んできて、ポーチの中の、魔物シェルの中へと戻っていく。
そうだ……一回王手を取ったぐらいで、俺は調子に乗っていた。状況はもう変わっている。あっちはさらに強力な駒を呼び出し、俺の手持ちの武器が奪われ、残りの資源の消耗も激しく。“瞬転”の呪符は残り一つ、“グリーンオーブ”は残り二つ。
高性能な道具に頼って無理やり詰め切ることも、自身の体を犠牲にしながら高リスクに立ち向かうことも。俺はすでに消耗している。仲間も疲れ、そして敵はさらに強くなり。




