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勝利の代償

 宗次が篤史と会えず村へと戻る中


 篤史は和田の里に新たな狼煙が上がったのを確認する


 色は“黒”

 救援要請の狼煙に1本足され2本になり

 戦闘区域に2本が上がり

 本数は“4本”



 “マ”の討伐が終わった事を意味する狼煙であった。


 篤史はその狼煙を見ると樹上から降り紙に伝言を書き込み村へと走る


 もう少しで村へと着く…

 と言う時に、村の入り口に宗次の姿を見つけた篤史は鏑矢を用意する。



 宗次は先の野盗との戦いの中で野盗達の卑怯な戦いで苦戦していた時に篤史が助けてくれた事に気づいていた。


 そして、武士の誉れを重視するが故に

 『手出し無用』

 と言ってしまった事を気にしていた。

 宗次がもっと強ければ、篤史は手出ししなかったのでは無いか?

 自分の弱さを棚に上げ『手出し無用』と強がっていただけでは無いか?…と。


 やがて、篤史に会えなかった事が篤史に見放されたかもしれない…と言う不安を宗次の中に生んでいた。



 ヒューーーーーーーーーーールルル…


 自責の念と戦いながらとぼとぼと歩く宗次の耳に鏑矢の音が聞こえた

 失速すると音が変わる篤史の鏑矢の音だ


 宗次は顔をあげ鏑矢を探すと宗次の家の前に鏑矢が刺さっていた

 不思議と顔に笑みを浮かべて宗次は鏑矢に近づき鏑矢を抜くと矢に結ばれてる文を読む


 『勝利』


 それだけが書かれた文を見た宗次は、篤史が今回の野盗との戦いを共に喜んでくれてると感じ、家に入ると母トヨに報告した


 「母ちゃん!篤史も勝ち戦を喜んでくれてるよ」

 と…


 しかし、トヨの反応は宗次の予想とは異なる反応を示した


 『勝利』


 たった二文字の文を見たトヨは安堵で涙を流しながら

 「良かった…」

 と、その場に座り込んでいたのだ


 「母ちゃん?」

 普段は気丈に振る舞う母トヨが涙を流しながら座り込んでいる姿に宗次は驚き、慌てふためく


 「なんだよ母ちゃん、そんな泣くほどのことか?」

 状況が理解出来無い宗次は、トヨの近くに座ると母の背をさすりながら笑う


 そんな宗次の顔を見つめながらトヨは


 「父ちゃん達“マ”を倒したのよ」


 と笑みを浮かべて宗次に言う


 「えっ…」

 ようやく篤史の文が持つ意味を理解した宗次が少し照れながらも


 「そうか、父ちゃん達勝ったかぁ~」

 と、宗次らしく笑うのであった。

 


 トヨと宗次が“マ”の討伐成功を知った翌日、村に早馬が訪れ詳細が知らされた。


 死者2名

 (和田の里、妙義山のモノノフ)

 負傷5名

 (和田の里の陰陽師、妙義山の陰陽師、榛名山のモノノフ、赤城山の陰陽師とモノノフ)


 討伐者…赤城山のモノノフ、宗則


 既に実体化していた“マ”との戦いは熾烈をきわめ、近隣からの援軍が到着した頃には和田の里のモノノフは帰らぬ人となっていた…


 そして、実体化していた“マ”による物理攻撃で多数の負傷者が出ていた

 しかし、彼らは勇敢に戦い妙義山のモノノフの自己犠牲の末に宗則が見事“マ”を討伐した

 と言う事であった。

 

 この知らせを聞いた村人達は宗則を称え湧き上がる…


 そんな中、フサだけは負傷した陰陽師が気になり浮かない顔をしていたのであった。




 早馬からの報告があった日から2日後、


 村に向かう馬車の中で横になり、安静にしていた宗則が君彦に頼むように言う


 「すまん、起こしてくれ…」


 武士としての矜持が

 横になったままで村に入る事を拒む

 

 宗則の気持ちを察した君彦は宗則が起き上がるのを手伝い、気休め程度の護符を貼り付ける…


 「助かる、楽になった」


 嘘だとわかっていても、強がっていると知っていても、君彦は宗則の誇りを傷つけぬように気を使い


 「武士は鍛え方が違いますね」


 と、返すのみだった。



 村に入ると村人達が馬車を囲むように集まり、口々に賞賛の言葉をかけ

 宗則や君彦はそれに笑顔で応えていく

 

 やがて馬車が宗則の家の前に来ると家の前でトヨと宗次が宗則を出迎えた…


 「皆さん、私の家で話しましょう」

 君彦が意図的に村人達を神社へと連れて行く


 そして…


 村人達の視界から外れた宗則は力尽きて馬車に倒れ込む

 「父ちゃ…」


 宗次が声を上げかけたがトヨが咄嗟に宗次の口を塞ぎ黙らせると


 「父ちゃんを家の中に…手伝って」

 小声で宗次に伝え、馬車を操作していた頼彦の手を借り3人で宗則を家の中に担ぎ込むのであった。


 「かすり傷だ…」

 横になり、落ち着いた宗則の第一声がこれであった。


 「恐らく胸の骨を数本…足もかなり痛めてます」

 頼彦は宗則の体を心配するトヨに宗則の容態を伝え、治療法を教えると


 「宗則殿は、まこと立派な武士でございます。」

 そう言って宗則の家を後にしたのだった…


 それに合わせるように宗則はようやく苦痛の表情を見せた

 額に溢れる汗を拭きながらトヨは宗則の帰還を喜び

 

 「おまえさん、よく帰って来てくれた…

 生きて帰って来てくれてありがとう」


 と、再び涙を流す


 状況がつかめない状態ではあったが、武士としての矜持がわからぬほど未熟では無い宗次は、

 ただ無言でトヨの手伝いをしていた…




 「皆さま、そろそろ君彦さんを私に返してくださいまし」

 君彦が村人達に囲まれながら話をしていると、フサ追い返すような口調で村人達を解散させ


 「お体の様子はいかがですか?」

 君彦に茶を出しながらフサは君彦の容態を気にして尋ねたのだ


 「おや、頼彦では無く私ですか?」


 少しとぼけるような言い方を君彦がするも、


 「先ほどから左手が動いておりませぬが?」


 と、フサは真剣な眼差しで君彦を見る

 女の感では無い、もし頼彦が怪我をしていたのなら、君彦は頼彦に馬車を任せたりしないのだ。

 故にフサは怪我をした陰陽師が君彦だと確信していたのだ


 「バレてましたか…

 けど宗則に比べたら、こんなのもかすり傷ですよ」

 と、添え木をし護符を貼り付けた左腕を見せ微笑むのだった。



  「おかえり、飯あるよ」

 矢作達が家に帰ると篤史は淡々と作業を続けていた


 「明日」

 ※明日は宗則を連れて森へ行く…の略

 矢作がおもむろに話し出すと


 「篤史は?」

 ※篤史は連れて行くの?…の意

 エミも短く尋ねた


 チラリと篤史を見た矢作は


 「うむ」

 ※そうだ、篤史と2人で行く…の意

 とだけ言うので


 「篤史、明日は宗則さんと森へ行くのよ」

 と、篤史に伝えるのであった。

 


 

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